減量や健康食品に依然として高い関心が集まっているが、ヘルシーな食生活を心がけている向きには耳を疑うような研究が発表されている。高脂肪食品を良く食べている人ほど痩せていてコレステロール値が低いというのだ。いったいどういうことなのか。
■高脂肪乳製品好きは痩せている!?
アイルランド・ダブリン大学の研究チームが2017年2月に栄養学系学術誌「Nutrition & Diabetes」で発表した研究は、チーズなどの高脂質の乳製品を日常的に摂取している人々は、体脂肪が少なくその結果BMI値が低い傾向があることを報告している。バターやチーズ、生クリームなどの高脂肪の乳製品はこれまで肥満の元凶とも考えられてきたが、あまり気にしなくてもいいばかりか、糖質の代わりにむしろ積極的に摂ってもよいということになり、乳製品好きには確実に朗報と言えそうだ。
研究では18歳から90歳までの1500人について、4日間の食生活と健康状態を詳しく調査している。食事の中で今回は特に乳製品の食習慣と消費量にフォーカスが当てられた。調査の結果、乳製品の消費量が多いグループは明確にBMI値が低くて体脂肪が少なく、ウエストサイズが細い傾向が浮き彫りになった。さらに乳製品をあまり摂らないグループに比較してインスリン感受性が高いことも判明した。インスリン感受性が低下すると、高血圧や糖尿病をはじめとする、さまざまな生活習慣病を引き起こす要因になると考えられている。
高脂肪で飽和脂肪酸の多い乳製品は“悪玉コレステロール”と呼ばれ心臓疾患の主な要因と考えられている「LDLコレステロール」を増やすという説もあるのだが、今回の調査で乳製品を多く摂取するグループと、それほど摂取しないグループとまったく消費しないグループの間に、LDLコレステロール値の違いはなかったということだ。つまり乳製品の摂取が高コレステロール値に直結するものではないということだ。
興味深いのは、乳製品の中でもヨーグルト(低脂肪ヨーグルトではない)を最も多く消費しているグループが、最も低い平均体脂肪率であるという点だ。逆に言えば、ローファット版のヨーグルトや牛乳の存在価値はほとんどなさそうであり、逆にコレステロール値を高めるものになっているともいえるのだ。
どうして乳製品を多く消費するグループが痩せているのかについて詳しくはまだわかっておらず、今後の研究に委ねられているものの、これまで肥満の有力な“容疑者”であったバターやチーズなどの乳製品の嫌疑はひとまず晴れたといっても良さそうだ。もちろん食べ過ぎれば肥満に繋がるのは当然のこととして、今回の研究では「太るから」という理由で乳製品を断ったり控えたりする必要はないということになる。
■揺らぐローファット乳製品の存在意義
すでに少し触れた話題だが、乳製品が肥満に直結するものではないということは、巷に多く存在するローファットタイプの乳製品の存在意義を大きく揺るがすものになる。そして2016年の「National Obesity Forum」で発表された研究でもまた、乳製品は太るというこれまでの“定説”とはまったく正反対の主張が報告されたのだ。研究によれば、肥満と2型糖尿病を改善するにはむしろ脂質をしっかりと摂り、食事の中で炭水化物を減らして間食を控えることが有効だという。つまりローファット乳製品は減量のために必要ではないということだ。
オーストラリアの栄養学者、キャサリン・バクレア氏もこの主張に賛同しており、市場にローファット乳製品の商品レパートリーが年々増えているのに国内の肥満率の上昇に歯止めがかかっていない事実を指摘している。
もちろんローファット乳製品が開発され、商品化されたのはひとえに肥満防止や減量のための選択肢を広げるためである。しかしながらその意図は功を奏していないばかりか、場合によっては逆効果になることが示唆されることになったのだ。
そしてバクレア氏によればローファットの加工食品の中には、満足感をアップさせるために砂糖と塩の含有量を増やしている商品もあるという。これをバクレア氏は“糖=脂シーソー”と呼んでいる。つまり味を満足させるために、脂肪を抑えれば糖が増え、逆に糖分をカットすれば脂の旨さで補うという“バランス感覚”が働いているのである。
「フルーツヨーグルト、シリアル(グラノーラ)バー、チョコレートなどの商品に“糖=脂シーソー”がよく見られます。そして多くの人は“ローファット”の表示に安心して食べ過ぎる傾向があり、結局摂取カロリーが減っていない場合もあります」(キャサリン・バクレア氏)
パッケージの「低脂肪」のマークに安心してしまい、なおかつ満足感が少ないがゆえに食べ過ぎてしまうとすればまさに本末転倒である。ともあれ肥満防止と減量を目指す場合、脂質だけにフォーカスせず広く食事のメニュー全般を考慮すべきなのだろう。
■積極的に食べるべき10の高脂肪食品
では乳製品を含め、具体的にどのような“高脂肪食品”を食べればよいのか。健康情報ウェブマガジンの「Prevention」が、食べるべき10の高脂肪食品を紹介している。
1.グラスフェッドバター(Grass-Fed Butter)
草を食べて育った牛の牛乳で作ったバターがグラスフェッドバターだ。なかなか入手が難しく高級品でもあるのだが、ビタミンK2も豊富に含まれており健康に寄与する。
2.卵黄(Egg yolks)
卵黄にはビタミンA、ビタミンB、ビタミンD、コリン、レシチン、セレン(セレニウム)、カロテノイドなどが豊富でやはり健康に資する。
3.放牧育ちの畜肉のベーコン(Pasture-Raised Bacon)
これも高級品にはあるが、放牧育ちの畜肉のベーコンはコリンやビタミンB群、亜鉛などが豊富に含まれており、アルツハイマー病の予防に最適な食品だ。
>4.ココアバター(カカオバター)
ココアバターは豊富な栄養素に加えて抗酸化物質とオメガ9脂肪酸が含まれており、ホルモンバランスの維持と免疫機能の向上に寄与する。
5.アボカド
アボカドもまたオメガ9脂肪酸が豊富で、美肌効果とホルモンバランスの維持、消化機能の向上を強力にサポートする。またストレスの低減や妊娠率を高める効果もある。
6.ビターチョコレート(Dark Chocolate)
カカオ含有率70~80%のチョコレートをビターチョコレートと定義し、豊富なフラボノイド抗酸化物質が血流の流れを良くして心臓の健康を促進する。
7.ナッツとナッツバター
ナッツ類とピーナッツバターなどのナッツバターは栄養価、カロリー価が高く時間がないときの栄養補給に最適な食品である。またアルツハイマー病の予防になるほか、記憶力の向上、うつの緩和などメンタル面への優れた働きを見せる。毎日ひと握りのナッツを摂取することが推奨されている。
8.フラックスシード(亜麻仁)とチアシード
あまり日本では馴染みがないかもしれないが、フラックスシード(亜麻仁)とチアシードは“スーパーシード”と呼ばれ、オメガ3系脂肪酸をはじめとした普段なかなか摂取できない栄養素を豊富に含んでいる。また抗酸化物質としても働くリグナンが血中コレステロール値を低下させ心臓の健康をサポートする。
9.成分無調整の乳製品
先の話題にも繋がるが、牛乳でもヨーグルトでもローファット版を選ぶ必要はないようだ。乳製品にはビタミンDやカリウムをはじめとする健康に欠かせない微量栄養素が含まれており、心臓、血圧、インスリン感受性を健康に保つ。
10.ココナッツバター
ココナッツオイルとココナッツピューレを混ぜ合わせて作るココナッツバターは抗菌性に優れ、消化管を保護する働きがある中鎖脂肪酸を含んでいる。トーストに塗ったりオートミールに混ぜたりと手軽に摂取できるのも利点のひとつだ。
以上、日本では手軽に入手できないものもあるが、それでも卵黄やアボカド、ビターチョコレート、ナッツ類、成分無調整牛乳などは心がけ次第で問題なく日々の食事に織り込むことができるだろう。ポイントは調理などせずなるべくそのまま口にすることである。そしてもちろん、食べすぎは注意しなければならないが、いずれも栄養豊富な食品なので少量でも満足できる点が減量に有利に働く。食事内容を“高栄養&低カロリー”にシフトさせていくことが鍵のようである。
参考:「Nutrition & Diabetes」、「SBS」、「Prevention」ほか
文=仲田しんじ
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