世界的に進むフードメニューの“デカ盛り”化

サイエンス

 大食いファンの間でよく話題になる“デカ盛り”メニューの店だが、世界的に見ても外食メニューの1人前のボリュームが増えていることが報告されている。そしてこれが世界的な肥満傾向の主要因であると警告が発せられているのだ。

■世界的な外食メニューの高カロリー化

 WHO(世界保健機関)の調べでは過去40年で世界の肥満人口は3倍に増加しており、肥満はもはやグローバルな健康問題と化していることが指摘されている。世界的に“飽食の時代”を迎えているのだ。

 米・タフツ大学の「ジーン・マイヤーUSDA老化に関する人間栄養研究センター」をはじめとする国際的な研究チームが2018年12月に「ブリティッシュ・メディカル・レビュー(BMJ)」で発表した研究では世界6ヵ国(中国、ブラジル、アメリカ、インド、フィンランド、ガーナ)の外食の1人前のカロリーを調査している。

 ファストフードとレストランの2つにジャンル分けして各国それぞれランダムに選んだ111店の外食メニュー1人前のカロリーを計測したのだが(ガーナはレストランのみ)、世界的に料理の高カロリー化が進んでいることが示されることになった。総じて外食メニューの分量が多いことで知られるアメリカだが、今やインドやガーナのほうが“大食漢”であるという意外な実態も明らかになっている。

 平均すると1人前あたりのカロリーはファストフードが809キロカロリー、レストランメニューが1317キロカロリーであった。ファストフードはよく肥満の“犯人”扱いにされることが多いが、実はレストランメニューよりも33%、低カロリーになっている。

 1日3食+間食を前提にすると、1食あたりは600キロカロリー以内に抑えることが公衆衛生上推奨されているのだが、実態は理想とかけ離れており、97%のレストランメニューと72%のファストフードメニューの1人前の分量が600キロカロリーを越えていた。このうち4ヵ国の3%のレストランメニューは1食で2000キロカロリーを越えているという。外食をすればたいていはカロリー超過になることが示唆されているのだ。

 フィンランドでは社員食堂のメニューも調査されたのだが、これら社食メニューは他の2つの平均に比べ25%低カロリーであった。社員食堂ではやはり従業員の健康が配慮されているということだろうか。

 世界的に見ても外食メニューの高カロリー化が進んでいることが明らかになった今回の調査だが、個人レベルでは外食が続かないようにするなど食生活の見直しが求められているようだ。

■高級メニューは量が少ないほうが有難味が増す?

 高カロリーの外食メニューには気をつけなければならないのだが、飲食店経営側としてみれば料理のボリュームを減らすとお客が離れていくのではないかという懸念が生じてきても無理はない。

 だが真摯に料理と向き合う飲食店経営者を安心させてくれる研究もあるようだ。質の高い料理を出している限り、量を減らしても客は失望しないことが最近の研究で報告されている。

 米・パデュー大学の研究チームが2018年2月に「International Journal of Hospitality Management」で発表した研究では、レストランメニューのボリュームが消費者の認識に及ぼす影響を探っている。

 研究チームは2つの実験を行なったのだが、意外にも料理のボリュームがある程度減ってもそれほどメニューに対する消費者の評価が下っていないことが示されることになった。20%分量を減らしても顧客がメニューに対して感じている価値は低下しなかったのだ。

 顧客がそのメニューを高品質だと見なしていたり、消費意欲が高い場合はメニューの分量を減らすことでむしろ価値が高まっているというから興味深い。確かに高級店などでは量が少ないほうが有難味が増してくるのかもしれない。

 こうしたケースでは分量が最大で40%減ったとしても顧客の評価は下らないという。定評のある高品質のメニューであれば、ボリュームが半分近く減ってもその価値は低下しないのである。

 とはいっても消費者の中には単純に“腹を満たす”という目的で飲食店を利用する人々もいるだろう。たとえばいわゆる“ジャンクフード”など、品質は二の次と思われているメニューは、やはり量を減らすと消費者の評価は低くなる。

 したがって質の高い料理を出して顧客の期待に応えている限りにおいて、料理のボリューム面はあまり気にしなくてもよいようだ。

■1人あたり年間115kgの食品を捨てている

 肥満のほかにもうひとつ“大盛り”が問題になるケースがある。それは食品廃棄の問題だ。食品廃棄の主たる原因のひとつにボリュームのある料理が挙げられている。

 国連食糧農業機関(FAO)によれば、2016年に世界では年間13億トンもの食品が廃棄されていたという。ヨーロッパでも1年間に8800万トンもの食品が廃棄されており、1人あたり年間で115キロの食品を捨てていることになるのだ。

 食品調査NPO組織である「EUFIC」を率いるソフィー・ハイケ博士はこの問題に取り組む中心的人物の1人で、2018年4月にリトアニアの首都・ヴィリニュスで開催された食品廃棄問題対策会議「Food waste at home and ways to address it」で提言を行なっている。

 ハイケ博士はこれまでの科学的研究で食品廃棄について以下の3つの知見がシェアされるべきであるという。

●フードメニューに対しての認められた価値(perceived value)が食品廃棄に影響を及ぼしている。価値の高い食べ物を残すことに対する罪悪感などの感情面での反応が食品廃棄を減らすモチベーションになる。

●1人前のボリュームが食品廃棄に影響している。レストランは料理の分量を20%少なくすることで食品廃棄を大幅に減らすことができる。

●中高年はそれぞれの食品の価値をよくわかっているのであまり食品を捨てることはない。最も食べ残しているのは18歳から24歳の若者である。

「食品廃棄に関する研究は増えていますが、大きな一歩を踏み出すには、各国で共通の方法論、定義、およびデータ収集方法を見出す必要があります。今日の定義は研究者間で一貫しておらず、結果の比較可能性は国を跨ぐとより困難になっています」(ソフィー・ハイケ博士)

 食料自給率の低い日本もまた食品廃棄の問題を真剣に受け止めなければならない当事者だ。食品廃棄、食品ロスのない社会をぜひとも目指したいものである。

参考:「The BMJ」、「ScienceDirect」、「EUFIC」ほか

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました