一方だけが酒好きのカップルに絆が弱まるリスク

サイエンス

 1日の仕事が終わっても家族が待つ家にはすぐには帰らず、ついつい酒場に足が向いてしまうという世のお父さんたちも少なくないが、この場合はやはり奥さんがお酒を飲まない人であるケースが多いのかもしれない。マウスを使った興味深い研究が行なわれている。

■一方だけが酒好きのカップルは絆が弱まる?

 アメリカ大陸に生息するプレーリーハタネズミは一夫一夫制で行動することから、我々人間の行動を占う意味でもよく実験に用いられる。そしてこれまた奇遇なことに一部の個体はお酒の味を覚えて“酒飲み”になれるという点でも我々(の一部)とそっくりなのだ。研究対象としてなかなか興味深い生物のひとつである。

 アメリカ・オレゴン健康科学大学の研究チームは、プレーリーハタネズミのカップルに異なる条件を設定して関係の変化を観察している。

 Aグループのカップルにはオスだけにアルコールを与え、Bグループにはオスメス共にアルコールを与え、Cグループにはオスメスどちらにもアルコールを与えなかった。そしていずれのグループのオスにも新たなメスと出会える機会を与えた。

 結果はある意味で予想通りだった。カップルの結びつきの強さ=一緒にそばにいる時間の長さがAグループのカップルで減少したのだ。つまりオスだけが“酒飲み”のカップルは絆が弱まったのである。一緒に酒を飲むBグループも、どちらも酒を飲まないCグループもカップルの結びつきの強さに変化はなかった。

 研究チームはさらにオスの脳の変化を調べたのだが、Aグループのオスの脳は中脳水道周囲灰白質(periaqueductal grey)に変化が見られ、この変化とパートナーとの結びつきが弱まったこととの関連が示唆されることになった。ということはひょっとすると、お酒が原因で破局を迎えたカップルの男性の脳にも同じような変化が起っているのかもしれない。

「今後の研究で、問題のある飲酒癖によって悪化したカップルの関係を改善するための戦略を見つけることができるでしょう」と研究は結ばれている。とすれば近い将来、お酒が原因のカップルの不仲が薬で治療できることになるのかもしれない!?

■飲まない夫を持つ酒好きの妻は生活の満足度が低い

 プレーリーハタネズミのカップルに起り得ることは、そのまま人間のカップルにも当てはまりそうなのだが、2016年に発表されたアメリカの研究では2700組ものカップルを10年にわたって追跡調査したビッグデータを分析することで、この傾向を浮かび上がらせている。

 アメリカ・ミシガン大学の研究チームは50歳の以上のカップル2,767組の飲酒習慣と生活の満足度の関係を探る研究を行なった。調査は10年間にも及ぶもので、参加者全員が研究者のインタビューを受け、飲酒の有無、1週間で何日飲むか、1日の酒量などの質問が行なわれてデータが収集された。

 研究の結果、やはりカップルのどちらか一方だけしか酒飲みではないカップルは、両方とも酒飲みか、あるいは両方とも下戸のカップルよりも生活の満足度が低いことが明らかになった。ちなみに女性側の観点で最も生活の満足度が低くなるのは、妻が酒飲みで夫が飲まない組み合わせであった。

 どうしてこうした現象が起るのかまだよくわかってはいないのだが、飲酒を含めた“レジャー”を一緒にアクティブに楽しむカップルほどより良い結婚生活を送っていると研究チームは説明している。つまり飲酒を“レジャー”であると定義するならば、酒はカップルの仲を深めるものになるのだ。

 しかしながらそこには大きな社会的な問題も横たわっている。増え続けるアルコール依存症とアルコール関連の事件だ。アメリカ国内では、男性のなんと20%、女性の6%がアルコールにまつわる問題を抱えているという。特に現在60歳前後のベビーブーマー世代はアルコール対して寛容であるためこの傾向が強いという。アルコールは適量を守って“レジャー”の範囲内で楽しみたいものだ。

■お酒に酔ってもほとんど人格に変化はない

「お酒が入ると人が変わる」という話を時折耳にしたりするが、不適切な言動をお酒のせいばかりにはできなくなりそうだ。酔っていても性格的な特徴はほとんど変わっていないことが最近の研究で報告されている。

 ミズーリ大学コロンビア校とパデュー大学の合同研究チームは、156人の実験参加者を対象に“しらふ”の時と“ほろ酔い”の時の性格特徴の違いを探る研究を行なっている。

 実験参加者はまず“しらふ”の時の人格と“ほろ酔い”時の人格を浮き彫りにする各種の診断を受けた。そして各参加者は約15分かけてウォッカやスピリッツなどのアルコール飲料を消費したのだが、その際に血中アルコール濃度が規定に達するように量を調節して飲んだ。

 規定の状態まで“ほろ酔い”になった参加者はその後の15分間、どのような人格的特徴が現れてくるのかを見るために各グループに分かれてディスカッションンやパズルゲームなどを行なった。

 この一連の実験で、参加者は2度の性格診断テストを受け、“ビッグ5”と呼ばれる5つの性格的特性が測定された。5つの性格的特性とは、開放性(Openness)、誠実性(Conscientiousness)、外向性(Extraversion)、協調性(Agreeableness)、神経症傾向(Neuroticism)である。加えてこの模様は録画されていて、後日専門家がその言動や様子を分析・評価している。

 研究チームは各時点で収集されたデータを分析したのだが、飲酒後の時点で参加者は、誠実性、開放性、協調性が低くなったと報告し、一方で外向性が高まり感情的に安定したと申告している。

 だが性格診断テストの結果やビデオ映像を精査した専門家らの評価などから総合的に判断すると、“しらふ”と“ほろ酔い”では当人の人格特性はほとんど変化がないことが示唆されることになった。飲酒後に唯一、若干の変化が見られるのは外向性がやや高まるだけに留まるということだ。つまり飲酒後に“ほろ酔い”になると当人には自分の変化がかなり劇的なものであると感じられるのだが、客観的にみれば実はそうでもないということになる。

 酒の席だからと言って必ずしも大目に見てもらえないことが指摘されることになった今回の研究は、酒を嗜む者には気に留めておきたい話題だろう。

参考:「Frontiers」、「Oxford University Press」、「SAGE Journals」ほか

文=仲田しんじ

コメント

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