ワイングラスのサイズは“急成長”していた!?

サイエンス

 大きなワイングラスに一分目ほど注いで味わうワインは美味しそうであるし、お洒落な気分にもなりそうだがいかがだろうか。しかしこんなにワイングラスが大きくなったのはごく最近のことであるという。

■ワイングラスのサイズが“急成長”していた

 大きなグラスで飲むワインは美味しく感じられるかもしれない。口径の大きなグラスでは空気に触れるワインの面積が増え、しかも芳香がグラスの中に滞留するので、飲むときにより芳醇な香りと共にワインを味わえる。

 しかしながら我々がこんなにも大きなグラスでワインを飲むようになったのはここ最近のことであり、その結果イギリス国民のワイン消費量が急激に伸びていることを指摘する研究が発表されている。大きなグラスで飲めばやはり酒量が増えるのだ。

 英・ケンブリッジ大学の研究チームは、イギリスで庶民にもワインが飲まれはじめた1700年代から現在に到るまでのグラスの形状の変遷を調査している。

 骨董ガラス製品の専門家や博物館の学芸員、オンライン調査員などの協力を得て411もの年代別のワイングラスを調べたところ、近年になってグラスの平均サイズが急激に大きくなっていることがわかった。1700年代には容量が平均66ミリリットルであったワイングラスだが、現在は449ミリリットルにまでサイズアップしているのだ。実に7倍近い差である。

 そしてワイングラスの大きさが、そのままワインの総消費量に直結しているというから興味深い。イギリス国内のワイン消費は1960年から1980年の間になんと4倍に伸びているのだが、この時期にそれまで平均180ミリリットルだったワイングラスが200ミリリットルを超えるようになったという。

 その後もグラスのサイズは順調に大きくなってワインの消費量も伸び、1980年から2004年の間にはさらに2倍に伸び、この間にワイングラスの平均サイズは417ミリリットルと急激なサイズアップが成し遂げられている。そして去年から今年にかけての平均サイズは449ミリリットルとまだまだ“成長”を遂げているのだ。

 18世紀後半にガラス製品製造の技術革新が起り、以降大きなグラスが作れるようになったという背景もあるのだが、それでもここ20~30年の急激なサイズアップは少し気になるところだ。翌日の二日酔いを避けるためにはトレンドに反し(!?)、家で飲むワインは小さなグラスで飲んだほうがよさそうだがいかがだろうか。

■赤ワインがもたらす8つの効能

 ワインの飲みすぎには気をつけたいものだが、適量の赤ワインを日常的に嗜むことで、いくつもの健康的なメリットがあるという。適量の赤ワインがもたらす効能は8つにも及ぶということだ。

1.虫歯の予防
 かつてのスペインの研究では、赤ワインは虫歯の原因菌をより効果的に除去していることが報告されている。赤ワインを常飲している人は虫歯になり難い傾向があるようだ。

2.バランス感覚を高める
 かつて老齢のマウスを使った実験で、赤ワインに含まれるレスベラトロール(resveratrol)という物質によって身体のバランス感覚が向上したことが発表されている。レスベラトロールが加齢による運動能力の機能低下を抑制する可能性が指摘されているのだ。

3.シラミを寄せつけない
 米・ネブラスカ大学リンカーン校の研究では、興味深いことに赤ワインを常飲している人はトコジラミなどのシラミに噛まれることが少ないことが報告されている。赤ワインを飲む人の血液は、シラミとっては美味しくないようである。

4.認知機能低下の抑制
 2011年のドイツの研究で、1日2、3杯のワインを飲んだ高齢者のグループは3年後にまったくお酒を飲まないグループと比較して認知症リスクが約33%低いことが報告されている。

5.お産の痛みの緩和
 話のタネという話題になるが、古代ギリシアの時代からワインは分娩時の痛みを緩和する鎮痛剤として用いられてきた歴史的な事実があるという。また倦怠感や下痢もワイン飲むことで和らげられるということだ。

6.減量を助ける
 2010年の研究では食事中に適量の赤ワインを摂取している女性は、中年期以降に肥満になり難いことが報告されている。飲酒後には身体のエネルギー消費量が高まるのだが、赤ワインでその効果が最もよく出るということだ。

7.長寿に繋がる
 前出のレスベラトロールは抗炎症作用があり、また血中のインシュリンの生産を抑制するので長期的観点から長寿に結びつくということだ。もちろんあくまでも“適量”が前提であり、飲み過ぎれば逆効果になる。

8.妊娠を促進する
 米・セントルイスワシントン大学の研究で、適量の赤ワインを常飲することで、卵巣が有する潜在的な卵巣機能の予備力である卵巣予備能(Ovarian reserve)が向上して受精・妊娠率が高まるいうことだ。不妊治療の補助的手段になるのである。そしてこれもレスベラトロールの働きであるということだ。

 決して飲み過ぎることなく赤ワインをゆっくり味わい、さまざまなメリットの恩恵にあずかってみてもよいのだろう。

■「赤ワインは常温」は間違いだった?

 赤ワインの味と香り、そして健康に及ぼす効能を存分に享受したいものだが、飲み方についても少し気を配ってもいいのかもしれない。

 白ワインは冷蔵庫に入れるという人が多そうだが、一方で赤ワインは常温で保管してそのまま賞味するというのが今のところはメジャーな飲み方である。ある調査によれば実に82%ものワイン愛好家が赤ワインは部屋において保存し、そのまま常温で飲んでいるということだ。

 しかし先ごろ、オーストラリアのワイン学校、シドニーワインアカデミーと有名ワイナリーのテイラーズ・ワインズ(Taylors Wines)との合同レポートで、赤ワインを飲む際の最適な温度が提案されている。赤ワインも飲む前には少し冷やしたほうがいいということだ。

 赤ワインは常温で保存して常温のまま飲むというのは中世のフランスの城での保管を前提としたものであって、現代の住環境には当てはまらないという。ちなみにイギリスの住居内の平均室温は冬場で18度、夏場で20度で、一方オーストラリアでは通年で平均23度であるという。いずれにしても室温は赤ワインにとって若干温かいのである。

 今回のレポートによれば、シラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンのフルボディの赤ワインの適温は16~18度で、ミディアムボディやライトボディの赤ワインの適温は12~14度だということだ。一方でやはり白ワインは6~8度まで冷やして飲んだほうが美味しく楽しめるという。それぞれのワインの適温で飲むことで、そのワインが持つ香りと味が最も引き出されてくる。

 レポートによれば適温より温かい場合はアルコールが強調されてくるため、微妙な風味がかき消されてしまうという。逆に冷やしすぎた場合は風味が抑えられ、タンニンと酸の刺激が強くなる。それぞれのワインに適した温度で飲んでもらうことを、ワインの生産者たちも強く望んでいるということだ。

 そしてレポートではワインの温度の重要さを知るためにも、一度好きなワインを実際にいくつか異なる温度で飲んでみることを推奨している。例えば常温の赤ワインをグラスに注いた後にボトルを冷蔵庫に入れ、30分後に冷蔵庫から取り出した同じワインはかなり違う風味に感じられるということだ。

 もちろん一般的な家庭で厳密にワインの温度を管理するのは難しいが、おおよその目安として、赤ワインは冷蔵庫で30分冷やして飲むとたいていは美味しくなるということである。お気に入りの1本であればこそできる限り美味しく楽しみたいものである。

参考:「BMJ」、「The Sydney Wine Academy」ほか

文=仲田しんじ

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