ロボットが言い放つ罵詈雑言に人間は傷つく?

サイエンス

 NBAなどの試合中に対戦相手に向かって吐きつける罵詈雑言のことを英語ではトラッシュトーク(trash talk)という。スポーツマンシップに反していると良く思わない人々も当然多く、悪態をついたところでゲームが有利になるわけはないともいわれているトラッシュトークだが、最近の研究ではこの“口撃”は実際にいろんな意味で効力を持つことが報告されている。

■トラッシュトークで実際にパフォーマンスが低下

 バスケットボールや野球など、対戦チームの選手と会話できる機会がある競技種目では、時に言葉で挑発した罵倒したりと“舌戦”が展開されるケースもある。

 場合によっては乱闘騒ぎにもなりかねないトラッシュトークは、スポーツマンシップに反するとして批判の声もあるが、実際に対戦相手のパフォーマンスに影響を与えていることが最近の研究で報告されているのだ。

 米・コネチカット大学のカレン・マクダーモット氏が2019年6月に発表した研究は、実験を通じてトラッシュトークがゲームのパフォーマンスを左右するのかどうかを探る興味深い内容になっている。

 実験に参加した18歳から35歳の男女200人は、レースゲームである「マリオカート」を、無言の状態と、トラッシュトークを聞かされた状態でプレイしたのだが、やはりというべきなのか、トラッシュトークを聞かされた状況下ではゲームのパフォーマンスが低下することが突き止められた。

 トラッシュトークを聞かされた者には屈辱と怒りの感情が引き起こされることもわかったのだが、興味深いことにどちらか一方だけが引き起こされることはほとんどなく、どちらかをメインにどちらの感情も同時に湧き上がってくるという。

 そして動きが単調な競技種目、たとえば陸上競技のランニング種目や重量挙げなどにおいては、“怒り”の感情は時には発奮材料となって競技成績にポジティブな影響を及ぼすが、バスケットボールやマリオカートのように視覚と手の連携が必要な競技種目においては、“怒り”の感情はネガティブな影響となってパフォーマンスを低下させるということだ。

 いずれにしてもこれまでスポーツ界ではトラッシュトークについて真面目に検討することはなかったのだが、その影響力は決して無視できないものであることが今回の研究で指摘されることになった。トラッシュトークを規制するルール改正や、トラッシュトークの対処法の開発などの取り組みが求められていそうだ。

■ロボットが言い放つトラッシュトークも有効打に

 プロ野球でベテランのキャッチャーが打席に入る打者に向けて放つ憎まれ口など、トラッシュトークはいかにもマッチョなプロスポーツ選手らしく映る一面もあり、ある意味では“人間くさい”言動かもしれない。しかし驚くべきことに最近の研究では、我々はロボットが言い放つ罵詈雑言にもネガティブな影響を受けることが報告されている。

 米・カーネギーメロン大学の研究チームが2019年10月にインド・デリーで開催された国際的なロボット学会「ROMAN(IEEE International Conference on Robot & Human Interactive Communication)」で発表した研究では、ヒト型ロボットの「ペッパー」とミクロ経済学で使われる「セキュリティゲーム」というジャンルのゲームを行った。このゲームのプレイ中、ペッパーはプレイヤーに励ましの言葉か、あるいはトラッシュトークを語りかけたのだ。

 ゲームは35回行われ、プレイヤーはゲームに慣れるほどにゲームの成績も向上したのだが、励まされたプレイヤーに比べてトラッシュトークを浴びせられたプレイヤーの成績向上の伸びは緩やかであった。

 トラッシュトークはロボットから浴びせられても効力を発揮することが確かめられたのだが、これは別の意味ではさまざまな可能性を切り拓くものにもなる。つまりロボットが言葉によって人間の感情に訴えかける能力は、教育やメンタルヘルス治療に活用できる望みがあり、さらには仲間としてのロボットとの間の信頼関係にも影響を与える可能性があることを研究チームは指摘している。

 そして今後はロボットと人間の間の非言語表現にもおよぶかもしれないということだ。非言語コミュニケーションにおいても、ロボットが効果的に人間の感情に訴えかける技術が開発できる可能性が拓けているのである。

 技術の発達に伴い、今後ロボットの“表現力”もますます洗練されてくるのだろう。人間とロボットとの“絆”は深まる一方であるようだ。

参考:「UConn Library」、「Carnegie Mellon University」ほか

文=仲田しんじ

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