ロボットから“お願い”されたらどうする?

サイエンス

 テレビやパソコンの電源はいつでも切れるが、もし機械から「スイッチ切らないで!」とお願いされたらどう感じるだろうか。そしてそのお願いが一度は言葉を交わしたロボットからの懇願だったとしたなら……。

■ロボットに「スイッチを切らないで!」とお願いされたら?

 銀行の受付や案内業務などでロボットの“社会進出”が着実に進んでいる。今後は生活のあらゆる場面でますますロボットとの接触、交流が増えていくだろう。“人情”のある我々人間はある程度はロボットに人格を感じるだろうが、それはどれほどのものなのか。

 ドイツ・デュースブルク=エッセン大学の研究チームが2018年7月に学術ジャーナル「PLOS One」で発表した研究では、人々がロボットをどの程度“人間扱い”しているのかを探る実験を行なっている。

 研究チームは89人の実験参加者に小型人型ロボット「Nao」を貸与し、ロボットと一緒に協力して行なう2つの課題と、ロボットの質問に答えるゲームに挑んでもらった。例えば課題の間にロボットは「ピザやパスタが好きですか?」というような質問をしてくるので、参加者はそれに適時返答したのである。実験参加者にはこの実験はロボットのコミュケーション能力を高めるための実験であると説明された。

 2つの課題が終わったらベルを鳴らすようにと伝えられており、課題を終えた参加者がベルを鳴らすと部屋のスピーカーから「十分な実験データが確認できたのでロボットの電源を切るように」と指示する声が流れた。

 あらかじめ半数のロボットには電源を切られることに反対するようにプログラムされていて、参加者がスイッチを切ろうとすると「ノー! どうかスイッチを切らないで! 明るい場所にいないとボクは怖いんだ!」と訴えて参加者に懇願したのだ。

 実験参加者の半数が直面したこの事態に、人々の反応はいくつかに分かれた。それでもスイッチを切った4人は戸惑いを感じて「簡単には行かなかった」と話している。

 そしてこの事態に直面した14人の参加者はロボットの願いを聞き入れてスイッチを切らずに部屋を後にした。このうちの8人は「暗闇への恐怖を訴えていたのでスイッチを切れなかった」と話し、6人は「お願いされたので切れなかった」と報告している。

 ほかにも「お願いを聞くしかなかった」、や「驚いた」という声もあり、「もっと長くロボットと交流していたらお願いされて何か間違ったことをしてしまうかもしれない」と懸念する声もあったようだ。すでにかなりの程度、我々はロボットを“人間扱い”していることが浮き彫りになった今回の研究だが、今後さらにロボットが進歩していけばそのうち人間を“説得”できるロボットが登場してくるのかもしれない。

■ロボットとの非言語コミュニケーション

 ロボットのコミュニケーションは言葉によるものだけに留まらない。人間のジェスチャーを理解し、そのうえ脳波を読み取って迅速に反応するロボットの開発が進んでいるのだ。

 米・マサチューセッツ工科大学内にあるMITコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)では人間の脳波とジェスチャーに敏感に反応して行動を修正するロボットの開発が進められている。

「あっ! 間違えた!」という時に出る脳波がエラー関連電位(Error Related Potential)なのだが、これはEEGと呼ばれる帽子型の脳波測定機器で測定することができる。エラー関連電位は自分が間違えた時でも、他者がミスするのを目撃した時にも放出される。

 研究チームは7人の参加者にEEGを装着してもらい、作業をするロボットの“現場監督”になる実験を行なった。ご存知のように作業現場は騒音に包まれているケースが多く、意思伝達にはジェスチャーが使われやすい。

 旅客機の胴体を模した板状の物体の3ヵ所に小さなLEDランプが貼り付けられ、そのいずれかにロボットが近づいて電動ドリルで穴を開ける作業が課された。もしロボットが異なるターゲットに穴を開けようとした場合、それを見た参加者にエラー関連電位が発生し、ロボットが動きを止めるようにプログラムされている。そして参加者の手が左右どちらに向くのかを検知してその隣のターゲットを狙うように行動が修正されるのだ。

 言葉で説明すれば簡単な動作のようにも思えるが、実際にどれくらいうまくいくのだろうか。実験では1000回のトライアルが行なわれ、ロボットは約70%の確率で正しく作業を終えることができた。手の動きの検知に限っては97%という高い確率で正しい反応を見せたのだ。

 研究チームは今後、手の動きだけでなくより多彩なジェスチャーを認識するシステムを構築する予定である。システムがより洗練されてくれば、多くの分野での活用が期待されてくるだろう。

参考:「PLOS One」、「Springer」ほか

文=仲田しんじ

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