リーダーに求められるのはヒゲよりも筋肉!? 人物が評価される“最初の7秒”の重要性

サイエンス

 ビジネスパーソンの“ヒゲ”についてはまだまだ意見が分かれるところだが、手入れされたヒゲならOKという認識もかなり広まってきているのではないだろうか。ヒゲが似合うタイプで整える手間を厭わないのであれば、今はビジネスの現場でもじゅうぶんにヒゲの選択肢があり得る時代になったと言えるのかもしれないが、ヒゲ男性にちょっとばかり逆風となる研究も紹介されている。

■ヒゲ男性は女性蔑視的な考えを持っている!?

 かつてオーストラリアの2人の心理学者が合同で行なった研究によれば、ヒゲを生やしている男性には女性を差別する傾向があることが指摘されることになったのだ。お洒落にヒゲを生やしている男性のイメージには、気さくなフェミニストという印象もあるのかもしれないが、実態はかなり違うということになる。

 研究では223人のアメリカ人男性と、309人のインド人男性の計532人(18~72歳)にオンラインでアンケート調査を行なった。質問内容にはもちろんヒゲの有無、あるとすればその生やし具合の程度に加えて、“女性観”を探る質問が多く投げかけられた。すると、ヒゲの男性に高い確率で女性差別の考えを持っている傾向があることが浮き彫りになったのだ。特にヒゲを生やしているインド人男性には顕著で、実にその85%が女性蔑視的な考えを持っていることが示された。一方、アメリカ人のヒゲ男性で女性蔑視的な考えを持つのはそのうちの65%だ。

 しかしこれらのヒゲ男性は決して女性が嫌いというわけではなさそうで、伝統的な男性優位社会への従属度が高いのである。そのため、男性に従わない女性には敵対的な性差別(hostile sexism)を抱く傾向があり、またその一方で女性に先んじてドアを開けることや、一緒に食事をした時には女性に奢ろうとする“レディーファースト”を積極的に行なう慈悲的性差別(benevolent sexism)を行なう心性も共に有しているということだ。

 つまり女性は弱く、守られる存在であるという古来からの“女性観”を現代にあっても支持し続けている人々ということになる。しかしもちろんヒゲ男性のすべてが女性差別主義者ということではなく、ヒゲ男性の3分の1はまったく女性差別の兆候を持っていないことは“ヒゲ”の名誉のためにも念を押しておかねばならない。

 そしてこのような“古典的マッチョ”な考えを持つ男性はヒゲを生やす傾向があり、またヒゲを生やすことで伝統的で家父長制的な考えに導かれることもまた指摘されている。これまでのヒゲブーム(!?)の流れに水を差すような研究であり、これからヒゲを生やしてみようとなんとなく思っている向きは、いったん考え直してみてもいいのかも!?

■初対面の人の印象は7秒で形成される

 そもそもヒゲがあってもなくても、人は初対面の人間の評価をほんの僅かな時間で下しているという話を耳にしたことがあるかもしれない。ジャッジに要する“所要時間”は、説によって0.5秒から30秒といくつかのバリエーションがあるが、専門家の多くの支持を集めているものに“7秒説”がある。

「初めて会った人がどんな人間なのかを判断するのにかかる時間はわずか7秒です」と英紙「Daily Mail」語るのは、メンタルヘルス系読本『Straight Talking』の著者であるリンダ・ブレア氏だ。「人を見かけで判断してはいけない」とは世に広く流布している戒めの言葉だが、この場合は人々のモラルとは無関係に、いわば自動的に判断が下されてしまう点が厄介かも知れない。

「この判断は意識的に下されるものではありませんし、自身で気づいていないことさえあります。この能力の起源は、他者への誤った判断が取り返しのつかないことになっていた原始人の時代にさかのぼるものなのです」(リンダ・ブレア氏)

 つまりこの素早いジャッジメントは、ある人物と最初に出会った時に敵なのか味方なのかを瞬時に判断しなければ生き残れなかった時代から培われてきた、人間の生き残りを賭けた重要な能力だということになる。

 人間のボディランゲージに関する著作『The Body Language Bible』の著者であるジュディ・ジェイムス氏もまた他人を瞬時に評価する能力は人間の“サバイバル能力”のひとつなのだと説明している。人間の平等な権利が守られている今日の社会にあって、この判断はモラル面で問題のあるものにはなるが、人間である以上は止めることのできない精神の作用であるということだ。

「最も最初にくる判断はその人物が“恐い”かどうかですが、ほとんど同時に魅力や人格についての推察も行なっています。そして瞬時に判断が下されているということは、一度下された評価はその後(ほとんど)覆ることはないことを意味しています」(ジュディ・ジェイムス氏)

 幸か不幸か、初対面の相手に最初に与えてしまった印象はその後めったなことがない限りは変わらないということになる。いかにこの“最初の7秒”が重要であるのかを痛感する話題だろう。記事ではこの“最初の7秒”で好印象を勝ち取るアドバイスも記されているのだが、身だしなみや各種のマナーに気を配ることに加えて、「バッグを左手に持つこと」という忠告もある。これは咄嗟に相手から握手を求められた場合でもすぐに反応できるためだ。

 また、人間は好奇心をそそる物事を目撃している際に瞳の瞳孔が広がるのだが、この瞳孔が広がった状態の表情は相手に好感を与えるという。したがってこちらから興味を持って相手に対応すれば、相手のほうも好意を持ってくれる可能性が高くなるのである。この対人関係のメカニズを知っておいても損はないだろう。

■上半身の筋肉量でリーダーが選ばれる

 身だしなみやマナーの重要性を思い知らされる話題が続いたが、では服装の下の“肉体”はどれほど人の印象に影響力を及ぼしているのだろうか。これについて、米・カリフォルニア大学の研究チームが行なった興味深い論文が学術誌「Journal of personality and social psychology」で発表されている。

 4種類の実験が行なわれたのだが、そのうちの1つではまず、あらかじめ握力などの上半身の筋力を計測した複数の若い男性たちをタンクトップの姿で撮影した。膝立ちの姿で撮影したため、被写体の身長は相対的に把握することができる構図になっている。そしてこれらの男性を設定上、あるコンサルタント会社の新入社員であるとして、実験参加者に人物評価をしてもらったのだ。評価してもらう点は、

・この人物は将来良いリーダーになれるか?

・この人物は組織内で他の人員をどれくらいうまく扱えるか?

 の2点である。実験参加者は男性50人、女性50人と性別は半々だ。評価の集計結果では、上半身の筋肉量が多い男性ほど“良いリーダーになって良い組織運営をする”と評価される傾向が高いことが浮き彫りになった。つまり実際の能力やキャラクターを考慮しなくてもよい場合、男性は“筋肉”量で評価されるということになる。なんだかミもフタもない結果であるような感もあるが、力強そうに見える人間が、リーダーに相応しい人物であると認識されているのだ。

 この他にも付随した実験が行なわれたのだが、やはり評価ポイントの決め手は上半身の筋肉量がまず第一で、身長の高さは二の次であることも判明した。そしてさらに意外なことに顔はあまり評価を左右するものではないこともわかった。たとえドラマの悪役になれそうな“強面”であっても、上半身が貧弱だったり肥満体だったりした場合はリーダーとしての評価は高くならないということだ。

 このような研究結果を鑑みれば、もはや男たるもの、筋トレは欠かせないという話にもなりかねないのだが「Psychology Today」の記事の指摘によれば、リーダーに相応しいとされる“マッチョ”な男性の高評価は、恐がられていることの裏返しであるという。見た目がいかにも強そうな人物をリーダーに据えることによって共同体をうまくまとめることは、人類の歴史の中で培われてきた“知恵”であるという。とすれば、実際に采配を振るっているのは“マッチョ”なリーダーの影にいる人物であることも往々にして有り得そうだ。

 もちろんリーダーには洞察力や説得力、組織運営能力といった実力が問われることは言うまでもないが、“見た目”も決して無視できないことがあらためて確認されることになった。将来の管理職には毎日の筋トレが必須になる日は近いかも!?

参考:「VICE」、「Daily Mail」、「The Wall Street Journal」、「Psychology Today」ほか

文=仲田しんじ

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