モノの収集はモテるための作戦だった!? コレクターの止むに止まれぬ心の内とは

サイコロジー

 収集家といえば切手やコイン、あるいはスター・ウォーズのフィギアなどを集めているイメージが思い浮かぶが、この世ではもちろんさまざまなモノが収集の対象になっている。“ギネス”が認定している世界一のコレクターの中には、あの“ポケモン”グッズの収集家もいるというから驚きだ。

■ギネス認定の“ポケモン”グッズコレクター

 ギネス認定のポケモングッスコレクターであるリサ・コートニーさんの部屋の中はおよそ1万6000点ものポケモングッズで溢れている。

 コートニーさんのポケモングッズ収集は9歳のときからはじまったという。日本では1996年に登場したポケモンだが、海外でゲームボーイソフトが発売されたのは1998年だ。ということはコートニーさんはゲームの登場よりも先に、いち早くポケンモンの魅力の虜になっていたのだ。

 それまでも日本のアニメやゲームが好きでいろいろなグッズを集めていた彼女だったが、その当時雑誌でピカチューの姿を見てたちまちファンになり“ポケモン熱”がエスカレートしていったという。増える一方のポケモングッズの数々に母親のシャロンさんは自分の広い部屋を娘に与え、屋敷の中の狭い部屋に“引越した”のだった。

 新しいポケモングッズがリリースされるやすぐに手に入れていたコートニーさんだったが、2009年の段階でその数は1万2113アイテムに及び、「ポケモングッズ最大コレクション(Largest collection of Pokemon memorabilia)」としてギネスブックで認定されることになったのである。そもちろんその後もポケモングッズの収集の勢いは止まることはなく現在に到っている。

「自分でも恐ろしくなるほどの数のポケモングッズを持っています。ぬいぐるみやゲームボーイ、DVDはもちろんのこと、すごくレアなアイテム、例えばポケモンのトイレットペーパーなんかも持っています」と情報サイト「IBTimes」の取材に応えるコートニーさん。「新しいポケモングッズを手に入れることで、いつも私は笑顔でいられるんです。気持ちの良い達成感ももたらしてくれます」と、まだまだ収集に意欲的のようだ。

「私は娘のコレクションに煩わされてはいませんよ。娘はハッピーだし、私もハッピーです。でもこのまま増え続けていくことが、最近ちょっと気にはなってきました」と語る母親のシャロンさん。次に取材を受ける時に、はたしてこの部屋はどんな光景になっているのだろうか。

■収集行為はモテるための“作戦”!?

 自他共に認めるコレクターでなくとも、モノを収集する行為は何かの機会に突発的に起りしばらく(あるはその後ずっと)続くことがある。ではなぜ人は直接生活に関係のないようなモノまで集めてしまうのだろうか。英「The Guardian」紙では、どうして人がついついモノを収集してしまうのか、いくつかの心理学的な説明を紹介している。

 1950年代のアメリカ漫画『ピーナッツ』に登場するライナスという幼児キャラクターは、いつも肌身離さず毛布を持っていることから、これが心理学の世界で“ライナスの毛布”と呼ばれ、赤ちゃんを“卒業”して常にお母さんと一緒にはいられなくなった幼児が、何か安心できるものをいつも肌身離さず持っている現象として定義されている。そしてこのライナスの毛布のように、大人になったにせよ人は身近にあって安心できるグッズをついつい集めてしまうということだ。

 もう少し止むに止まれぬ感じの説明が、存在していることの焦りからくる自己同一性の延長・拡大行為であるという説だ。やや病理学的なニュアンスを帯びてきてしまうが、今自分が確かにここに存在しているということを自分で確かめるために、“自分の分身”であるグッズを収集し続けるということである。

 そしてもうひとつ、最近の進化論的見解が指摘しているのは、収集行為は特に男性が女性を惹きつけるための“作戦”であるということだ。実際の経済力は必ずしも反映しないものの、資産を集積していることを異性に披瀝するための、古代人であったころから受け継がれているモテるための“作戦”なのである。

 いずれにしてもこれらの解釈のベースにあるのは授かり効果(endowment effect)と、価値感伝染(contagion)にあるということだ。授かり効果とは、いったん自分が所有したものを高く評価しがちになる人間の基本的な心性で、気に入ったグッズなどと同じモノや類似のモノをその後も入手し続けることで、蓄積、収集がエスカレートしてしまうのだ。

 価値感伝染とは、わかりやすく言えば自分が一目置いている有名人などが所有、愛用しているモノであれば自分も欲しくなるという心性だ。そしてそのモノを入手することでその人物になった気分を味わえるのである。実際に所有しているのかどうかに関わらず、商品のCMに有名人が起用されるのもこの心の働きに根ざしている。

 人類学的には、我々がモノの収集をはじめたのは遊牧生活を捨てて定住地を構えた時期にまでさかのぼるという。食糧や生活必需品ならいざ知らず、直接生存には無関係と思われるさまざまなモノを収集するのは人間だけなのかもしれない。フランスの社会人類学者、クロード・レヴィ=ストロースは、資源に乏しい環境の中で、何に役立つのかその時点ではよくわらないモノでも集めておき、それらを部品にして試行錯誤を繰り返しながらも最終的に新しい物を作る“職人”のことをブリコルール(bricoleur)と呼んだ。やはりモノを収集するということは、我々の本能に根ざしている行為なのかもしれない。

 あらゆるグッズやガジェットが収集の対象になるが、度を越した収集熱が窃盗につながるケースがある。しかもその収集物が、きわめて“特殊”なものだった場合は窃盗の罪の重さに加えて社会的信用が失墜するケースもあることはご存知の通りだ。

 収集はきわめて個人的な行為であるため、他から見てどう思われるのか“熱中”している本人はなかなか気づき難い。“収集癖”はある意味で遺伝子に刻まれた本能に基づく行動だけに、その情熱の向かう先によっては厄介なことになりうることを自覚したい。

参考:「IBTimes」、「The Guardian」ほか

文=仲田しんじ

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