その場を明るくする外向的なキャラクターは組織のリーダーとして欠くべからざる資質であるように思える。しかし最近の研究では、あまりにも外向的に過ぎるリーダーには部下がついてこないことが指摘されている。リーダーの度を越した前向きさ、あるいは思いやりの深さは、部下から敬遠される原因になっているというのだ。
■ポジティブでアツい“熱血リーダー”は嫌われる?
大組織ではその部署や支店のトップが定期的に入れ替わったりするものだが、その一方で長く続いている組織にはそうした表向きのリーダーとは別に、言葉はやや悪いが“裏リーダー”がいたりするものだ。そして往々にしてこの“裏リーダー”こそが実質的なリーダーであり、組織内で支持を得ている。
米・オハイオ州立大学フィッシャーカレッジ・オブ・ビジネスの研究チームが2019年4月に「Journal of Applied Psychology」で発表した研究では、この“裏リーダー”はどのような人格特性持ち、人々の支持を集めているのかを実験を通じて探っている。
研究チームは260人のビジネス専攻の大学生と、337人の中国大手小売チェーン従業員を対象に理想的なリーダー像を浮き彫りにする調査を行なったところ、外向的なキャラクターのリーダーはおおむね好ましくは思われているものの、ものには“限度”があることもまた明らかになった。
外向性を構成する2つの要素に、前向きな積極性と思いやりの深さがあるのだが、このどちらも度を過ぎて強すぎると部下は離れていくのである。度を越した前向きさはプレッシャーを与え、過度な思いやりには重い負担感を感じてしまうのだ。そしてこれらの“裏リーダー”たちは、負担にならない適度な前向きさと思いやりで人望を集めていることが浮き彫りになった。
そしてもうひとつの重要なポイントは、その前向きさと思いやりがいずれも部下と組織全体のためを思ってのことであると感じられることである。リーダーの中には自身の保身や昇進のために部下に対して要求を強めたり、逆に好感を与えて支持を得ようとする者がいないとも限らないが、部下はそうした上司の意図には敏感に気づくものだ。組織のためにいったん自分の私利私欲を棚に上げているリーダーであれば、多少は前向き過ぎても、部下思いが強すぎても人々はついてくるのである。
今回の研究は“裏リーダー”についてのものであったが、もちろん公式なリーダーにとっても人望を集める上できわめて有効な知見になるだろう。必要以上にポジティブでアツい“熱血リーダー”は必ずしも部下たちに歓迎される存在ではないようだ。
■営業成績と性格の関係性はほぼ“ゼロ”
リーダーばかりでなく、一般的なセールスピープルや営業マンといった人々もまた、イメージとしては明るい外向的な人物が相応しいように思えるだろう。しかしかつての研究では、セールスの営業成績と性格の外向性、内向性の関係性はほぼ“ゼロ”で、外向性と内向性では計り知れないもっと複雑な人格特性の組み合わせが影響を及ぼしていることが報告されている。
また2013年の米・ペンシルベニア大学ウォートン校の研究では、セールスにおいて外向性も内向性も備えた両向型人間(ambivert)の優位性が指摘されている。確かに基本的な人格特性が外向的であれ内向的であれ、我々は多かれ少なかれどちらの要素も併せ持っているものだろう。
心理カウンセラーで『Introvert Revolution』などの著作を持つアンディ・ジョンソン氏は、自分の中の内向性と外向性をよく理解することが仕事での成功に結びつくことを解説している。そのポイントは3つあるという。
1.強みを生かす
例えば人的交流を広げる活動は確かにビジネスにとって重要ではあるが、そうした活動に自分は向いていないと思うのであれば、その代わりになる活動もあることを理解すべきであるという。
内向的な人は文書によるコミュニケーションが得意である傾向があるため、クライアントへの働きかけに関してはブログやソーシャルメディアに集中することができる。一方で外向的であれば、セミナーを主催したりイベントに参加することでより成功する可能性が高まるだろう。
2.自分をごまかさない
内向的である自覚する者は、職場では外向的にふるまうことを期待されていると感じるかもしれない。その期待に応えようとすることは短期的に成功することはあっても、結局のところ長期的にはうまくいくことはない。
そして顧客がどうして“自分を偽っている”営業マンを信用できるだろうか。自分の性格をごまかすことなく自分なりの誠実な仕事ぶりを創意工夫を交えて続けていくしかないと覚悟を決めるべきである。
3.反対意見が良いチームを作る
外向的な人は会議でたくさんのアイデアを強くアピールすることができる一方、内向的な人は解決策を見つけるのに役立つ、興味をそそるアイデアを提案するのが得意であるかもしれない。そしてこうした異なる正反対の得意分野を持つ者の融合こそが良いチームを作る鍵であることを理解すべきである。
自分が外向的であれ内向的であれ、自分を偽ることなく特性を生かした仕事を誠実に続けることに尽きるようだ。
■内向的な人物が良いリーダーになる4つの理由
ビジネスにおいて内向的な性格は決してネガティブなものではないどころか、内向的なリーダーのほうがむしろより良くチームを運営できることが各種の研究で指摘されている。起業家のイリア・ポジン氏によればその理由は4つあるという。
1.モチベーションが野心ではなく生産性向上
内向的なリーダーは社会的評価や成功を目指してはいないのではないかと“誤解”されることが多いのだが、実際のところ彼らはさまざまな要因によって動機づけられている。さらに彼らは実にさまざまな測定基準によって成功を判断しているのだ。
内向的な人物の脳は“報酬システム”が異なる刺激によって引き起こされるという点で異なる“配線”になっている。成功や名声ではなく、内向的なリーダーにとっての目標はチームの生産性と品質の向上である。つまり内向的なリーダーは生産性向上に“特化”できるのだ。
2.より意味深い関係性を構築する
内向的な人物は品質と生産性の向上に動機づけられているため、えてして人間関係から切り離されているように見えることがある。しかし彼らの動機と同様に、内向的な人物が築く関係性は、たまたま異なる優先事項に焦点が当てられたためであり、人的交流を軽視しているわけではない。
大勢の前でのスピーチには不慣れだが、内向的な人物は一対一の設定で従業員やクライアントとのより深く、より意味のあるつながりを築くのに優れている。この本物の関係構築によって、内向的リーダーは外向的リーダーよりもチームの各メンバーとより深く分かり合えるようになる。
3.容易に集中することができる
内向的な人物は人的交流から切り離されているわけではないのだが、その独特なマイペースぶりで集中して事に対処することができる。彼らは内面からエネルギーを引き出すので、大きな声の会話やオフィスの騒音に気を取られることなく、目の前の課題に容易に集中することができるのだ。
気が散る環境の中でも集中できる能力は、内向的なリーダーの偉大な資質をさらに高める。品質と生産性が最優先の彼らのモチベーションは維持するのが簡単であり、彼らは他の要素に惑わされることなくチームのニーズに集中することができる。
4.徹底的に考え抜いてから決断する
問題解決能力はすべての優れたリーダーシップの核心であるが、研究によると内向的な人物は一般的に前頭前野により厚い灰白質を持っている。これは抽象的な思考と意思決定に関わる脳の領域である。
こうした特性により、内向的な人々は問題を解決するための独創的な方法をじっくりと検討した上で意思決定を下す傾向が高い。
また別の調査によると、内向的な人物は即断をする可能性が低いこともわかっている。そして質の高い仕事が内向的な人物の目標なので、彼らの意思決定は月並みなところでは手を打たない。
たとえば、他のチームメンバーが異議や不安を抱いている場合、内向的なリーダーがプロジェクトを承認する可能性は低くなるのだ。意見の相違が生じた場合、その人物の地位やキャリアを度外視して検討できる内向的リーダーは、プロジェクトの利益のための問題に取り組む上でのアドバンテージがあるのだ。
どんな企業でも内向的なリーダーを活用することで組織運営がうまくいく可能性がある。内向的なリーダーがもっと見直されても良いのだろう。
参考:「Ohio State University」、「REALTOR」、「Inc.」ほか
文=仲田しんじ
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