ビールが認知症のリスクを低下させる――。“ビール党”には嬉しい話題だがそれだけではない。ノンアルコールビールにも健康効果があるというのだ。
■ビールはアルツハイマー型認知症のリスクを低下させる!?
ビールを愛する“ビール党”は多いが、うまみ成分でもあるプリン体の豊富な含有量が健康へ悪影響を及ぼす懸念があることも事実だ。そのため最近は居酒屋でホッピーやハイボールの人気が高まっているという話もよく聞く。だが悪いニュースばかりではない。最近の研究では、ビールが“脳によい”かもしれないという報告が発表されているのだ。
アメリカの研究機関「Research Society on Alcoholism」が2016年5月に発表した研究は、ヘルシンキで突然死を遂げた35歳~70歳の男性の125例のデータを詳細に分析するものであった。125例の男性はいずれも日常的に飲酒を行なっていた“酒好き”な人々だ。検死記録に残された脳の中のアミロイドベータ蛋白(β-amyloid)とアポリポ蛋白E(apolipoprotein E)の成分を調べ、その一方で遺族から話を聞いて、故人の飲酒歴を詳細に調査したのだ。ちなみにアミロイドベータ蛋白もアポリポ蛋白Eも、アルツハイマー型認知症の発症に関係があるとみなされている脳内物質である。
特にアミロイドベータ蛋白は、脳内で凝集して老人斑(アミロイド斑)として沈着することで、アルツハイマー型認知症の発症要因になっているのではないかと考えられている。そして研究では興味深いデータが示されることになった。
晩酌で主にビールを飲んでいた男性は、ワインやスピリッツ類を愛飲していた者よりも、このアミロイドベータ蛋白の凝集が起りにくくなっていることがデータから判明したのだ。つまり普段ビールを飲んでいる者の脳には老人斑ができにくく、その結果アルツハイマー型認知症の発症率が低いと考えられることになるのだ。ちなみにアルコールの量とアミロイドベータ蛋白の凝縮には直接の関係はみられなかった。
これまでアルコールはおしなべて脳に悪影響を与えるものと考えられてきたが、もしかすると適度にビールを飲むことは“脳によい”ことになるのかもしれない。さらに調査と研究を進めていく必要があるが、ビール党に認知症が少ないのかどうかは、いろんなデータを駆使すれば今後もまだまだ調べる余地が残されていそうだ。ともあれ、ビール好きには少しばかり明るい話題になったのではないだろうか。
■ノンアルコールビールは優れた“寝酒”だった
ビール好きには嬉しい話題が続いたが、やはり飲み過ぎには注意が必要なのはいうまでもない。しかしここ最近、味も喉ごしも良いノンアルコールビールが各社から相次いで発売されているのはご存知の通り。ビール党にとってはドライブ中のグルメや、仕事中のランチがいっそう楽しいものになったのではないだろうか。また飲酒プロセスにおいて各種のお酒の間にノンアルコールビールを挟むことで悪酔いの防止にもなる。
そしてビール好きでなくとも知って得した気分にさせてくれる研究が少し前に発表されている。それはノンアルコールビールでもじゅうぶんに“寝酒”になるという話題だ。
少し前の研究になるが、2012年に学術誌「PLOS ONE」に掲載されたスペインの研究チームが行なった発表によれば、ノンアルコールビールに、効果的に眠りに誘いグッスリと熟睡させる働きが認められたという。実はノンアルコールビールは効果的な“寝酒”だったのである。
実験では17人の健康な看護師に14日間にわたって仕事の後の食事で12オンス(約350ml)のノンアルコールビールを飲んでもらい、センサーで脳を測定した状態で眠りに就いてもらった。また仕事の休み時間などには質問を受けて、現在抱いている気持ちの状態が診断された。
就寝時の脳の活動を分析してみると、ノンアルコールビールを飲むことで、入眠に要する時間が短くなり、睡眠中の寝返りなどの動作が少なくなったということだ。また実験期間中、参加者たちの精神状態が安定していたということである。
実験参加者たちを熟睡に導いているものは、ノンアルコールビールに含まれているポップの成分であると考えられている。ホップに含まれる抑制性神経伝達物質であるギャバ(GABA)は興奮を鎮めたり、リラックスをもたらす働きがあり、仕事の後など肉体的に疲労した後に摂取すれば快適な眠りを誘うことになるのだ。
もちろん本物のビールにもポップはふんだんに使われているため、当然同じような催眠効果はあるのだが、飲みすぎた時点で心拍数が上昇したり、軽い脱水状態を引き起こしたりするため、せっかくのポップの効能も薄れてしまうということだ。したがって皮肉なことに“寝酒”としては、ノンアルコールビールのほうが適しているのである。ともあれこのノンアルコールビールを織り交ぜることで、ビールの楽しみ方を広げることができそうだ。
参考:「Science Daily」、「Psychology Today」ほか
文=仲田しんじ
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