新年や新年度などの時節の変わり目に、普段仕事で着用しているワードローブを見直して新調するビジネスパーソンも多いだろう。その際には、今までよりややビジネスカジュアルなものを加えてみるか、逆にもっとフォーマルにしてみるかという選択もまた浮上してくる。もちろん現状のドレスコードをそのまま維持してもよいのだが、こうした“ワードローブ問題”に関して少し参考になりそうな見解が心理学の分野からもたらされている。
■身だしなみに気を配ると創造的になれる
服装に関する心理学的な考察は、これまでにもさまざまな研究が行なわれてきているが、昨年に米・コロンビア大学のチームが発表した研究では意外にも、周囲よりフォーマルな装いをしてそれを実感しているときに、当人はよりクリエイティブになる傾向があると結論づけている。
例えば服装や身だしなみに無頓着な芸術家や科学者などもイメージとしては一般的だが、それに反し、フォーマルに身なりを整えることで創造的になれるという指摘には少し驚かされるかもしれない。では具体的にどういうことなのか。
実験に参加した大学生たちは、大学の授業に着て行く普段着の姿と、就職活動の時に着用するスーツ姿でそれぞれ一度ずつ研究チームの面接を受けたのだ。偏りが出ないように2つのグループに別けて、一方は最初に普段着姿で、もう一方は最初に就活スーツ姿で面接を受け、その後他方の服装に着替えて再び面接を受けてさまざまな質問に回答したのである。
そして面接の内容を分析すると、服装が異なることで当人の考え方に変化が生じていることがわかったのだ。その最も顕著な変化は、スーツ姿になると考え方が抽象的になるという傾向である。例えば動物の「ラクダ」を、スーツ姿の時には「乗り物」に分類する者が多くなるという。もちろん個人差もあるが、一方で普段着の場合はその思考方法も具体的なものになり、普段着の多くの者は「ラクダ」をやはり動物として分別するということだ。
「周囲よりもフォーマルな服装をすると、抽象的な思考をする傾向があり、細部に焦点をあてたものではなく全体を俯瞰した観点からものを考えるようになります。物事がどの“高度”で結びついているのかを見ようとするのです」と、研究論文の主筆であるマイケル・スレピアン氏は「The Cut」の記事で話している。
服装を変えることで、なぜ考え方もまた変わるのか。周囲よりもフォーマルで立派な服装に身を包むことで、主導権を握ったリーダーの気分になるからではないかと研究チームは考えている。そして自分を権力を持ったリーダーであると自覚することで、その考え方が抽象思考へと傾くというのである。
「リーダーは自分が率いる組織の進路について大きな構想を思い描くのです」とスレピアン氏は加えている。自分が直接個別の現場に対処するのではなく、どうしたら組織全体がうまく動くのかを考えることでおのずから思考が抽象的になるということだ。権力を持った人間が抽象思考に傾くのはこのメカニズムによってもたらされているのである。確かに企業経営などでも、それが的確であるかどうかは別として、上層部ほどいわば抽象的に広い観点から経営戦略を練っていると言えるだろう。
まさに“身なりは人を表す”ということわざを実証するかのような話題だが、どんなにフォーマルで立派な服装であっても、それが長く常態化すればその“効能”は薄れてくる。言葉の遊びではないがフォーマルを毎日着ていれば当人にとってはそれが普段着になってしまうからだ。これがまさにワードローブの見直しが必要とされる所以で、世のファッショントレンドに則って(必ずしも則らなくてもよいのだが)服装にちょっとした変化を加えることで、“効能”を持続させることができるのである。最新トレンドの服に身を包むという行為は、単にお洒落さを披瀝するというためだけでなはく、クリエイティビティの維持にも大きな貢献をしているのだった。
■普段着姿のほうが“お得”な思いができる!?
上質なフォーマルや最新ファッションには、抽象思考やクリエイティビティに結びつく“効能”があることがわかったが、常に身だしなみに気を配っていることは、社会生活の上で実際に“お得”なのだろうか? 興味深い研究が発表されている。
イスラエルの単科大学、ルッピン・アカデミー・センターの研究チームが2014年に発表した論文には、客の服装によって店員がどのような応対をとるのか、その傾向を探る実験と分析結果が述べられている。
接客サービス向上のため実施される覆面調査は、昨今は日本でも良く行なわれるようになっているが、実験ではこの「ミステリーショッパーズ」と呼ばれる覆面調査員30人が、3つの種類の異なる服装で客としていくつかの店舗を訪問したのである。3つの服装とは、だらしない普段着、カジュアルファッション、そしてフォーマルを含む高級ファッションである。確かに着古した普段着の客と、高級ファッションに身を包んだ客では、店員の扱いが違ってくることはじゅうぶんに予想できるのだが……。
覆面調査員たちのレポートを分析したところ、案の定というか、カジュアルファッションと高級ファッションで入店した際には、店員の対応も丁寧になるということだ。しかし面白いことに、実際に“お得”な思いをするのはだらしない普段着姿の客であったという。例えば値切り交渉をした場合、身なりの整った客よりも、お粗末な格好をした客のほうが安い価格で商品が購入できる傾向があるというのである。確かに店員の立場になってよく考えてみれば、だらしない普段着で来店している客はウィンドーショッピングでもなければ冷やかしでもないかわりに、価格には厳しい印象を受けそうではある。
個人営業の大衆的な料理店や居酒屋などでは、お客のタイプによって料理の質や量が変わってくるという話をたまに聞くが、良く耳にするのは身なりの良いお客には料理が上品かつ少量に盛付けられ、普段着や作業着の客には盛りが多いという話だ。もちろんケースバイケースのものではあるだろうが、このような場合でも普段着の客のほうがひょっとすると“お得”な思いをしがちなのかもしれない。ということは、フォーマルな服装は仕事以外ではあまり実益がないのか……。いろんな意味でオンとオフの切り替えが必要ということだろうか。
■お洒落なスポーツウェアに潜む4つの皮膚疾患のリスク
フォーマルにしてもカジュアルにしても、装うベースとなるのは自身の肉体である。身なりを気にするのであれば体型の維持と、場合によってはシェイプアップをすることも無視できないものになるだろう。もちろんここで指摘されるまでもなく、日頃からジムでの運動やジョギングに勤しんでいる諸兄も多いことと思うが、最後に少し注意を促したいのがスポーツウェアとの付き合い方である。
ジョギングウェアやトレーニングウェアなど、昨今はお洒落にもこだわったファッショナブルで着ていて快適なものが多くなっているが、休日などついつい楽だからと運動の後でもそのまま着続けてしまうのはかなり危険であるようだ。生活情報サイト「Your Tango」ではスパッツやヨガパンツを運動後もそのまま履き続けていることで、4つの皮膚疾患のリスクに晒されると警鐘を鳴らしている。
●毛包炎(もうほうえん)、毛嚢炎(もうのうえん)
体毛の毛根を包んでいる毛穴の一部分である毛包に、主に黄色ブドウ球菌が感染して炎症を起し膿をともなう症状に発展するのが毛包炎である。いったん感染すると進行が早く広範囲に及ぶのが特徴だ。特に脚の体毛を剃っている女性はかかりやすいといわれている。
●インキンタムシ(股部白癬)
股間の鼠径(そけい)部に、水虫の原因である白癬菌が感染するといわゆるインキンタムシになる。ピッタリしたスパッツやヨガパンツを履いて長時間過ごすことでインキンタムシにかかりやすくなる。これもまた、アンダーヘアの手入れをしている向きはさらにリスクが高まる。
●カンジダ膣炎
カンジダ腟炎は膣内の常在菌である「カンジダ」という真菌が一定値を越えて増えることで発症する。運動でかいた汗を吸って湿ったままのウェアを着続けることでカンジタ腟炎にかかるリスクが高まるということだ。
●間擦疹(かんさつしん)
股間や腋の下なんど運動によって摩擦が生じる部位に発症するのが間擦疹だ。摩擦で弱くなった皮膚の部位を湿った状態にしておくことで発症リスクが高まる。
とにかく運動後はすぐにウェアを脱いでシャワーを浴び、直接皮膚に接するウェアは毎回洗濯して乾かすことに尽きるようだ。当然といえば当然の行いではあるが、冬場であまり汗をかかなかった場合など、ついついそのままの格好でいたり、一度着たウェアを洗わずに何度か着てしまうケースもありそうなので注意が必要である。
服装とボディのどちらの身だしなみにも気を配って、ビジネスにもプライベートにも新風を呼び込んでみてはいかがだろうか。
参考:「The Cut」、「Springer Link」、「Your Tango」ほか
文=仲田しんじ
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