ビジネスパーソンは避けて通れない“職場の上司問題”を科学する

ライフハック

 離職の主な理由のひとつに職場で「公平に扱われていないから」という訴えがある。職場の人間関係は一筋縄ではいかない部分も多そうだが、ビジネスリーダーがどんなバイアスを持ちやすいのか、その傾向を知っておいても良さそうだ。

■一般的にリーダーは部下をどう見ているのか

 リーダーの采配に任されている部分が大きい組織では公平な人事評価は確かに難しいのかもしれないし、相性といった根本的な問題もありそうだ。しかしこの機会にリーダーは部下をどう見ているのかを少し確認してみてもいいかもしれない。リーダーシップ研究の専門家であるロナルド・リッジオ氏が解説している。

1.リーダーは鈍感である
 たいていのリーダーは部下たちが何を感じているのか、何を求めているのかについて理解が及んでいない。かつての研究でも、階層が上のリーダーであればあるほど末端の従業員の実態に鈍感になっていることが報告されている。したがってあなたが「公平に扱われていない」と感じていても、それに気づくことはまずないということになる。

2.リーダーは偏見を持つ
 リーダーの多くは自分が人物評価において偏見を持っていることに気づいていない。そのバイアス(偏見)も多岐に及んでいて、自分に好みが似ている者に好感を抱く類似性バイアス(similarity bias)、特徴のある人物に対して基礎評価を加点するハロー効果(halo effect)やあるいは単に好感を持っていることなどがある。

 加えて、上司は仕事に直接関係のない言動でも評価を下すことがある。おべっかやお世辞を言う部下には悪い気分はしないだろう。

3.リーダーは公正であることを求められていない
 組織全体で公正性が厳格に要求されていない場合は、リーダーは一定の業績を満たす限りにおいて自由裁量の度合いが高まる。したがってはじめから公正であることを意識しておらず、気の会う忠実な部下を贔屓にして他を無視したりする。

4.リーダーは部下のことを知らない
 多くの場合、リーダーは単に部下たちが不公平な状態に置かれていることを理解できず、喜んで仕事をしていると考えがちだ。単純に部下の気持ちをわかっていないのだ。

5. 部下の“被害妄想”であるケースも多い
「公平に扱われていない」と訴える従業員は少なくないが、実際にはそのような“差別”はないことも往々にしてある。組織において基本的に人事は秘密が保たれるので“被害妄想”が生まれやすいともいえるのだ。

 ではリーダーにはどのようなことが求められているのか。自分の考えにバイアスがあるという自覚と部下たちの状態をこまめにチェックして“気づき”を得ることに尽きるのだが、そのポイントは下記の通りだ。

●従業員のニーズや懸念に責任を持つこと。従業員を定期的にチェックしてその考え方を理解する。

●公正で客観的であろうと努力を怠らないこと。自身の潜在的な偏見を認識し、報酬の発生と評価基準を明確にする。

●公正性と公平な待遇を重視する組織文化を創造する。

●透明で正直であること。従業員に報奨がなぜ、どのように分配されるのか、なぜそれらの報酬には限度があるのかを知らせること。

 公正な組織は長い目で見れば業績の向上に資するものになるだろう。公正であることを実感できればどの境遇にある社員にもモチベーションが得られる。ビジネスリーダーには自戒が求められる話題だと言えそうだ。

■辞職を決意している状態でポジティブに働き続けるには

 実情はともかく、上司との折り合いが悪いなどの理由ですっかり職場が嫌になってしまうケースもあるだろう。そこまで症状が進めばもう転職するしかないのだが、それでも事情があってすぐには職場を離れることができないという場合も起り得る。働く身にとっては最悪に近い状態といえるが、こうした状況の中で何を心の支えにしてどのように働き続けたらいいのだろうか。産業心理学者のエイミー・クーパー・ハキム氏がアドバイスをしている。

 仕事が嫌になったらすぐに辞められる状態にあることは、ある意味では恵まれた環境にあるとも言える。しかし経済面や税金、公的保険や年金などの面からすぐには辞められないという場合もあり得るだろう。働く熱意を失った職場で、少しばかりの期間であるとはいえ退職までの時間をどのうように過ごしていったらいいのか。そのポイントは3つあるということだ。

1.“有終の美”ととらえる
“有終の美”を飾る期間だと考えることで、残りの勤務の日々を気を楽にして取り組めるだろう。転職に際し、場合によってはこの“有終の美”が最大6ヵ月に及ぶこともあることを覚悟することも求められる。

2.知識と経験を積む期間にする
 退職までの時間を勉強の期間だととらえてできるだけ多くの知識と経験を得ることに専念すれば、将来に向けてポジティブに職務に取り組めるだろう。また直属の上司ではなく、組織内の他部署の人々に接触して自分からボランティアで仕事をしてみることで、思わぬ可能性が生まれるかもしれない。退職を決意しているだけに大胆な行動もとれるのだ。

3.社外の人脈を拡げる
 キャリアとスキルがそれなりのものであるなら、広く自分の存在を知らせることで次の職場の選択肢が増える。またSNSを活用して現在のキャリア実績を示すことができ人脈を拡げることができる。

 退職を決めている状態で勤務する日々はしんどいとも言えるが、ポジティブな姿勢を崩さず、広げたネットワークの中の可能性のある選択肢にも積極的に接触して自分なりのキャリアを形成していきたい。

■“パワハラ上司”で幸せならばサイコパス?

 このように職場の上司は会社生活を占うかなり決定的な要素なのだが、それでも多くの勤労者はさまざまなタイプの上司の下である者は充実し、またある者は常に辞表を懐にして(いつでも辞職する決意で)働いている。職場でのいわゆるパワハラの問題が叫ばれて久しいが、それでも上司の1タイプとして部下を厳しく叱責することで奮起を促す“パワハラ上司”がまだ現実にも存在している。

 こうしたタイプの上司の部下になって実際に部署移動を希望したり退職したりするケースもあるだろうが、なんとこうした“パワハラ上司”の上司の下でハッピーな会社生活を送っている者がいるという。それはいわゆる“サイコパス”である「一次性サイコパシー」の人々だ。

“サイコパス”と聞かされれば、冷血非情な知能犯というイメージがあるが、心理学的には強弱こそあれ誰もが持っている性格的特性である。そして専門的にはサイコパスには、利己的な対人関係や冷酷さが特徴の一次性サイコパシーと、衝動性や反社会性が特徴の二次性サイコパシーの2種類に大別される。このきわめてドライでクールな一次性サイコパシー特性が強い者は、“パワハラ上司”の下で、ある意味で幸せな会社生活を送るということだ。

 アメリカのメンドーザ・カレッジ・オブ・ビジネスの国際的な研究チームが先日、産業系学術誌「Journal of Business Ethics」で発表した研究では、419人のビジネスマンを調査・分析した研究で、一次性サイコパシー度が高い者は“パワハラ上司”であり“独裁者型”のリーダーの下でその能力をいかんなく発揮して高い地位に上り詰めることが報告されている。

 反社会的行動が目立つ二次性サイコパシーに比べて、一次性サイコパシーは他者への同情心に欠け、冷酷で恐いもの知らずであり、それゆえに独裁的な上司など普通の人にはストレスになる要因から影響を受けないのだと研究チームは説明する。

 組織としては時代に逆行していると言わざるを得ない“パワハラ上司”だが、あえて“パワハラ上司”をリーダーに据えることで、有能なサイコパス人材を増やして成長を図ってきた組織がいくつもあることも研究では指摘されている。いわゆる“ブラック企業”もこの種の組織ということになるのかもしれない。

 なんだか後味の悪い話になってしまったが“パワハラ上司”が支配する“ブラック”な組織でたとえ活躍できたとしても明るい未来はなさそうに思えるがいかがだろうか。

参考:「Psychology Today」、「Psychology Today」、「Springer」ほか

文=仲田しんじ

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