何事においても重要である第一印象、いわゆるファーストインプレッションだが、そうであるからこそ意思決定の際には最初の印象に惑わされてはいけないと、ビジネスリーダーが警告している。
■ファーストインプレッションに警戒せよ
ヴァージン・アトランティック航空やヴァージン・レコードなどをはじめとするヴァージン・グループの創設者で会長を務めるリチャード・ブランソン氏がビジネスにおける意思決定の秘訣を話している。
ビジネスパーソンとの交渉の現場では、その人物にしても提案にしても第一印象が特に重要だとされている。一説では接触から無意識的にであれ10秒以内に最初の判断を下していて、その後にきわめて強い影響を及ぼすという。しかしそれだからこそ、ブランソン氏は重要なビジネス上の判断を、第一印象に強く影響されてはならないと釘を刺している。
「物事の良い点と悪い点を推し量るあなたの客観的な能力が、第一印象に影響されることがあってはなりません」(リチャード・ブランソン氏)
ファーストインプレッションの影響力が強大であるだけに、最初に抱いたポジティブな印象については過大評価をし、ネガティブな印象については過小評価をしている可能性があることを肝に銘じておかなくてはならないということだろう。
加えてブランソン氏は提案されたアイディアやプロジェクトの“隠れたオデキ(欠点)”を明らかにすることも重要であると指摘している。なぜなら完璧な提案やプロジェクトなどは存在しないからである。そしてこの隠れた欠点はまだ時間と対処できる余裕のある早い段階で見つけなければならないということだ。
慎重に分析することは良いことではあるが、しかしながらブランソン氏は分析しすぎて“麻痺モード”にはまり込んではならないという。じゅうぶん検討した末にどこかのポイントで「後のことは気にせず思い切ってやってみよう」と決断を下すことが求められるということだ。
つまり決してファーストインプレッションに惑わされずに慎重に検討し、一定の時間の熟慮の末に決断したことははどのような判断であれ確信を持って行動に移すということだろう。今を代表するビリオネアのアドバイスだけに耳を傾けてもいいのではないだろうか。
■グループでの意思決定は感情に注目
個人レベルの意思決定ではファーストインプレッションの影響力の強さにあらかじめ注意を払っておかなくてはならないが、会議などのグループディスカッションによる意思決定では、参加者の感情に注目することが重要であると、経営者でありリーダーシップ戦略の専門家であるエリック・ラーソン氏は主張している。ビジネス上の意思決定についての数千もの事例が収められたデータベースから、グループ内の感情について以下のことが統計的に導き出されるという。
●希望に満ち、興味深く、好奇心旺盛で、胸が躍り、発奮している=注意散漫で仕事が遅い、あるいは過度な楽観主義
グループ内でこうしたポジティブな感情が沸き起こっているのは良いことだが、一方で“素晴らしさの麻痺”を起こし、それぞれが喜んで別の方向へと探索に乗り出し、実際の意思決定が前に進まなくなる結果をもたらす。さらに期待が高すぎることもあり意思決定が難しくなる。
●不安で、ストレスを感じ、心配し、混乱し、不確かな気持ち=やる気を与えられた状態、あるいは問題解決志向
これらのネガティブな感情がグループ内に現れているときは、むしろ意思決定においては力の源泉となる。「必要は発明の母」ということわざがあるように、今の状況を変えようと多くの選択肢を考え、助力を惜しまなくなるので良い意思決定が行なわれやすくなる。
●自信に満ち、満足していて、嬉しい=強固な結束力を生み出すが、成果は乏しい
これらの感情はグループ内の結束を固くしチームワークを促進するが、良い意思決定ためには大きな障害となる。自信に満ちて満足している状態は新たな選択肢を考え出す動機を奪うものであるからだ。こうした感情が長く続くほど事態は悪化する。
●イライラしていて、怒っている=拒絶と不満の源となる
グループに緊張感をもたらすネガティブな感情だが、不機嫌や怒りにまで生じてしまえば、お互いの不信を招き視野が狭くなる。これでは良い意思決定ができるはずもない。
和気あいあいとした雰囲気の会議や意見交換会は一見、成熟した大人の判断や堅実な意思決定をもたらすものというイメージもあると思うが、実はそうではなく組織にとって現状維持的な“生ぬるい”意思決定をもたらすものでもあることを今一度確認したいものだ。
そしてこうした陥穽に陥らないためには、グループのメンバー全員に匿名でよいので今の支配的な感情を3つから5つ、正直に書き出してもらうことが効果的であると記事は指摘している。こうしてお互いの感情をシェアすることで、極端な感情は緩和され他者の感情を慮ることができて良い意思決定を下す条件が整えられるという。実はラーソン氏はこの一連の作業を素早く行うアプリ「Cloverpop」を開発してスタートアップ企業を立ち上げている。
もちろん個人レベルの意思決定でもその時の自分の感情を把握することがきわめて有効に働く。特に新しく思いついたアイディアに自己陶酔している時など、いったん冷静になって今の感情を書き記してみるとことで無謀な意思決定が避けられると言えるだろう。
■後継者選びで留意すべき3つのバイアス
アメリカのある統計では家族経営のビジネスの70%以上が、2代目になって経営が悪化するか破綻しているという。これはひとえに2代目の熱意や手腕が創業者に比べて大きく劣っているからにほかならない。
そして後継者選びの問題は組織においても重要な長期的経営判断なのだが、リーダーにとってきわめて難しい判断であるという。というのも、自分の後任を選ぶことはほとんどの場合、初めて扱う案件になるからだ。そしてその判断に異議を唱える声はあまり聞かれず、それが原因で優秀な社員が会社を離れる事態をも招きかねない。
このようにさまざまなバイアスがかかるためきわめて難しい後継者選びなのだが、ウォーリック・ビジネス・スクールのチェンウェイ・リュ准教授が後継者選びの際に留意すべき3つのバイアスを解説している。
1.成功バイアス
後継者を選ぶ場合、これまで大きな失敗をしていない人物がまず第一候補にのぼってくる。いわゆるキャリアに傷がない人物であり、そうした者ならば各部署や関係先をそつなく調停してうまく経営をこなせると期待してしまうのはある意味ではもっともなことだ。しかしそれが組織にとってよい判断になるとは限らず、いわゆる“大企業病”の発生源にもなり得る。過去に失敗をしている人物であっても、能力本位で後継者候補に入れるべきである。
2.全会一致バイアス
組織上層部の全会一致の支持を得る後継者候補を疑ってみるべきである。人にはそれぞれ好みや偏見があるものであり、満場一致で選ばれる候補というのは不自然であり、社内政治の影響も考えられ、組織が官僚主義化していることの現れと受け取ることもできる。全会一致で選ばれる後継リーダーは組織の繁栄にとってむしろ危険な存在となるのかもしれない。可能な限りほかの候補者を推薦したり異議を唱えるべきであるということだ。ちなみに古代ユダヤの法律では、全陪審員によって有罪とされた容疑者は逆転で無罪になるということだ。
3.自己中心バイアス
自分の腹心の部下が後継者候補に入らない場合は、その最も優秀な部下を一度降格させてみてもよいということだ。かなり驚かされる提言だが、これは自己中心バイアスを克服するためのものであり、次のリーダーにいったん降格した部下を側近として選ばせやすくするための方策であるという。優秀であればその後再び頭角を現して組織の存続のための戦力になる。ちなみに古代中国では、後継者争いがはじまると皇帝は最も信頼している腹心の部下をちょっとした罪状で刑務所に入れたという。これはこの部下を醜い宮廷内政治から守り、形の上で前皇帝を裏切ったことにしておくことで新皇帝から重臣として選ばれやすくなることを狙ったものであるという。
後継者選びに関わることは多くにとってめったにないことだとは思うが、もはや取り返しのつかない“大企業病”が現実の問題になっている今、組織の生き残り戦略のためにも後継者選びはいつにも増して重要な意思決定になったと言えるだろう。
参考:「CNBC」、「Forbes」、「Psychology Today」ほか
文=仲田しんじ
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