“ヒゲ男子”は本当に強いのか?

サイエンス

 オーストラリアで行なわれた大規模な調査で女性に好印象を与えていることが判明した“ヒゲ男子”だが、いったいその人気はどこまで続くのか。しかしこれまでの快進撃に陰りが見えそうな話題が続いている。

■ヒゲの格闘技選手は強いのか?

 男としての“力”の象徴であるヒゲだけに、同じ人物であれば生えていたほうが強く逞しい存在に見えるだろう。では実際にヒゲを生やした者のほうが“強い”傾向があるのだろうか。プロ格闘技選手を対象に“ヒゲ”の強さを検証した興味深い研究が報告されている。

 オーストラリアのクイーンズランド大学とニューサウスウェールズ大学の合同研究チームが学術ジャーナル「Evolution and Human Behavior」で発表した研究では、アメリカのプロ格闘技であるUFC(Ultimate Fighting Championship)の選手たちの試合データをもとに、ヒゲを生やした選手が“強い”傾向があるのかどうかを分析している。

 一説でヒゲは見た目の威圧感を高めるだけでなく、古来より男たちの戦いにおいて顔面を守るプロテクターとしても機能してきたといわれている。それがもし本当であれば、ヒゲを蓄えた格闘技選手はKO負けや流血の可能性が低くなるということにもなる。

 分析の結果、ヒゲの選手が強い傾向は見出せなかった。少なくともUFCにおいては、ヒゲのあるなしと勝敗の関連性はまったくなかったのだ。そしてヒゲのある選手が顔面の攻撃に対して特に打たれ強いわけではないことも判明した。ヒゲは強そうに見えるかもしれないが、必ずしも実際に強いわけではないことが指摘されることになったのだ。

 研究の副産物としてわかったのは、選手の腕の長さ(リーチ)が勝敗を占うものであることが認められた点だ。実績が同程度の選手であれば、リーチが長いほうが僅かではあれ勝率が高いのである。一方でヒゲと同様にサウスポーの選手とキャリアが長い選手が特に強いわけではないこともわかったという。

 研究チームによればヒゲは必ずしも実際の強さを体現するものではなく、その威圧感をもってしてむしろ直接戦うことを回避させるためのものかもしれない点を指摘している。少しばかり“ヒゲ男子”の評価が低下するような話題かもしれない!?

■女性的な顔の男性は子どもを持つ女性に好まれる

 8520人もの女性が調査に参加した2016年のオーストラリアの研究で“ヒゲ男子”に好感が持たれていることが浮き彫りになった。しかし今年に入ってややヒゲ男子人気を揺るがすかもしれない研究が報告されている。ある条件下においては女性は男性的な顔の男性よりも、女性的な顔立ちの男性を好む傾向が判明したのだ。

 南米・コロンビアの首都であるボゴタは、世界で最も危険な都市のうちのひとつだ。2012年の統計ではコロンビアの人口10万人あたりの殺人事件は30.8件ときわだって高い。ちなみにイギリスは1.0件である。

 イギリス・セントアンドルーズ大学の研究チームはコロンビア・ボゴタ在住の153人の男性と女性の異性の好みを割り出すとともに、生活状況に関するいくつかの質問をして回答を収集・分析した。

 回答データを分析した結果、子どもを持つ女性に女性的な顔の男性を好む傾向があることがわかった。特に「自分の子どもにとって男性は危険な存在である」という命題に同意する女性ほど、女性的な顔の男性を好んでいるのだ。

「私たちは、男性が子どもにとって危険であると強く信じている人々に、男っぽい男性が好まれていないことを発見しました。女性は男性よりも子どもに長く接し手もかけているので、子どもとって危険で暴力的な性質を持つ男性の顔を見て強いプレッシャーを受けるのです」と研究を主導したマーサ・ルシア・ボラス・ゲバラ博士は語る。

 これまでの研究では、男らしく逞しい男性はパートナーの女性にとって頼もしい存在であり好感度が高いことが報告されていたのだが、犯罪が多くドメスティックバイオレンスなども多い地域ではむしろ男らしさは女性にとって脅威に感じられることが増えるということだろう。

 また今回の研究では「自分の子どもにとって男性は危険な存在である」という認識は、教育、健康、メディアの影響よりもより強く女性の男性の好みの多様化をもたらしていることが浮き彫りになった。

「これらの所見は、家庭内外の暴力が男性の好みに与えるさまざまな影響を示唆しています。さらに女性的な男性を好むことは、男性の暴力を避けるための女性の戦略であり、暴力を受けるリスクが男性の好みに影響を与えることを示しています」と研究者の1人であるデイビッド・ペレット教授は語る。

 この研究での“男らしい男性”は必ずしもヒゲが前提となっているわけでないが、やはり“ヒゲ男子”にはやや分が悪い話題かもしれない!?

■女子校では女性顔の男性が好まれる?

 女性っぽい顔の男性は、危険な地域だけで好まれているわけではなさそうだ。世界有数の安全な国である日本でもまた、一部では女性顔の男性が好まれているという。それはなんと女子大に通う女子大生たちの間である。

 九州大学の研究チームが2017年に発表した研究では、画像処理ソフトで修正された男女の顔の画像(男女各1名は修正なし)を、女子大に通う女子大生、共学校に通う女子大生、共学校に通う男子大生にそれぞれ評価してもらう実験を行なっている。

 画像はまず男子学生14人と女子大生14人の顔をミックスして男女それぞれの“平均顔”を作成した。そしてそれぞれの平均顔に男性的特徴を強調したパターンと、女性的特徴を強調したパターンをさまざまな度合いで加工修正し計30パターンの画像を用意した。つまりその中には女性的な特徴を色濃く持つ男性の顔もあれば、男性的な顔だちの女性もいるということになる。

 収集した回答データを分析した結果、女子大に通う女子大生は女性的な男性の顔を好む傾向が浮き彫りになった。つまり同性に囲まれた環境にある女性は男らしさに溢れる男性よりも、女性的な男性のほうを魅力的に感じているのである。

 日本の場合、中・高・大と女子校で学業を送る女子学生も一定数いるが、こうした女性ばかりの環境では女性らしさや女性的な顔がいわば“標準”になっているのではないかと考えられるという。今回の研究ではあくまでも大学の時点で女子大に通う女子大生が対象になっているが、おそらく中・高を含めて女子校で過ごした年月が長い女子学生ほどこの傾向が強いのかもしれない。

 ちなみに一方で男子の場合は同性ばかりの環境が逆の働きになることが過去の研究で指摘されている。つまり男子校歴が長い男子学生ほど女性らしい顔の女性を好む傾向があるのだ。もちろん最終的には個々人の嗜好になるが、男ばかりの環境だからといってあらぬ想像が膨らむような事態(!?)には普通はならないということになる。ともあれ、こうした“ヒゲ男子”人気に水を差すような話題がここのところ続いているようだ。

参考:「ScienceDirect」、「ScienceDirect」、「J-STAGE」ほか

文=仲田しんじ

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