パートナーの“ビジュアルの劣化”でセックスレスに!?

サイコロジー

 地球上の多くの地域で男性が力を持つ“男社会”が長く続いてきたこともあり、男女の考え方に場合によってはかなりの違いが生じている。男女の“性欲”についてもかなりの認識の違いがあるようだ。

■“気持ち悪さ”が女性の性欲を封じ込める

 性欲の強さは個人差が激しく、また年齢によっても大きく異なってくるだろう。そしてもちろん性欲に“火がつく”きっかけやタイミングがある。

 こうした違いはあるもののそれでも往々にして男性は性欲が高まった時にはたいていの場合、妊娠出産が可能な年齢層の女性を相手にして性行為に及ぶだろう。その是非はともかくとして性風俗のサービスが実際に広く存在している事実がこれを裏付けている。

 一方で女性の方は、この場合ももちろん個人差はあるものの、おおむね特定のパートナーのみとしか性行為に及ばないイメージが強い。これは決して女性のほうが性欲が低いからというわけではなく、力の弱い女性にとって男性との肉体関係は基本的にリスクであり、特に理由があるならばともかく、普通はパートナー以外の男性と関係を結ぶ動機に欠けているからであると考えられる。

 文化人類学的に女性の性欲は制限されているとも言えるのだが、その慎ましさは考えられているよりも根深いのかもしれない。身体を許しているパートナーであっても、その外見が損なわれると性的接触を敬遠するようになるということが最近の研究で指摘されている。

 英・ポーツマス大学、スイス・チューリッヒ大学、オランダ・フローニンゲン大学の研究者による国際的研究チームが2017年6月に心理学系学術ジャーナル「Evolutionary Psychological Science」で発表した研究では、女性は魅力が損なわれたパートナーに対して性欲を抑制していることを報告している。

 実験は91人の心理学専攻の女子大生を対象に行なわれた。実験参加者は2グループに分けられ、Aグループにはポルノビデオなどの性欲が高まる映像を見てもらい、Bグループには性にはまったく関係のない自然をハイキングする番組を見てもらった。

 その後に参加者はいくつかの男性の写真を見せられその魅力をそれぞれ評価した。写真の男性にはさまざまなバリエーションがあり、きわめてハンサムな男性からまったく魅力に欠ける男性、そしてその中にはハンサムな顔立ちでありながらケガや病気によるダメージを顔に確認できる男性の写真もあった。

 収集した回答を分析したところ、性欲を刺激された状態で評価したAグループの参加者であっても、ハンサムではあるがケガや病気の痕跡を顔に残している男性は低く評価していることが判明した。つまりストレートに表現するならば“気持ち悪さ”が性欲を封じ込めているのである。

 この研究結果は、一度は惚れ込んだパートナーであっても、外見が損なわれることで性的な接触が抑制されることを示唆している。不可抗力の病気やケガであれば仕方ないともいえるが、広い意味でNASAお“ビジュアルの劣化”には肥満や不摂生、薄毛、身だしなみの欠如、加齢なども加わってくるのだろう。気心知れたパートナーの前であってもやはり身だしなみには配慮したいものだ。

■男女の“ポルノ観”の違いが浮き彫りに

 前述の研究では実験にポルノが使われているが、一般的なポルノに対する認識についても男性と女性とでかなり違ってくることがサイエンスの側から報告されている。

 米・ブリガムヤング大学の研究チームが2017年11月に社会心理学系ジャーナル「Journal of Social and Personal Relationships」に掲載した研究では、男女の“ポルノ観”の違いが浮き彫りになっている。女性は単純に“欲求不満”からポルノを見ているわけではないということだ。

 現時点において恋愛関係のパートナーがいる858人の男女に対し、研究チームは性的な映像コンテンツと当人の性的充足感の関係を探る調査を行なっている。具体的にはポルノの視聴についてと、性生活の満足度(前戯の時間、行為のバリエーション、全体的な満足感、頻度、愛情の程度、交接時間)などである。

 収集したデータを分析した結果、ポルノコンテンツの“活用”は男性において性生活の(不)満足感に関連していることがわかったが、女性の性生活の満足感には関係していないことが明らかになった。つまり女性は多くのケースで現状の性生活の不満解消のためにポルノを見ているわけではないということになる。

 ポルノに対する男女の認識の違いが指摘されることになったのだが、しかしならがもはや趣味といえるレベルにまで「ポルノ鑑賞」が常態化したヘビーユーザーには男女共にこれらのことは当てはまらないということだ。これはポルノを見過ぎていることで、その内容がすでに現実の自分の性生活とは関係のないものになっているからではないかと説明されている。いわばセックス映像に感覚が麻痺してくるということだろうか。もしポルノ観賞を生々しい体験にしたいなら、あまり数を見過ぎないほうがよいかもしれない!?

■信仰に篤くてポルノを見る人は男女平等の考えを持つ

 アダルトコンテンツに対する男女の認識の違いが浮き彫りになっているが、最新の研究ではなんとある種の人々にとってのポルノは女性観に影響を及ぼしていることが指摘されていて興味深い。“ある種の人々”とは宗教に帰依している人々のことである。

 女性の社会進出を促す取り組みが日本をはじめ各国で進められているが、それでも一部の人々の間ではいわゆる伝統的な女性観に固執する人々も少なくない。望まない妊娠をした際の中絶の権利に異議を唱える人々の多くは宗教的価値観をバックにしているのだが、こうした宗教に帰依する人々の中にも女性に対してリベラルな考えを持っている人々がいることが最新の研究でわかってきている。その人々の特徴とはポルノを見ていることだ。

 カナダ・マウントロイヤル大学とウェスタンオンタリオ大学の合同研究チームは、成人男性1万1658人、成人女性1万3988人を対象に、ポルノ観賞が女性観にどのように影響を及ぼしているのかを探る研究を行なっている。実験参加者の平均年齢は44歳、大半が既婚者で白人、そしてクリスチャンである。

 参加者は教会を訪れる頻度とポルノを見るか見ないか、またその頻度を自己申告して、女性観を浮き彫りにする質問に回答した。例えば「女性は家庭を守る存在」であるかどうか、「女性の大統領候補に投票するか」、「女性の中絶の権利を支持するか」、「政治は男性に任せるべきか」などといった質問である。収集した回答を分析した結果、興味深いことがいくつかわかってきた。

 最低でも月に1度以上教会を訪れる者は、女性は中絶の権利を持つべきではなく、外へ仕事に出ずに家にいて家庭を守るべきであるという伝統的な女性観を支持する傾向が高かった。しかしながら敬虔な信者であっても、ポルノを見る頻度が高い者は女性観がリベラルである傾向が浮き彫りになったのだ。つまりポルノを見ている宗教の信者はより男女平等の考え方をしていることになる。

 研究チームは、ポルノを見る男性には何らかの“内なる葛藤”が生じるため、女性に対する寛容度が高まるのではないかと説明している。やはりポルノを見ることにはある種の後ろめたさを感じており、この後ろめたさを解消するために女性は男性と同等かそれ以上の存在であると“再定義”しているということになる。女性が自分よりも弱い存在でないとするならば、ポルノを見てもそれほど罪悪感を感じなくてすむからだ。

 ポルノやアダルトコンテンツについて最近は何かとネガティブな見解が多いのだが、こうして一部では女性観に影響を与えている可能性も示唆されることにもなった。ともあれ昨今はこうしたポルノの影響をさぐる研究がいくつか登場していて興味深い。

参考:「Springer」、「SAGE Journals」、「Taylor & Francis Online」ほか

文=仲田しんじ

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