パソコン&スマホ全盛の時代だからこそ習慣づけたい“手書き”の時間

ライフハック

 たった一行でもいいから今日起った出来事を書き留めておくと、それが将来どう“化ける”かわからないという。何気ない日常の短い記録が将来に貴重な発見をもたらしてくれるかもしれないのだ。

■日常の些細な体験が過少評価されすぎている!?

 今この場で100万円もらえるのと、3年後に200万円もらえるという選択を提示されたら、どちらを選ぶだろうか。もちろんそれぞれの考え方次第だが、今すぐ100万円を受け取りたいと考える向きが多いかもしれない。その場合、たとえ倍額がもらえるにしても3年間という期間がそれを打ち消しているのだ。

 では、10年後に100万円をもらうのと、13年後に200万円をもらうのだったらどちらを選ぶだろうか。これも同じく、2つの選択の間のギャップは3年である。こちらのケースでは、どうせ10年以上待つのであれば、もう3年余計に待って倍額を手にしたほうが得だと考える人のほうが多くなるかもしれない。

 これはつまり「3年間」の価値が変化したことになる。明日からの3年間と、将来のある時点からの3年間は同じものには感じられないということだ。このように時間が経過することで価値が変わってきてしまい、意思決定に矛盾が生じてきてしまうことを「時間的不整合性(time inconsistency)」という。ある物事についての現在の評価が、将来においても同じであるとは限らないということだ。

 そして、我々は今の生活の些細な出来事を過小評価しすぎていると指摘しているのが、ハーバードビジネススクールの心理学者、ティン・チャン氏らの研究チームだ。

 研究では、ボランティアの実験参加者に“夏の思い出”の記録を残してもらった。ひと夏の間の日々の出来事や思い浮かんだ考えを簡単に記録し、その間に撮った写真なども残してもらったのだ。その後、これらの“夏の思い出”がそれぞれどの程度貴重なものかを、自身が過去に味わった忘れられない出来事などと比較して評価してもらったのだ。その後、これらの夏の思い出は保管された。

 7ヵ月後、この夏の思い出が詰まった“タイムカプセル”を開けて、当人に再び思い出の貴重さを評価してもらった。するとほとんどのケースで、当初の評価を上回るものになったということだ。つまり7ヵ月という歳月が、夏の思い出の価値を高めたのだ。

 このことから研究者たちは、些細な日々の出来事でも簡潔に記録しておくことで、それが将来きわめて高い価値を帯びた情報ソースになり得ることを指摘している。我々は今現在体験していることを過少評価しすぎているというのである。これは暮らしの局面だけでなく、日々の仕事にも当てはまることだろう。少しでも気になったことがあればその価値の評価はいったい度外視して、なんでも簡単に書き留めておくことがその後の大きな発見に繋がるということなのかもしれない。

■文字を書くことは“頭の体操”である

「日記」といってしまうと、何か意味のあることを書かなくてはいけないような気がしてしまい、面倒になって結局三日坊主に終わってしまいがちになるが、あまり大げさに考えずに単なる行動記録と割り切って「メモ」に残せばいいということになる。そしてその際には、ぜひとも手書きで記すことが推奨されている。デジタルガジェット全盛の時代であるからこそ、数少ない手書きの機会を確保することで、さまざまな恩恵に預かれるということだ。その効能は4つあるという。

●手書きは“頭の体操”になる
 新たな知識を吸収しようという際には、ノートにその情報を手で書き写すことが基本中の基本だ。手を動かすことで、脳の網様賦活系(Reticular Activating System)が刺激され、重要な情報に強い注意が向けられるようになって記憶の定着に有利に働くということだ。

 また、手を使って筆記することは児童期においてアイディアを組み立てる力の向上や、運動スキルの発達を促すものになることが研究で明らかになっている。さらに成人においても、手で文字を書くことは良い“頭の体操”になり、認知機能を良好に保つことに繋がる。

●手書きで良い文章家になれる
 パソコン全盛の時代にあっても、文筆家の中には意外なほど手書きで執筆している人々がいるという。アメリカ人作家、スーザン・ソンタグは1995年のインタビューで、作品の構想の段階ではアイディアなどをレポート用紙にフェルトペンや鉛筆で記していることを明かしている。どうしてもスピードアップしてしまいがちなキーボードに対して、手書きはゆっくりと思考のスピードにあわせて書ける点が好きであるという。『ティファニーで朝食を』や『冷血』で有名なトルーマン・カポーティは鉛筆による手書き派で、まったくタイプライターを使っていなかったこともよく知られている。

 2009年にワシントン大学から発表された研究によれば、小学生において作文を手書きで行なう生徒は、キーボードを使う生徒よりも文字量が多く、執筆が早く、文章の完成度が高いという傾向があることが報告されている。

●手書きで考えがまとまる
 情報が溢れる今日、ネットに繋がったパソコンの前で集中を保つことがますます難しくなっている。特にTwitterやFacebookなどのSNSが普及した昨今にあっては、気になる情報や人物について際限なくチェックすることができてしまう。

 インターネットがもたらした情報の洪水は生産性という観点からは諸刃の剣で、自力では集められない情報が簡単に入手できる一方、考えを乱される情報やあらゆる興味関心に訴える誘導型のステルスマーケティングも蔓延っている。そこであらためて注目されるのが紙とペンによる作業だ。考えがまとまらない時には、たとえ数十分でもパソコンを離れ紙とペンで思考をめぐらせてみれば、集中が途切れることなく知的生産に取り組むことができる。

●手書きは脳をシャープに保つ
 ペンで文字を書くことは“脳の体操”になる。「Wall Street Journal」の記事によれば、手で文字を書くことは中高年にとって運動スキルや記憶力を維持することに有効であるとともに、年齢相応に脳をシャープに保つための効果的な手段であることが指摘されている。

 また2008年に発表された研究によれば、未知の記号や音符、漢字などを認識する際に、一度手書きで書いてみたほうがよく憶えられることが報告されている。日々の行動記録をメモすることで、手で文字を書くことを習慣付けるきっかけになるだろう。意識的にキーボードやタッチパネルから離れる時間を作ってみてもよさそうだ。

■文字よりも絵にしたほうか記憶に残る

 実際に手を動かし、紙の上にペンで文字を書く行為にさまざまな効能があることがわかったが、文字よりもスケッチを描くほうがその効果はさらに大きくなるという研究も発表されている。物事を単語や文章にして書き留めておくよりも、スケッチにして描いたほうがより記憶に残りやすくなるということだ。

 カナダ・ウォータールー大学の研究チームの発表によれば、一連の実験を通じて、対象物を文字で記録するよりも絵に描いたほうが、後から思い出しやすい傾向にあることがわかったということだ。つまり文字情報よりも、画像情報のほうが記憶に残るということである。

 実験のひとつでは、参加者に「リンゴ」などの絵に描きやすい単語を40秒かけて次々に記憶してもらったのだが、Aグループは時間いっぱいノートに単語を書き記しながら暗記し、Bグループはその単語の絵を描いて記憶したのだ。その後の、一連の単語をできるかぎり思い出してもらったのだが、絵を描いて暗記したBグループのほうが2倍以上も多く単語を思い出すことができたという。絵を描くことは単に文字を綴るよりも脳の多くの機能を使っているため、より強い印象が記憶に刻み込まれることを研究者は指摘している。

「絵を描くことで思い出す際に利用できる、いくつもの要素が組み合わさった“記憶の手がかり”が得られます。このため絵にした物事の記憶はより辿りやすいものになるのです」と研究は結ばれている。

 もちろん記憶しておきたい物事の中には、なかなか絵にし難いものもあるだろうし、どのくらい素早く絵を描けるのかという個別的な“絵心”も影響してくると思われるが、興味深い脳のメカニズムであることは確かだろう。ぜひとも記憶に留めておきたいという物事に出くわした際には、簡単な絵を描いてみてもよさそうだ。そのためにはスマホだけでなく、ペンと紙もできる限りいつも携行しておきたい。

参考:「The Cut」、「Mental Floss」、「The Cut」ほか

文=仲田しんじ

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