ネットにもスーパーにもあるショッピングの“落とし穴”

ライフハック

 ルーティーンで購入している日用品や、仕事や趣味で使う詳しい分野の商品ならともかく、初めて接するジャンルの商品はどう選んでいいかわからないものだ。ましてや現物を見ないオンラインショッピングでは、雲をつかむような商品選びになるかもしれない。そこで助けになるのがユーザーのレビューや評価なのだが、実はそこに大きな落とし穴があることが最近の研究で指摘されている。

■ネットショッピングの“落とし穴”

 商品選びは時間が許す限りはじっくりと選びたいものだが、ひとつの買い物にそうそう時間をかけられるわけではない。オンラインショッピングサイトで気になる商品を見つけた場合、すでに購入したユーザーのレビューが気になるものだが、数が多い場合などはそれほど目を通せるわけでもないだろう。

 それでも必要に迫られたモノは購入することになるのだが、その際におかしやすいミスがあることが最近の研究で報告されている。我々はユーザーレビューの数に影響を受けやすいというのである。

 米・スタンフォード大学のデレク・パウエル氏らの研究チームが心理学系ジャーナル「Psychological Science」で発表した研究では、138人の実験参加者にAmazonのショッピングサイトにある2つのiPhoneケースのどちらかを選んで購入してもらう実験を行なっている。サイト上にあるさまざまな種類のiPhoneケースが対象となったが、それぞれの参加者には二者択一の条件で提供された。

 そしてもちろんAmazonの取り扱い商品であることから、どのiPhoneケースにもカスタマーレビューと5つ星評価が記載されている。

 実験参加者がどちらの商品を選んだのか、その結果を分析してみると、商品選びに際してカスタマーレビューの数の多さが商品選択の決め手になっている傾向が浮き彫りになった。

 あまり詳しくない分野の商品については“メジャー感”があるもの選びがちになるのは理解できるが、研究チームはここに落とし穴があることを指摘している。

 例えば25人のカスタマーレビューで、5つ星評価が2.9の商品があったとする。この商品はレビュー数自体が少ないので、2.9というあまり良くない評価はレビュー数が増えれば大きく変動する可能性もある。

 しかしその一方で、150人のカスタマーレビューがあって、同じく5つ星評価が2.9であった場合、この評価は評価者の数からいってかなり信用できるものになる。それでも実験参加者はレビュー数の多いこちらの商品を選ぶ傾向が強いのだ。つまりわざわざ“低評価の定評がある”商品を選ぶ落とし穴があるのである。

 もちろんレビュー数25の商品は、評価者が増えることでさらに低い評価の方へ振れることもあり得るが、だからこそ消費者は商品の詳しいスペックを読むなどして商品選びの判断材料をほかに見出すことが求められているともいえる。

 そして実際に研究チームがAmazonショッピングサイト内の商品35万点についての1500万のカスタマーレビューと5つ星評価を分析したところ、レビュー数と評価には何の関係性もないことが突き止められたという。レビュー数が多い商品は多くの購入者が満足しているような先入観を持ってしまうが、その評価はあくまでも別物なのだ。こうした思わぬ落とし穴にじゅうぶん留意してネットショッピングを活用したい。

■余計な食品を買わない5つの秘訣

 ネットショッピングばかりではなく、スーパーマーケットにも“落とし穴”は待ち構えている。

 買いたいと考えている品目と分量はたかが知れているのに、スーパーマーケットに行くとたまに食べたいと思うような食品が特売をしていたり、多めの量で買うとかなりお買い得だったりして、ついつい当初の意図に反した気前の良い買い物になったりするものだ。

 そしてタイミングが悪いことにちょっと小腹が空いている時にスーパーマーケットを訪れてしまった暁には、脂肪分が多く砂糖または塩が多い食品、いわゆる“ジャンクフード”に目が誘われてついついカゴに入れてしまったりもするだろう。そもそも“ジャンクフード”の最も大きな存在理由は、喫緊の空腹を鎮めるためであるのだ。

 どうしたら誘惑の多いスーパーマーケットで余計な買い物をせずに済むのか。栄養学者でシェフのゾーイ・ビングリー・プリン氏はスーパーマーケットで無駄な買い物をしないための“防止策”を5つ紹介している。

1.満腹状態で買い物をする
 やはり空腹で買い物をすれば余計な食品を衝動買いするリスクは高くなる。たとえ当人は理性的であると自覚していたとしても、空腹時の脳にはエネルギー豊富な食べ物を自発的に探しはじめるプログラムが組まれてしまっているからだ。そのため、無意識レベルの意思決定において、健康を優先した判断ができなくなるのだ。

2.買うモノを前もってメモしておく
 買うモノを事前にリストアップしたメモを持参してスーパーマーケットへ行くことを心がける。そしてメモに記したモノ以外は買わないようにする。同じく1週間程度の献立をあらかじめ決めてメモに残しておくことでも余分なモノを買わずに済み、またあまり健康に良くない出来合いの惣菜なども買わずに済むようになる。

3.仕事帰りにスーパーマーケットに行かない
 生活スタイルによってはなかなか難しいことではあるが、なるべく仕事帰りなどの疲れた状態で買い物をしないようにする。心身が消耗した状態で買い物をすると、やはり食品の選択において理性的な判断が難しくなる。

4.大型店での買い出しは週1回にする
 大型のスーパーマーケットで食料品を買い求めるのは週に1回にする。もし余計なモノを買ってしまったとしても、1週間内に分散できればダメージが少なくなる。

5.スーパーマーケット以外でも買い物をする
 週1回のスーパーマーケットでの買い物に漏れてしまったモノについては、小規模店舗で必要なモノだけを買い求めるようにする。ちょっとした買い物で大型スーパーマーケットを訪れると、売り場を歩いているうちについつい余計なモノを買ってしまいがちになる。

 食料品の買い出しと日々の食事の献立は、その場その場で決めるのではなく、1週間程度のスパンでプランを立てることが肝要のようである。

■空腹時の判断は周囲の影響を受けやすい

 空腹時や仕事帰りの疲れた状態で買い物をしないほうが良いことが指摘されているが、そうはいっても一人暮らしのビジネスパーソンなどはそもそも買い物ができる時間が帰宅途中しかなかったりもするだろう。しかしながら、こうした空腹時でもある心理学的なトリックを使えば健康志向の買い物ができるというから興味深い。

 ハンガリー・ユトレヒト大学のトレイシー・チュン氏を筆頭にした研究チームは、空腹時により衝動的になっていることを利用して、健康的な食品を選択できる方法を突き止めている。つまり空腹時に“ジャンクフード”を選ばなくなるのだ。いったいどんな方法なのか。研究チームは2つの実験を行なってその方法の効果を確かめている。

 ひとつめの実験はオンラインで行なわれた。200人の実験参加者に現在空腹であるかどうかを7段階評価で自己申告してもらった。その後参加者は、6種類の料理を見せられてそのうちのどれかを選んだ。料理の中にはサラダなどの健康的で低カロリーのものもあれば、ケサディーヤのような食べごたえのある高カロリーのメニューもあった。

 空腹な者ほど高カロリーなメニューを選びがちになるのはじゅうぶんに予測できるが、料理を選ぶ前に研究チームは参加者の半数にほかの人が何を選んだのかについてのグラフを見せたのだ。グラフは健康的なメニューを選んだ者が多いことを示しており、このグラフを見せられた参加者の多くは空腹であるなしに関わらずグラフが示す通りに健康的なメニューを選んだのである。これは社会的経験則(social-proof heuristic)による行動であるということだ。

 ふたつめの実験は、実際にフードコートに訪れた190人にメニューを選んでもらったのだが、ここでも半数にはこれまでの調査でどのメニューが選ばれたのかを示す円グラフを見せたのだ。この円グラフでも健康的なメニューの人気が高いことが示されており、やはりこのグラフを見た人は健康的メニューを選ぶ確率が高まったのである。

 空腹な人ほど衝動的になっているため、合理的な思考よりも経験則(ヒューリスティック)に従いやすくなっていて、多数派の意見をそのまま鵜呑みにする傾向が高まることが浮き彫りになったのだ。空腹の状態ほど“一番人気”や“売れてます”などの表示に目が行きそれを選びやすくなっているのである。もちろん人気の商品が不健康な“ジャンクフード”であれば何をかいわんやという話にはなるが、空腹時の判断は周囲の影響を受けやすくポピュラーなものを選ぶ傾向があることを知っておいても損はなさそうだ。

参考:「SAGE Journals」、「Huffington Post」、「ScienceDirect」ほか

文=仲田しんじ

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