何かのタイミングで身近な人の“意外な一面”を知らされたとき、たいていは驚かされるのではないだろうか。身近にいる人物だからこそ、早いうちに知っておきたい性格的特性がある――ナルシシズムだ。
■ナルシスト判定の5つのポイント
誰しもある程度は自己中心的であり自己愛を抱いているが、健全なレベルの自己肯定と病的なナルシシズムの一線はどこにあるのか。社会生活に多大な影響を及ぼす上司、友人、パートナー、そして自分自身がナルシストであるかどうかを見分ける5つのポイントがあるという。
1.“行動原則”が一般と異なる
ナルシストは自己高揚感(self-enhancement)を抱き、またこの自己高揚感を得るための活動を行なう。このナルシストの“行動原則”は、一般の人々との大きな認識のズレをもたらす。ナルシストは自分が大半の他人よりも優れていると思い込んでいることもあり、いわゆる平凡で月並みな幸せを必要とすることはない。そうした“小さな幸せ”は高揚感をもたらさないからだ。
2.共感、同情に欠ける
ナルシストは基本的に他者に興味がないので、人に共感したり同情したりする能力に欠けている。言い方を変えれば、人に共感したり同情しようとする必要性をまったく感じていないのである。したがってナルシストが他者と精神的に深く結びつくことは事実上不可能である。
3.人々の賞賛を得ようとする
ナルシストが常に必要としているのは周囲の人々の賞賛である。例えば新商品をいち早く購入して見せびらかしたり、パーティーや飲み会を企画したり、新たな趣味やアクティビティにハマって周囲に勧めたりする。また賞賛を得るためであれば仕事にも尽力して取り組む。
4.地位と肩書きにこだわる
他人に興味がないナルシストだが、地位と肩書きには強いこだわりを見せる。自分を含めて周囲の人物を地位と肩書きで判断しているのだ。その意味ではナルシストはきわめて政治的な人物であるとも言える。
5.人の話を聞かない
ナルシストは基本的に人の話を聞かない。会話してみて相手がどのくらい人の話を聞いているのか注意深く確認してみることで、ナルシストかどうかが見分けられる。もちろん単純な連絡事項などは聞き入れるが、一緒に解決案を探るような会話は基本的に不可能だ。
自分を含めて、周囲の身近な人々にこうした性格的特性がうかがい知れる言動があったかどうか、思い返してみても良いかもしれない。
■“西ドイツ育ち”にナルシストが多い!?
最近のナルシシズム研究では、国家の体制や国柄によって国民をナルシストに育てあげることが報告されている。米ソ冷戦時代の西ドイツで育った者に顕著にナルシストが多いというのである。
ドイツ・ベルリンにあるヨーロッパ最大の大学病院、シャリテ大学病院の研究チームが2018年1月に学術ジャーナル「PLOS ONE」で発表した研究では、米ソ冷戦時代の西ドイツで高慢型ナルシシズムが蔓延していたことを指摘している。
ナルシストは基本的に自己中心的であるため、外からの影響は受け難いきわめて個別具体的な現象であるとこれまで考えられてきたが、実は組織や社会の“カルチャー”によって、ナルシストが生まれやすい環境がある可能性が示唆されている。
研究チームは1025人のドイツ人にオンラインで高慢型ナルシシズム、脆弱型ナルシシズム、自尊心の程度を測定する性格診断テストを受けてもらった。
ちなみにドイツは第二次世界大戦終了から米ソ冷戦時代の1949年から1990年まで、「西ドイツ」と「東ドイツ」に別々の国として分断されていたのだが、1989年の「ベルリンの壁崩壊」を契機にその後統一されることになった。
実験参加者の約350人がかつての西ドイツ人で、650人が旧東ドイツ人だった過去があったのだが、収集したデータを分析した結果、ベルリンの壁崩壊の1989年に6歳から18歳だった西ドイツ人に、顕著にナルシストが多いことが判明したのである。
興味深いことに1989年で6歳以下や19歳以上だった西ドイツ人の“ナルシスト度”はほとんど東ドイツ人と変わらなかったということだ。つまり多感な時期を西ドイツで過ごした人々はナルシストに“養成”されていたことになる。
米ソ冷戦時代は確かに、西ドイツをはじめとする西側諸国は、共産化のリスクもあってか過度に資本主義を強調してきた過去もありそうだ。いわば西側世界の“最前線”であった西ドイツには一時的ではあれ物質主義的な資本主義の色合いが濃厚だったとも言え、これがナルシストを“量産”する土壌になっていたのかもしれない。ともあれ今回の研究でナルシストの“誕生”には社会文化的な要素もかなり影響していることが示唆されることになったのである。
■ナルシストはナルシストをフォローする
ナルシストは基本的に他人に興味はないのだが、それでもナルシストが高く評価しているタイプの人々がいる。それは自分と同じナルシストたちだ。SNSでナルシストをフォローしているのは、ナルシストであるというのである。類は友を呼んでいたのだ。
韓国・セジョン大学(世宗大学校)の研究チームが2017年12月に学術ジャーナル「Computers in Human Behavior」で発表した研究では、SNS活動からナルシストの特徴が探られている。研究チームはオンラインで募ったナルシスティックなインスタグラムユーザー276人に対して2つの調査を行なった。
1つめの調査でわかったことはある意味では想定通りであるが、インスタグラムに自撮り写真と集合写真をよく投稿しているユーザーほど、高慢型ナルシシズム(grandiose narcissism)の度合いが高いとほかのユーザーから見られていることだ。
もうひとつの調査では、ナルシストのユーザーは自撮り写真と集合写真をよく投稿している“ナルシスト”を好ましく感じていることも判明した。彼らナルシストは、ナルシストと思われるユーザーをフォローする傾向が強く、自身もまた自撮りや集合写真を積極的に投稿する意思を持っていることも明らかになった。
自撮り写真とグループ写真の頻繁な投稿は、一般的な写真を投稿するよりもネガティブなナルシスト行為であると解釈されているのだが、それを見る者がナルシストの場合、このネガティブさは中和されると研究チームは説明している。
自分と似たような活動を行なってインスタグラムで人気を博している“ナルシスト”を見て、ナルシストは嫉妬や羨望などを覚えるのかと思いきや、実のところは好ましく感じてフォローすることで自身の承認欲求を満たしているということだ。インスタグラムをはじめとするSNSはナルシストたちの“楽園”ということになるのかもしれない。
参考:「Science Alert」、「PLOS ONE」、「ScienceDirect」ほか
文=仲田しんじ
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