ナルシストが中年になるとどうなるのか?

サイコロジー

 若い時には多くにナルシスト傾向があるもので、それがお洒落への関心や身体を鍛える原動力になったりもしている。では若い時に程度の高いナルシストだった者はどのような中年時代を迎えているのか。実際に人々のナルシスト傾向を若者時代と中年期にそれぞれ測定した興味深い研究が報告されている。

■ナルシストが中年になると……!?

 若いナルシストはどのように歳を取っていくのだろうか。米・イリノイ大学をはじめとする合同研究チームが2019年9月に「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した研究では、実験参加者が18歳の大学1年生の時と、歳を重ねて41歳になった時にそれぞれ調査を行い、ナルシスト傾向がどのように変化しているのかを探っている。

 研究チームはナルシスト傾向を、虚栄心、有資格意識、リーダー意識の3つに分けて計測の対象にした。41歳の時点での調査では、テストのほかにもこの間に起こった人生上の出来事やキャリアの実態についても詳しく報告することが求められた。

 収集したデータを分析したところ、歳を重ねることでおおむねナルシスト傾向は低くなるのだが、体験したキャリアによってある程度異なってくることが明らかになったのだ。

 18歳の時に虚栄心が高かった者は41歳の時点で子どもが少なく、離婚率が高い傾向が見られた。しかしながら健康状態は良好であった。同じく18歳の時に有資格意識(自分にはそれなりの待遇を受ける資格があるという意識)が高かった者は、41歳になるまでの間により多くのネガティブな体験をし、現在の生活の満足度が低いと報告している。

 さらに18歳の時にリーダー意識が高かった者は、41歳の時点で管理職などの人の上に立つ仕事をしている割合が高くなった。そしてこうした管理職などに就いている人物には有資格意識が著しく低くなっていた。すでに重要な立場にあることで、ナルシストである必要がなくなっていると説明できる。

 中年になるにつれて全体的にナルシスト傾向は低下してくるのではあるが、虚栄心の減り方は一番少なく、一方で有資格意識が3つの中で一番低下することも判明した。興味深いことに41歳になるまでの間にネガティブなライフイベントを体験している者は虚栄心があまり下がっていなかった。

 おおよその傾向として、キャリア形成などをメインに中年になった自分の人生が報われていると感じている者はナルシスト傾向は低下し、まだまだ自分は報われていないと感じている者ほど若い頃のナルシスト傾向が残っているということだろうか。

■集団ナルシシズムが個人のメンタルに悪影響を及ぼす

 ナルシシズムが個人を越えて組織レベル、特に国家レベルに拡大したものが集団ナルシシズム(collective narcissism)である。自分が属している集団は実に素晴らしいのだと考え、他集団の者に優越意識を抱くナルシシズムだ。

 最近の研究ではこの集団ナルシシズムが個人のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが指摘されている。

 英・ロンドン大学やポーランド・SWPS大学などに籍を置く研究者であるアグニエシュカ・ゴレク・ド・ザバラ氏が2019年2月に「Frontiers in Psychology」で発表した研究では、集団ナルシシズムが及ぼす生活の満足度(wellbeing)への影響を探るものになっている。

 研究チームは集団ナルシシズムは、単なる組織愛やグループ愛ではないと一線を引いて区別している。集団ナルシシズムは自分の属しているグループの優秀性が外の人々にまだじゅうぶんに理解されていないという思い込みであると定義したのだ。

 自分が属しているグループが大好きで他に抜きん出ていると考えることで、メンバーの一員である自分に対する自信も増し、精神的にも充実しそうにも思えるのだが、それが集団ナルシシズムであった場合、むしろメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼすことが、ポーランド人が参加した実験で浮き彫りになったのである。

 具体的には、集団ナルシシズムはネガティブな感情と明らかに相関関係があり、ネガティブな刺激に対する過敏さに関連していたのだ。つまり集団ナルシシズムは自身のネガティブさの裏返しだったのだ。したがってネガティブな感情を抱きやすい気質の者ほど集団ナルシシズムに傾く可能性があることが示唆されてくる。

 集団ナルシシズムは決して自尊心を高めるわけではないことが指摘されているのだが、集団ナルシシズムに健全なグループ愛の色合いが強まることで、帰属する組織と自分への満足度が高まる可能性は残されているという。

 つまり他のグループを敵視したり、自らのグループの卓越性を外にアピールするのではなく、グループ内で結びつきを深め合うことで連帯感を育んでいかねばならないということになる。世界的に“右傾化”が指摘されている中、愛国心と集団ナルシシズムは厳密に区別されなければならないのだろう。

■ナルシシズムが人類を滅ぼす?

 自分が属するグループに帰属意識と親近感を感じるのはある意味で自然なことだが、集団ナルシシズムの“落とし穴”には気をつけなければならない。ではそももそもなぜ我々はナルシストになるのだろうか。

 生物学者で作家のニコラス・マネー氏によれば、我々人類は“ナルシストのサル”であると定義している。「我々はほかの動物とは違う」という人間のナルシシズムこそが人類を生物進化のトップに君臨させ、今日の文明を発展させる原動力になったのだと説明している。

 しかしこの人間の持つナルシシズムは“破壊”とセットになっていることをマネー氏は指摘している。その証拠に人類はライバルになり得る種をことごとく掃討して今日、生物界の“頂点”の立場を獲得している。ネアンデルタール人と人類は共存できる可能性はあったかもしれないが、結果的に人類はそれを許さなかったということになるのかもしれない。

 したがって人類の文明が発展することで“破壊”が進むのは、この観点に立てば当然ということになるだろう。“他とは違う”という人類のナルシシズムが自然環境を破壊し、いくつもの動物種を絶滅に追い込んできたことは誰の目にも明らかだ。

 そしてもちろん、人類社会の内部にもナルシシズムは向けられる。戦争はまさに集団ナルシシズム同士の戦いなのだとも説明できるだろう。そして今、人類のナルシシズムの果てに地球温暖化を招き、海洋をプラスチックまみれにしてしまった。我々人類はナルシシズムと共に滅びる運命にあるのだろうか。

 ある種のナルシシズムは個人の成長のためにも、組織や国家の資本主義的な発展のためにもうまく機能するのかもしれないが、今日の窮まった地球環境の中にあって、ナルシシズムや虚栄心を今後どう扱っていけばよいのか、人類が早急に答えを出さなければならない問題の1つなのだろう。

参考:「PsyArXiv」、「Frontiers」、「Science Focus」ほか

文=仲田しんじ

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