不得意科目のテストや大勢の前でのスピーチなど、苦手意識や不安感を伴うことに挑むときには、背筋を伸ばし姿勢を正してみることを最新の研究が推奨している。
■背筋を伸ばすと計算能力が高まる
ここ一番の勝負どころでは気持ちが引き締まり自然に居住まいが正されるだろう。そして実際に、姿勢を正して事に当たることでパフォーマンスが向上することが最近の研究で指摘されている。
米・サンフランシスコ州立大学の研究チームが2018年に神経科学系学術ジャーナル「NeuroRegulation」で発表した研究によれば、背筋を伸ばした良い姿勢では計算能力が向上することが報告されている。
125人の学生が参加した実験では、簡単な算数の問題を30秒で次々と解いてもらったのだが、その際に上半身が前屈みの姿勢と、背を伸ばした姿勢の2パターンで挑んでもらった。
それぞれのテストが終わった後、各学生にテストの難しさを10段階評価で申告してもらったのだが、56%の学生が背筋を伸ばしていた姿勢のほうが計算がしやすかったと回答していたのである。居住まいを正してテストに望むことで主観的な計算能力が向上することになる。
学生たちは最初に数学への苦手意識を測る心理テストを受けていたのだが、数学への苦手意識が高い者ほど、背筋を伸ばすことで計算能力が大きく向上すると回答していた。一方、数学にそれなりの自信がある学生は、どちらの姿勢でもあまり難しさは変わらないと回答する傾向も浮き彫りになった。
「数学への苦手意識がある人々において、姿勢は大きな違いを生み出しました。前屈みの姿勢では頭がうまく回らなくなり、クリアにものを考えられなくなります」と研究チームのエリック・ペパー教授は語る。
また同研究チームのリチャード・ハーベイ准教授によれば、前屈みの姿勢は基本的に“防御姿勢”であり、過去のネガティブな記憶を思い出しやすくなると説明している。そして背筋を伸ばすことのメリットは、計算のみならずあらゆるテストや大勢の前でのスピーチなどにも有効で、アスリートやミュージシャンにも役立つものになるということだ。
あまり得意ではないことに取り組むときや、会議や打ち合わせなどで人前で話すときなど、居住まいを正し背筋を伸ばしてみればポジティブに対処できそうだ。
■テキストネックを防止する4つの運動
スマホの普及により、テキストネック(text neck)と呼ばれる下をうつむいた悪い姿勢の健康リスクが懸念されている。実際にスマホの普及と共に肩や首の痛みを訴える患者が世界的に増えているともいわれて、多くの医師が警鐘を鳴らしている。
テキストネックにならないためには定期的な運動による姿勢の改善が求められる。そこでニューヨークのフィジカルセラピストであるカリーナ・ウー医師がテキストネックにならないための4つの運動を解説している。
1.ハト首
まさにハトの首のように、両肩の間のライン上に頭がある状態で10秒ほどキープする運動である。人差し指と中指の2本でアゴの先をグイッと軽く後ろに押すようにするとやりやすくなる(強く押しても意味はない)。ハトのように少し胸が張った状態になり、脊椎が頭を真っ直ぐに支えられるようになり頚椎への負荷が減るのだ。
2.うなずき
首の前にある左右の2本の筋肉を収縮させる運動である。うなづくといっても頭を縦に動かすのではなく、顔は正面を向いたまま首の筋肉を縮めて頭を後方へスライドさせるように動かすのがコツだ。これを10回ほど繰り返す。
3.胸を開く
両手をあげてヒジを曲げ、組んだ両手を後頭部の首にあてる。この状態で両肘をさらに開き胸を張り出す。まさに胸が開くような感触になる。これも10回ほど繰り返す。
4.脊椎の減圧と姿勢の矯正
椅子に浅く腰かけて両脚を45度に開く。手のひらでヒザ覆い、シコを踏むようなポーズで胴体、首、頭がピンと垂直に一直線になるように姿勢を整える。その状態で10回深呼吸をする。
いずれにしても、頭を正しい位置へと“置き直す”ことを目的とした運動である。スマホ利用中は背中を丸めて頭が前に出るため頚椎に負荷ががかることがテキストネックの主たる要因となっている。したがってこの運動によって姿勢を適時矯正することが求められているのだ。どれも仕事の合間にできるきわめて軽い運動なので気分転換を兼ねて行なえるだろう。
■床で寝ると姿勢が良くなる?
ベッドや敷き布団の軟らかさは人それぞれ好みが違ってくると思うが、良い姿勢を維持するためには床やマットレスを外したベッドで寝たほうがいいという研究がいくつか発表されていて興味深い。
睡眠に特化した健康情報メディア「SleepZo」の創設者であるクリス・ブラントナー氏は、床で寝ることで背中と首、頭が一直線になることを指摘している。そして姿勢がよくなるばかりでなく、続けていくことで腰痛も緩和されるということだ。
もちろん床で寝るといってもそのまま寝るわけではなく、ヨガマット程度の薄いマットを敷き、身体を冷やさない環境を整えて眠ることになる。ベッドの床板にヨガマットを敷いた状態でももちろんよいだろう。睡眠中、ふかふかのベッドの上では身体は少し沈み姿勢が固定されがちになり寝返りが少なくなるのだが、これが健康に悪影響を及ぼすといういうことだ。
一方で床に寝ることで睡眠中も身体が自由に動き、結果的に質の高い睡眠を得られるという。もちろん日本人である我々にとっては、畳の上で薄い“せんべい布団”で寝ても良いということになる。
床で寝ることのさまざまなメリットが指摘されているのだが実は条件があって、この恩恵を受けられるのは基本的に仰向けで眠る人であるという。うつ伏せやほとんどの時間横向きで眠る人には向いていないというから注意が必要だ。確かにうつ伏せや横向きではヨガマットの上では身体が痛くなって長時間眠れないかもしれない。
さらにうつ伏せや横向きでは顔が下にくるため衛生面での問題も懸念されてくる。床に近い空間はホコリも多く、呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性もある。さらに床は部屋の中で通常は最も低温であるため、季節によっては身体を冷やすことにもなるだろう。
それでも硬いマットの上で眠るメリットは見過ごせない面もあり、基本的に仰向けで眠るタイプの人であれば一度試してみてもいいのかもしれない。
参考:「San Francisco State University」、「NBC News」、「Elite Daily」ほか
文=仲田しんじ
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