同じ黒い丸でも大きな円の中心に置かれるのと、小さな円の中にあるのとでは大きさが違って見える。これはデルブーフ錯視と呼ばれるものだが、しかしながらこの錯視に惑わされない状態があるという。それは空腹の時だ。
■空腹の時は食べ物の量をシビアに見定めている
欧米ではこの10年の間にレストランなどの外食産業で使われる皿や器のサイズが小さくなっているといわれている。これはデルブーフ錯視に基づいて料理の量を多く見せ、お客により満足してもらおうとするためである。
そして近年、先進各国で肥満の問題がますます深刻化していることもあり、外食産業には料理の1人前の量を少なくするようにという当局からのお達しもあるようだ。
こうしたことから最近では家庭で使う食器も小さめにしているという向きも少なくないようだが、最新の研究ではこのデルブーフ錯視が通用しにくい状態があることを報告している。それは空腹時だ。我々は空腹の時、食べ物の実際の量を実にシビアに見定めていて、器の大きさに惑わされることはないというのだ。
イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学の研究チームが2018年6月に「Appetite」で発表した研究では、実験を通じてデルブーフ錯視が料理の量の認識に与える影響を探っている。
研究チームは合計で72人の男女が参加した2つの実験を行い、3時間以上空腹の者はピザの分量を皿の大きさに関わらずより正確に見積もれることを突き止めた。しかしながらこの現象は食べ物に関わることだけに適用され、空腹であっても食べ物には関係ないデルブーフ錯視には惑わされるという。
「人は空腹の時、特にダイエット中は皿の大きさに惑わされる可能性が低く、実際に食べた量が少なく感じて食べ過ぎる傾向があります」と研究チームのツヴィ・ガネル医師は語る。小さい食器は空腹の時にはむしろ食べ過ぎてしまうという逆効果をもたらす場合もあることになりそうだ。したがって普段使う食器の大きさはあまり気にしなくてよいのかもしれない。
■ダイエットの鍵は食べ物の量ではなく品質
減量したいと思えば基本的には食事の量を減らしなるべく運動することに尽きるのだが、実は食事の量を減らさなくても痩せられるという研究が発表されている。食事の量が問題なのではなく、その質が問題であるというのだ。
スタンフォード大学医学部疾病予防研究センター(Stanford Prevention Research Center)の研究チームが2018年2月に発表した研究では、600人の参加者の食事を1年間にわたって管理した実験が行なわれている。参加者をランダムに2つに分けて、一方は低糖質ダイエットを、もう一方は低脂肪ダイエットをそれぞれ専門家による定期的な指導のもとに1年間続けてもらったのだ。
低糖質ダイエットも低脂肪ダイエットも、その指導は食材の選び方と食べ方を教えるもので、脂質と脂肪のそれぞれのリミットを守る限りは食事量についてはあまり制限されなかった。
1年後、低糖質ダイエットのグループは平均約6キロ(13ポンド)の減量を果たし、低脂肪ダイエットのグループでは平均5.3キロ(11.7ポンド)の減量を達成した。どちらもグループもウエストサイズと体脂肪率が減り、血圧と血糖値が改善したのである。
実験の目的は低糖質ダイエットと低脂肪ダイエットのどちらがより効果的なのかを探る意味も少しはあったのだが、そうした問題よりもむしろ食べ物の品質を高めることが減量に結びつくことが示されることになった。
どちらのダイエットでも砂糖と精粉の摂取を控え、できる限り多くの野菜を食べることが求められた。そして肉にしても野菜類にしても品質の高いものを選んで食べることが要求されたのだ。つまりスナック類や菓子類、甘いソーダ飲料などをやめ、精製された麦や米、砂糖を控えることで、特に食事制限をせずに痩せるということになる。空腹の時にお腹を満たすのは生物としての人間にとって当たり前の行為だが、問題はその時に何を食べるのかにあるようだ。
■食事の量は手を基準にする
付き合いや旅先のホテルなどでバイキング形式の食事をすることもあるだろう。そして場合によっては食べ過ぎてしまうことがあるかもしれない。
自分で料理を盛りつける時、何を基準にしたらよいのか。ロンドンの栄養士であるリアノン・ランバート氏は自分の手を基準にすることを推奨している。
ランバート氏によれば、肉や魚、豆腐などのタンパク質は手のひら2つ分の量を1日に摂ることを奨励している。タンパク質は筋肉や骨の健康に欠かすことができない栄養素で、血圧を下げる効果もある。
オイル類やナッツバターなどのの脂肪も欠かせないのだが、カロリーが高く摂り過ぎは避けたい。そこで目安になるのは1回の食事で親指のサイズ以下に留めることだ。
米などの炭水化物については1回の食事でひとつかみが基準になるという。そしてなるべく玄米やサツマイモなど、精製されていない炭水化物を摂ることを推奨している。
そして野菜については1回の食事で二つかみ分を食べることを勧めている。したがって毎回の食事で最も見た目の量が多いのが野菜ということになる。
「健康な体重を維持するためには、毎回の食事の量のガイドラインが重要であることは疑いの余地がありません。しかしながら身体活動、睡眠、ライフスタイルといったほかの多くの要素も食事の量に関係しています」(リアノン・ランバート氏)
そして毎回の食事に意識的になることで、身体が必要としている栄養素に配慮できるようになるということだ。例えば食事中のスマホ使用やテレビ観賞を禁じてみてもよいという。何をどのくらい食べたのか毎回の食事に意識的でありたいものだ。
参考:「Ben-Gurion University of the Negev」、「JAMA Network」、「Daily Mail」ほか
文=仲田しんじ
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