“センス・オブ・ワンダー”が人生に及ぼす4つの好影響

サイコロジー

 大自然の絶景に畏怖の念を抱いたり、その道のプロの“神業”を目の当たりにしてド肝を抜かれたり、映画や音楽に感動したりする体験はこの世界の奥深さを実感させられる有意義な体験になるだろう。こうした“センス・オブ・ワンダー”な体験は、不確実性に満ちた今日の社会生活の中でメンタルヘルスに好影響を及ぼすことが最近の研究で報告されている。

■不安と懸念を和らげる“センス・オブ・ワンダー”な体験

 社会生活の中では、審査や診断の結果が出るまでにある期間待たされたり、ビジネスにおいても“検討中”には待つしか術がないことがある。各種の試験や就職面接を受けた場合もたいていはすぐには結果が出ないだろう。

 こうした結果を待っている間というのは懸念やストレスに見舞われやすい状態にあるといえる。なぜなら多くの場合、結果が出るまでは次の行動に移れなかったり、気分を切り替えることができなかったりするからだ。しかし最近の研究から、こうした状況下での懸念を緩和できることが報告されている。その方法とは“センス・オブ・ワンダー”な体験をすることだ。

 米・カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームが2019年5月に「The Journal of Positive Psychology」で発表した研究では、実験を通じて驚嘆(awe)させられる体験が“待つ身”の不安感を大幅に緩和することを報告している。

 729人が参加した実験ではそれぞれ模擬IQテストを受け、さらに他の実験参加者から当人がどのように見られているのか調査が行なわれたことが各人に伝えられた(実際にはこの調査は行なわれていない)。

 IQテストの結果と調査結果が出るまでの間、参加者はしばらく待たなければならなかったのだが、その間に3つの短い映像コンテンツのうちのどれか1つを鑑賞した。

 1つめのビデオは高画質で大自然の日没をとらえた息を呑む映像で、まさに“センス・オブ・ワンダー”が引き起こされるコンテンツ内容であった。2つめのビデオは可愛い動物がジャレ合っている模様が繰り広げられ心が和み幸せな気分になれる内容で、3つめのビデオは南京錠の製造過程を追ったドキュメンタリーで特に感情が揺さぶられることのない内容であった。

 研究チームはビデオを観た参加者の現在の心境を調査したのだが、日没のビデオを見た者は著しくポジティブな気持ちになっており、不安感が減少していることが突き止められたのだ。つまり“待つ身”の状態において“センス・オブ・ワンダー”な体験はその懸念を和らげているのである。

 テストや面接の結果がどうにも気になって仕方がないという時には、1日休んで自然を探索したり、スポーツ観戦などに興じてみてもいいのかもしれない。

■驚嘆が人生に及ぼす4つのポジティブな影響

 まさに心を打たれる体験となる“センス・オブ・ワンダー”なのだが、不安や懸念を鎮めてくれるという以上に、当人の人生そのものに4つのポジティブな影響を及ぼすことを、作家であり牧師でもあるリック・マクダニエル氏が解説している。

●創造性を促進する
“センス・オブ・ワンダー”な体験は人を立ち止まらせる。心を打たれる体験によって、普段は何気なく見過ごしていた物事について正面から向き合い細かいところまで注意を行き渡らせるようになるのだ。

 物事に向き合う態度が変わることで、体験に対してより開かれ、そこからより多くの情報を引き出して認識できることになる。そして好奇心が増し新たな学びを求めるようになることで、クリエイティビティが刺激される。

●幸せになれる
 物事に驚嘆したいという気持ちを持っていれば、日常の生活に変化が訪れる。畏怖の体験をしたいと思えば、物事のユニークで特別な一面を探そうと、さまざまな角度から多角的に物事を見るようになるのだ。

 そこに“神”の存在を探してみてもよいと牧師であるマクダニエル氏は指摘する。“神”は多くの異なったやり方で素晴らしい偉業を成し遂げている。人生の中で“神”が活躍する余地を残しておくことで、畏敬の念を起こさせる“奇跡”が起りやすくなるということだ。そしてこの体験は喜びと幸せに繋がるのである。

●心身を癒す
 これまでの研究で、“センス・オブ・ワンダー”な体験は、うつに関係しているといわれる炎症性サイトカインの分泌を抑制し、血圧を下げて免疫機能を高めることが報告されている。

 また畏敬の念を体験することは心理療法的なセラピー効果があるともいわれている。さらに専門家によれば“大自然の美”を体験することは、心身を癒すと共に活力をもたらすという。

●考え方を変える
 宇宙から地球を実際に目撃した宇宙飛行士の多くが思考のパラダイムチェンジを体験するという。これはオーバービューエフェクト(Overview Effect)と呼ばれ、地球を客観的に眺めることでいい意味で自分も地球もちっぽけな存在に感じられ、まさに“宇宙目線”で物事を眺められるようになるのだ。

 この“意識変革”によって自分のエゴが最優先だった状態から、他者と社会との緊密な連携が優先され、全体へ奉仕することに喜びを感じられるようになるということだ。人々が協力し合いながら共に働くことで、我々の社会的幸福度(social well-being)が高まるのである。

 このように“センス・オブ・ワンダー”を経験することのプラスの影響は非常に大きく、自発的に体験しようと意欲することで人生をより良い方向へ変え得るのである。

■“センス・オブ・ワンダー”を経験する6つの方法

「私たちは驚嘆を欠いた世界に生きています」と語る作家のクリスティン・サイン氏が、この無味乾燥した生活の中でどうしたら“センス・オブ・ワンダー”な体験を得られるのか、6つの心がけを解説している。

●自然に足を踏み入れる
 自然に触れる時間を確保する。公園や木立の中を歩き、草木や花を眺めて五感で自然を体験する時間を持ちたい。

●視点を変えてみる
 物事を見る視点を変えてみることでさまざまな気づきが得られる。手軽な方法としては気になる物事や光景をスマホのカメラを通じて眺めてみることで異なる印象を受けたり、別の発見をするかもしれない。

●細部を注視してみる
 ミクロな部分に着目してみる。足元の小さな石、路傍の草花、小さな虫など、細部に注目して何に惹かれるのか、何を感じるのか、何を思い出すのか、どんな手触りなのか、など検分してみることで意外な発見がある。

●静かにゆっくり過ごす時間を持つ
 静かな環境で特に目的を持たずにゆっくり過ごす時間を持ってみたい。スケッチブックにクレヨンなどを思いの向くままに走らせてみてもよい。何の気なく描いたものから発見や気づきがもたらされるかもしれない。

●過去の“奇跡”を検証してみる
 過去に体験した思いがけない出来事や、鳥肌が立った経験を少なくとも10以上リストアップしてみる。そしてそれらをひとつひとつ、何に驚かされたのかを検証してみるのだ。こうして“センス・オブ・ワンダー”に意識的になることで“奇跡”を身近なものにできる。

●瞑想する
 1日1回、目を閉じて今日1日に体験したことを反芻する瞑想の時間を設ける。何を見たか、何を聴いたか、どんな匂いを嗅いだか、何を味わったか、どんなものに触れたかのかを思い返してみることで、サイン氏は“神”があなたに何を伝えようとしているのか、その“メッセージ”に気づくことができると説明している。

 サイン氏の宗教的な言及についてはともかく、日々の生活をある意味で丁寧に過ごすことで、発見や気づきがもたらされ“センス・オブ・ワンダー”に遭遇しやすくなるということなのかもしれない。

参考:「 University of California」、「FOX News」、「Sheridan Voysey」ほか

文=仲田しんじ

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