セレブが我が子を裏口入学させる理由

サイコロジー

 英語のネットスラングとして“BS”と訳されるのが「ブーシット!(大嘘だ!)」という行儀のよろしくない口語だが、この“嘘つき度”はリッチな男性において顕著に高くなるというから興味深い。

■リッチな男性ほど自分を“盛る”

 就職面接などでわざわざ自分を低く見せる人はいないと思うが(いないとは限らないが)、一方で自分の能力や実績を“盛り”過ぎてほとんどウソつきになってしまうケースもあり得る。

 自分を“盛り”過ぎる人物に何か特徴はあるのだろうか。英・ユニバーシティカレッジロンドンと豪オーストラリアンカトリック大学の合同研究チームがこの問題に取り組んでいる。

 研究チームは数学の話題を16用意して英語圏9ヵ国の実験参加者に見せる実験を行なった。これらのトピックスについて参加者は、「初めて聞いた」、「なんとなく聞いたことはある」というものからから「よく知っている」までの5段階でそれぞれの話題について、どのくらい深く知っているのかを回答したのだ。

 いわば教養として数学についてどれくらい理解があるのかを測るテストになるのだが、実はこの16の話題のうち3つはもっともらしく巧妙に作りあげられた実際には存在しないトピックであった。つまりこの3つの話題について「良く知っている」などと回答した参加者は“嘘つき度”が高いということになる。

 研究チームによれば、この“嘘つき度”が高い人物は、自身のアカデミックな能力に自身を持ち、問題解決能力に優れていることを自認しているという。つまり自分の能力を“過信”しているのである。

 回答データを分析したところ、やはりというべきなのか(!?)男性のほうが“嘘つき度”が高いという明確な傾向が浮き彫りになった。さらに裕福な家庭の者もまた“嘘つき度”が高くなっており、つまりリッチな男性は“嘘つき度”が顕著に高まっていたのである。

 もちろんこの“嘘つき度”の高さが人をリッチならしめているわけではないのだが、研究チームはこうした自分を“盛る”自信が、就職面接などの各種の面談で時には有利に働くことがあることも示唆している。つまり“ハッタリ”が通じる場合もあるのだ。自分を過度に“盛る”のは決して褒められたことではないが、その自信溢れる態度が時に良いほうへ転がることもあるということだろうか。

■リッチな親は我が子に関係することでモラルが低下

 リッチな者ほど“嘘つき度”が高まるということは、金持ちはモラルが低いということになるのだろうか。アメリカのセレブの子息の組織的な裏口入学の実態が暴かれてニュースになったりもしたが、なぜ世間で誉めそやされるセレブがこうしたモラルに反する行動を犯してしまうのか。

 米・ミシガン大学の経営組織の専門家であるデビッド・メイヤー教授によれば、富裕な人々が非倫理的になるのにはいくつもの理由があることを指摘している。

 そもそも人の親になった以上は、我が子の利益をまず第一に考えるのは人情というものだ。そしてセレブにはその利益を最大限にできる財力と人脈がある。モラルに反する行為をしても、それが他者(我が子)のために行なったものだとすれば当人の罪悪感は少ない。したがってセレブの親たちは良心の呵責を感じることなく我が子の裏口入学を斡旋する組織に関わってしまうのだ。

 これはある意味で収賄事件などと同じメカニズムで、ある仲間内で利益がシェアされる不正であれば、さほど罪悪感を感じることなく行なえてしまうのである。

 ほかにもセレブや富裕層には一般人とは違うのだという“特権”意識の感覚もある。現在手にしている特権は決して手放してはならないものであり、特権を守るために競争心がかきたてられ、自己中心的になり、そして攻撃的になるのだ。

 つまり自分たち以外の他者に興味がなくなることで、ウソや不正を犯すことに躊躇しなくなり、募金やチャリティへの関心も薄れ、ナルシスティックで共感能力に欠ける残念な人物になってしまうのである。

 さらにこうした人々は現在の特権の適用範囲をさらに広げ、地位の向上を目論もうとする場合もある。これもまた自分の子どもを、自分には適わなかった名門大学への入学という行動に走らせる原動力になり得るということだ。こうなるともはやモラルを期待するほうがお門違いだということにもなりかねないがいかがだろうか。

■年収10万ドルの自分は貧しい労働者!?

 高収入のセレブやプロスポーツ選手、経営者といった人々にはぜひとも高いモラルを期待したいところであるが、昨今はそもそも“お金持ち”の概念がすっかり変わってしまっているのだという指摘もある。たとえ年収が1千万円あっても、決して少なくない数が自分は末端の労働者であると自覚しているというのだ。

 ビジネス系ニュースサイト「Business Insider」とリサーチ会社の「Morning Consult」が合同で行なった調査で、アメリカ人の金銭感覚の実態が明らかになっている。

 4400人のアメリカ人に対して行なった調査で、そのうちの570人が年収10万ドル(約1100万円)以上であると申告している。そして彼ら年収10万ドル以上の人々に、自分がどのような経済的階層に位置しているのかを尋ねてみたところ、興味深い実態が明らかになった。下記の通りだ。

●貧困である:3%
●労働者階級である:10%
●中流である:42%
●上位中産階級である:36%
●裕福である:6%

 年収10万ドル以上の者の半数以上が自分が中流以下と考えており、貧しい労働者であると自認している者も少なくないという結果になったのだ。

 さらに調査結果によると、子ども時代に裕福な家庭で育ったと答えたアメリカ人の半数以上は、今の自分たちが金持ちだとは思ってはおらず、そして少なくとも10万ドルを稼いでいるミレニアル世代の3分の1以上が、彼ら自身を中流階級と考えていることも明らかになった。

 長らくアメリカでは年収10万ドルが裕福な生活のひとつの目安であったのだが、どうやら現在は無条件の豊かさをイメージさせるものではなくなっているようだ。研究チームによればその最大の原因は昨今の生活コストの上昇にあることは間違いないということだ。特に大学の学費や賃貸住宅の家賃、住宅価格がこの50年で急激に上昇しているのだ。

 そしてこうした生活費の上昇で貯蓄が思うようにできないことが、年収10万ドル以上の人々の生活実感をさらに貧しいものにしているという。“貧すれば鈍する”というが、こうした実態はおそらくモラルの低下にも繋がってくるのかもしれない。

参考:「IZA」、「The Conversation」、「Business Insider」ほか

文=仲田しんじ

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