急な雨が降ればコンビニのビニール傘が品切れになるほど売れたり、猛暑日の昼休みには冷やし中華が即完売したりするなど、天候・気候と消費活動は密接に結びついている。リアルな環境にあまり影響を受ないと考えられてきたオンライン消費についても、実は天候がかなり影響を及ぼしていることが指摘されているのだ。
■スマホ広告の効果は天気に左右されていた
コンテンツ内容は同じでも、ネット広告では受け止められ方や効果がかなり独特であることがわかっているが、スマホなどで目にするモバイル広告は意外にも天気や気候の影響を受けていることが最新の研究で報告されている。
中国の北京航空航天大学(Beihang University)の研究者をはじめとする合同研究チームが先日発表した研究では、中国国内344都市の計600万人以上のスマホユーザーのモバイル消費行動データと、各都市の1時間単位の詳細な気象データを分析して、オンラインモバイル広告と天気の関係を探っている。
オンライン広告が天気に左右されているというのはかなり意外に感じるかもしれないが、分析の結果は興味深いものであった。晴天の時は曇りの時よりも、オンライン広告に対する反応が1.2倍に増え、実際にチェックするまでの時間も73%早くなっているということだ。
一方、雨のコンディションでは曇りの時よりも0.9倍に反応が落ち込み、チェックに要する時間が59%遅くなった。つまり購買意欲の高い順番から、晴れ、曇り、雨天となるのだ。
そして昨日よりも良い天気である状態と、天気予報に反して良い天気である時もオンライン広告への反応が良好になっているという。また稀な現象ではあるが、雨や曇りが予測されている中での突然の晴天は、オンライン広告への反応をきわめて増大させているということだ。
広告の表現手法にはさまざまなパターンがあるが、ことさら強いアピールをせずに落ち着いた雰囲気でさり気なく主張するニュートラルな広告もあるのはご存知の通り。また、ヘルスケア商品やダイエット商品などの広告では何かとネガティブな表現を先に見せてそれを“防止”することを提案するパターンもある。
興味深いことに、さり気ないニュートラルな広告に比べてネガティブな広告は、晴天で高まったユーザーの反応をその内容で損なわせてしまうのだが、逆に悪天候で落ち込んだ反応をそのネガティブな内容で改善しているという面白い現象も確認された。ネガティブ系広告は悪天候の時に見たほうが“身に染みて”消費に結びつくということになる。
例えば同一商品についてニュートラルな広告とネガティブな広告の2種類を用意しておき、悪天候の場所にいるスマホユーザーにはネガティブな広告を見せるようにすることが可能であれば、売り上げが促進されるのかもしれない。オンラインマーケティングの分野は今後も興味深い研究がまだまだ出てきそうだ。
■オンライン広告はネット販売より店舗の売り上げ増に貢献していた
効果についても戦略についても一筋縄ではいきそうもないオンライン広告だが、我々が考えている以上に効果があることが最近の研究で示唆されている。しかもオンライン広告はネットショッピングを促進しているというよりも、実店舗での売り上げのほうに貢献しているというからちょっと話がややこしくなるかもしれない。
米・ロチェスター大学のガレット・ジョンソン氏、Netflixのランダール・ルイス氏、Pandora Mediaのデビッド・ライリー氏の3人が「Yahoo!」の協力で300万人のYahoo!ユーザーを対象にして大規模な広告実験をかつて行なっている。
あるアパレルブランドのキャンペーン広告をポータルに2週間表示させたのだが、比較のためにこの広告が表示されないグループも設定してこのキャンペーンの効果を分析した。研究チームが分析した結果、このキャンペーンで同社はアパレル商品の売り上げを3.6%伸ばしたことがわかった。今回のキャンペーン広告に要した費用のおよそ3倍の金額になるということだ。つまりじゅうぶんに元が取れる広告キャンペーンであったことになる。
キャンペーンは成功に終わったことになるのだが、そもそも同アパレルブランドはネット販売の割合はごくわずかである。そして同者は研究チームに「オンライン広告がどれくらい実店舗での販売に貢献しているかが知りたい」というリクエストがあったのだ。小売メインの同社にすれば、オンライン広告がいったいどれほど効果を及ぼしているのか、雲をつかむようなものであるのは想像に難くない。
研究チームは各種の顧客データを分析して調べたところ、オンライン広告で増えた売上の84%が実店舗販売によるものであるとの結論を導き出した。つまりオンライン広告の効果のほとんどは実店舗へ向けられているということになる。
今回の研究は、もし企業がオンライン広告をオンライン販売のためだけのものと考えている場合、多くの場合その効果はまったく満足できるものでないことになるが、実はその効果の大部分は小売販売の増加に繋がっているものだとすれば、オンライン広告への認識が大きく変わることになる。つまりこれだけスマホユーザーが増えた今日にあって、もはやオンライン広告もテレビCMと同じようなマスメディア広告としても機能しているのだ。
特に衣類のように、できれば実物を手に取って確かめてみたいという種類の商品はオンライン広告で見て気になった場合であっても、なるべく店舗で買おうとするのは理解できる行為だ。オンライン広告の影響力がどんどん増していることが実感できる話題だろう。
■スマホ広告が最も効果的な場所とは
モバイル広告の効果が群を抜いて高まる場所があるという。それはなんと満員電車の中だ。
米・エモリー大学や中国・四川大学の研究者らによる国際的研究チームは大手通信プロバイダーの協力を得て、地下鉄でのモバイル消費行動を探った研究を昨年に発表している。
スマホが普及して以来、今や乗客の大多数がスマホを眺めているというのが電車内の日常の景色になっているが、実際にどれほどスマホに“浸って”いるのかを、地下鉄内でのスマホユーザーのオンライン消費行動を辿ることで分析したのである。
中国某所の地下鉄路線を舞台に、ランダムに選んだスマホユーザー約1500人のオンライン消費行動を分析したところ、混んでいる列車内であるほど、オンライン広告への注目度とオンライン消費が増えていることがわかった。1平米あたりに乗客が2人以下の場合、オンラインで実際に消費活動を行なう率は2.1%に過ぎないものの、1平米あたり5人に増えると消費活動率は4.3%に増えているのだ。混んだ車両の中では乗客の100人に4人以上が実際にスマホで商品やサービスを購入していることになる。実際の購入には到らなくとも電車内では、広告を検討したり商品を検索したりという行動がごく普通に行なわれているのである。
今回の研究によって研究チームは物理的な混雑がオンライン広告への高い反応を引き起こしていると結論づけている。
「今日、混雑した環境の中でスマホは精神面でも都合が良い逃避先になっています。その結果、混雑した環境の中ではよりスマホと強く結びつき、表示される広告にも普段より注意をはらうようになるのです」と研究チームの一員であるエモリー大学のマイケル・アンドリュー氏は語る。
見知らぬ他者に囲まれ、身体活動がほとんどできない混雑の中では、スマホ画面で目にしたオンラインモバイル広告を検討する良い機会になっているのである。
そしてこれはなにも“ラッシュアワー”時に限らず、混雑している状況であれば時間帯に関わらずオンライン消費行動が高まっていることも判明している。さらに自然な混雑だけでなく、遅延による混雑でもこの高い消費行動が見られるということだ。
しかしながら研究チームは、これはどの電車や地下鉄網でも一律に起る現象ではなく、利用者の混雑への慣れ具合でも変ってくることを指摘している。つまり満員電車が当たり前になっている地域では、混雑に対する利用者の“耐性”も高くあまりメンタル面での変化を促さないかもしれない。そしてあまりにも混み合っていればスマホを操作すること自体が難しくなるだろう。
それでも、混雑した中に身を置くほどスマホに“浸って”しまうという基本的傾向はデータからも確認できたことになり、自戒を込めつつ気に留めておいてよい話題になるだろう。
参考:「POST Online Media」、「INFORMS」、「Daily Mail」ほか
文=仲田しんじ
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