電子メールやSNSの普及でハガキや手紙を一筆したためる機会がめっきり減ったと思われるが、ペンを取って紙に文字を書けば、その文面から本人のさまざまな性格特性がわかるといわれている。
■“筆跡鑑定”4つのポイント
電子メールと違い、肉筆は本人そのものをあらわすと考えられており、専門家に言わせれば筆跡から性格的特性を示す5000もの手がかりがあるという。まさに“書は人なり、文字は人なり”なのだ。
「書くことは“脳を写す”ことであり脳が筋肉に信号を送って筆記具をコントロールしているので、文字とその配列のさせ方は個人の持つユニークな傾向を表します」とイギリスの筆跡学者であるイレーヌ・キグリー氏は語る。キグリー氏によれば筆跡から性格特性を推察するのにいくつかのポイントがあるという。
●文字のサイズ
文字のサイズが大きければ、社交的で外向的な人物であり、人々を愛し注目を集めることに楽しみを感じる。大きな文字はまた自信のあらわれでもある。
逆に小さな文字を書く人はシャイで引っ込み思案だが、勤勉で集中力を発揮できるタイプだ。また独立心に溢れクリエイティブでもある。
中くらいのサイズの文字を書く人は、物事を広く受け止めて適応能力に優れる。
●文字の傾き
書いた文字に傾きがない人は執筆中に感情を表に出さないため、ロジカルで実務的に文章を書ける。そして独立心が強い。
もし書いた文字が右に傾いているようであれば、コミュニケーション好きであることを示している。そして基本的に親切で人を巧みに操ることに長けている。また新しい体験に対して心を開いていて、新たな出会いを歓迎する。
書き文字が左に傾く人は、基本的にシャイで自分を表に出さない。
●文字の姿
丸っこい文字を書く人はクリエイティブで芸術的な才能を備えていることを示している。一方で角ばった文字を書く人は知性と積極性を宿している。
また文字が繋がりがちな人は意思決定においてロジカルでシステマチックな判断ができる。
●筆圧
筆圧が弱く鉛筆やシャーペンの文字が薄い人はセンシティブで共感能力に優れる。
対して筆圧が強く文字が濃い人は、物事に熱心かつ真剣に取り組む傾向があるものの、緊張しやすい面もある。
筆跡学の専門家から見ればもっと多くの着眼点があるのだろうが、基本的には上記のポイントで身近な人々の“筆跡鑑定”をしてみれば面白いかもしれない。
■手書きがもたらす5つのメリット
このスマホ全盛の時代にあっても手書きの手帳は根強く支持されている。
我々が文字を手で書く行為をおいそれと止められないのは、そこにいくつものメリットがあるからであるという。手書きが可能なモノクロペーパータブレット「reMarkable」のブログではなぜ手書きが勉強や学習に有効であるのか、その理由を5つ解説している。
1.集中力が増す
2016年のハーバード大学の研究では、学生たちは手書きでノートをとることで、より学習内容に没頭できることが報告されている。これは集中力が高まっているからである。
手書きのメモに切り替えることで注意を逸らすものを減らせるだけでなく、学習したい情報の内容に集中できるのである。つまり画面をタッチしたりキーボードを打つよりも手書きはより強く印象に残る体験になるのだ。
2.理解力が高まる
手書きによって集中力が高まることで、同時に理解力も高まるということだ。
2007年の米・カーネギーメロン大学の研究では、高校生に代数方程式の問題を解かせる際に、パソコン上でタイプするやり方と手書きで計算する方式で挑んでもらったのだが、その理解力に大きな差が出た。手書きのほうがより深いレベルで方程式の解き方のプロセスを理解できるということだ。
3.記憶力の向上
試験勉強は記憶力テストのような側面もあるのだが、記憶する情報をタイピングするよりも手で書いたほうがよりよく覚えられることが昨年のフィンランドの研究が報告している。
最近のいくつかの研究は学校でのタイピング学習を疑問視しており、記憶力と学習効果を向上させるためにペンとノートで勉強すべきであると指摘している。
4.気の赴くままにペンを走らせる
講義や講演を聴講したりインタビューで人の話を聞くときなど、気の向くままにメモを取ることで、29%も思い出しやすくなることが2009年の英・プリマス大学の研究で報告されている。
四六時中何かを落書きしている人は英語でドゥドラー(doodler)と呼んでやや揶揄するニュアンスもあるのだが、最近では認知や記憶、発想などこのドゥドラーであることのさまざまなメリットが注目されている。
5.創造性とインスピレーションの向上
書くことで認知のプロセスを良い意味で遅らせることができるという。頭の回転を遅くすることで、さまざま“気づき”や新たな発想が生まれ、創造性とインスピレーションの向上に繋がる。
2016年の英・サリー大学の研究によれば、タイピングよりも手書きは対象をより強く感情面に結びつけられるということである。したがって手書きのほうがよりクリエイティブなマインドセットでいられるということだ。
パソコンとスマホからいったん離れて、意識的に“手書きの時間”を作ってみてもよさそうだ。
■子どもたちがペンを正しく握れなくなっている?
ペンで書く機会が減っているのは子どもたちも同じだ。早くからタブレット端末などに親しんでいる現代の子どもたちはそのうち正しくペンを握れなくなるのではないかと専門家が警告している。
イギリスの小児作業療法士(pediatric occupational therapist)のサリー・ペイン氏によれば、10年前に比べて小学校入学時点(4歳)で、ペンを持って動かすのに必要な筋力と器用さを持ち合わせていない子どもが増えているということだ。
「学校に通ってくる子どもたちには鉛筆が与えられますが、基本的な運動技能を持たないため鉛筆を持てません。鉛筆をつかみ、動かすには、指の細かい筋肉を力強くコントロールする必要があります。子どもにはそのスキルを開発する機会がたくさん必要なのです」(サリー・ペイン氏)
ペイン氏によれば子どもの遊びが変化していることが、子どもがペンを握れなくなっていることに関係しているという。
「(レゴなどの)ブロックの作成、切り貼り作業、玩具を動かしロープを引っ張ることなど、筋肉作りを促進する遊びをさせるよりも(親にとって)子どもにiPadを与えるほうが簡単です。こうしたことによって、子どもたちは鉛筆をつかんで動かすために必要な基本的スキルを開発できていないのです」(サリー・ペイン氏)
ペイン氏は実際にペンをうまく使えない子どもたちを対象に6ヵ月のプログラムを主催している。こうした子どもの親たちは、やはり小さい子どもたちに携帯ゲーム機やタブレット端末などを与えて遊ばせていたということだ。
教育現場のほうでもタブレット端末やパソコンは普及しており、こうした端末は有効に活用され教育的成果をあげているのだが、子どもの時代から座りがちな生活を習慣づける要因にもなっている。身体を動かして遊ぶ機会が増えれば手の筋肉も自然についてくるだろう。ペンでメモを取ることが奇特に映る時代は来て欲しくはないものだ。
参考:「The Sun」、「reMarkable」、「The Guardian」ほか
文=仲田しんじ
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