スマホを携帯しているだけで脳活動の一部を浪費していた!

サイエンス

 スマホなどによるネットの長時間利用が問題になっている。作業中や勉強中にスマホを横に置いて“チラ見”するだけでも脳の情報処理能力が低下するという。

■スマホの存在だけで情報処理能力が低下

 米・テキサス大学オースティン校の研究チームがこの4月に発表した研究では、スマホの存在を身の回りで認識しているだけで、作業や課題に取り組む能力と集中力が低下することが指摘されている。たとえ画面を下にして置いたり、電源を切ったりしてもそのマイナスの影響は拭い去れないというから厄介だ。

 実験では520人のスマホユーザーに、スマホをサイレントモード(マナーモード)にしてもらい、一時的に別の部屋で保管するか、衣服のポケットやバッグに仕舞うか、画面を下にして机の上に置くかのいずれかの処置を選んでもらい、PC上で問題を解く一連のテストを行なった。

 テストの成績が一番良かったのはやはり、スマホを別の部屋で保管した人々で、ほかの2グループと比べて抜きん出て成績がよかったのである。ポケットやバッグに仕舞ったグループと、机に置いたグループには成績にほとんど差は生じなかった。これはつまり、必ずしも視界に入る場所でなくともスマホを携帯しているだけで気を紛らわすにはじゅうぶんな影響力を及ぼしていることになる。しかしこれには個人差もあり、スマホの存在が気にならないタイプの人々には、条件を変えた実験でテストの成績に影響していないことがわかった。

 続く実験では、275人の参加者に事前にそれぞれの“スマホ依存度”を自己申告してもらってからテストを行なった。そして今回はスマホの電源を完全に切ってもらったのだ。

 想定の通り、“スマホ依存度”が最も高いグループの成績が最も悪かったのだが、それは机に置いた場合とポケットかバッグに入れた場合だけで、別室で保管した場合は成績の低下はみられなかったのだ。ということはやはり、ソノ気になればスマホを使うことができる状態になっているだけで、スマホのことがどうしても気になってしまっていることになる。しかも電源が入っていようがいまいが関係ないのだ。

「この実験結果は、スマホの存在感がますます強まっているがゆえに、スマホユーザーの認知機能を低下させていることを示しています。(テスト中に)スマホのことを気にしないようにするということは、そのプロセス自体が脳のムダ使いになっているのです」と研究チームのエイドリアン・ワード氏は「Science Alert」の記事で言及している。

 つまり“スマホを気にしなくていい”と常に自分に命じていることで、皮肉にも一部の脳力を使ってしまっているのである。したがってスマホが身近にあるだけで、テストで脳力を余すことなくフルに使うことができなくなってしまうのだ。これを解決するには自分の身から物理的にスマホを引き離すしかない。

 もちろん今やスマホなしでは仕事にも生活にも支障をきたすと実感している人も多いのだろうが、オフの日などはあえてスマホを持たないで過ごしてみてもよいのではないだろうか。

■若年スマホ依存はポルノサイトで暴言を発信しやすくなる

 若年層の過度なネット利用で特に問題になるものの1つが、アダルトサイトへのアクセスだろう。スマホ依存の若者の言動を探った研究から韓国で行なわれている。

 スマホ依存、ネット依存が深刻な問題となっている中、特に危険視されているものに、SNS依存症やネットショッピング依存症、オンラインゲーム依存症、サイバーポルノ依存症などが挙げられる。その中でもスマホ依存とアダルトサイト上の非適切行為の関連を調べる研究が、韓国の1020人の高校生を対象に行なわれた。

 統計学的手法で行なわれた調査の結果はショッキングなものであった。青少年期のスマホ依存の度合いと、ポルノサイトへのアクセス、及び性的暴言を発信する頻度には正比例する強い関係があったのである。

 さらにアダルトサイトへのアクセスの頻度と、オンライン上の性的暴言の発信頻度には有意な関係があり、そして性的暴言の頻度は、オンライン上の性的非適切行為を促すものであることも浮き彫りになった。

 青少年はまだ社会道徳的に成長途上にあることもあってスマホ依存症になりやすいため、青少年のスマホ利用には適切な規制やガイドラインが必要があるとして研究は結ばれている。スマホ依存症に加えてアダルトサイト依存症は、もちろん大人の間でも問題になっているが、多感な青少年期に深刻な影響を受けさせないようにしたいものだ。

■ネット利用歴が長いとリスクテイカーになる!?

 認知科学研究におけるファジートレース理論によると、推論には2種類あるといわれており、それぞれ逐語的推論(verbatim reasoning)と要旨的推論(gist reasoning)と呼ばれている。

 逐語的推論とは内容を細部にわたって数値に置き換えるなどして定量的に考えることで、これに対して要旨的推論は内容を文脈でとらえて流れやイメージで推論する方法だ。

 どちらで推論するのかは、検討する案件のタイプや個人差によるが、インターネットを使っている場合は逐語的推論で考えることが多いといわれている。確かにデジタルの世界では物事を数字でとらえたり、細部を拡大してみたりといわばサイエンスの目で物事を見ることが多いかもしれない。

 いわゆる“デジタルネイティブ”として、今の子どもたちは幼い頃からネットに慣れ親しんでいるが、ネットで過ごす時間が累積的に長くなると、行動や考え方にどのような影響を及ぼすのかを探った研究が2017年3月に発表されている。

 イギリス・プリマス大学の研究チームは、18歳から79歳の326人にインターネットの利用状況をくわしく報告してもらいそのデータを分析した。具体的には、これまでのインターネット利用歴の中で、リスクをとる行動を行なったことがあるかどうか、将来にリスクをとる行動をする意図があるかどうか、さらにリスクをとるにあたっての逐語的推論と要旨的推論についてと、新奇なものを求める刺激欲求(sensation seeking)があるかうか、そしてこれまでのインターネットに費やしてきた累計総時間である。

 分析の結果、インターネットに費やしてきた総時間の長さが、将来のリスクテイキングの意図と深い関係があることがわかった。つまりインターネット歴の長い人物は、将来オンライン上で思い切ってリスクをとる行動をする傾向が高いということだ。

 これはすなわち、長いインターネット利用歴で習い性となった逐語的推論が、将来にリスクを伴う行動を画策する傾向が高いということにもなる。一方、要旨的推論がまだ支配的なネットユーザーの場合は、将来のリスクテイキングの意図は低いということだ。

 ネット上でリスクをとる行動といえば、衝動的なオンラインショッピングや、株やFXのオンライン取引での“大博打”などが思い浮かぶが、ネット利用歴が長いほどこうした行動に出やすくなるというのは、ネットユーザー全員に対する重要な警告になるだろう。

 そしてネットを利用する人ほど、自分の思考が逐語的推論に偏ってしまわないように気をつけなければならないということでもある。スマホやPCから意識的に離れる時間を確保するよう心がけたいものだ。

参考:「The University of Chicago」、「Ingenta」、「Wiley Online Library」ほか

文=仲田しんじ

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