何かと慌しい日々の生活の中、怠けてなどはいられないはずの我々の睡眠時間を奪い、疲労を蓄積させ、生産性を低下させている“主犯格”の1人が見つかった。それはスマホだ。
■加速するスマホ依存は健康面にも悪影響
我々の“スマホ中毒”ぶりはさらに加速しているようだ。少し前からテクノフェレンス(Technoference)という新たなスマホ依存症を表す言葉も登場しているが、最近の研究からは、この10年の間に我々の携帯端末への依存度は右肩上がりで上昇していることが報告されている。
豪・クイーンズランド工科大学をはじめとする研究チームが2019年3月に「Frontiers in Psychiatry」で発表した研究は、2005年と2018年の時点の人々の携帯端末の依存度を比較していて興味深い。調査に参加したのは18歳から83歳のオーストラリア人709名で、13年前の2005年に行なわれた調査と同じ質問に回答した。
収集した回答データを分析したところ、2018年の時点で女性の24%、男性の15%が少なからず生活に支障をきたす“問題のある携帯端末ユーザー”であると分類された。若年層ほどこの傾向が強まり、年齢を18歳から24歳に区切ると、なんとその割合は40.9%にまで高まった。
そしてこの高まるスマホ依存の悪影響は健康面にも及んでいる。
2005年の時点では携帯電話が睡眠時間を奪っていると回答したのは女性の2.3%、男性の3.2%に過ぎなかったのだが、2018年では女性の19.5%、男性の11.8%にまで急上昇している。
さらに長時間の携帯端末の使用による身体の不調を訴える者は、2005年の時点で女性の3%、男性の1.6%だったのが、2018年では女性の8.4%、男性の7.9%にまで高まっている。
そしてこうした健康面へのネガティブな影響は、ある意味で当然ではあるが仕事のパフォーマンスにも響いている。
2005年の時点で携帯端末の使用が仕事の生産性を下げていると回答したのは女性の2.3%で男性は0%であったのが、2018年では女性の14%、男性の12.6%とここでも急上昇しているのだ。
そして研究チームはスマホ依存のネガティブな影響は仕事ばかりでなく車の運転にも及んでいると警鐘を鳴らしている。否応なくデジタル化が進む社会であるからこそ、スマホ依存のリスクの正しい理解が求められているのだろう。
■“スマホ食い”でカロリー摂取が15%増える
スマホ依存のリスクについてさらに汚名を重ねる研究が届けられている。それは肥満リスクだ。
ブラジル・ラブラス市立大学とサンパウロ連邦大学、オランダのユトレヒト大学病院の合同研究チームが2019年3月に「Physiology & Behavior」で発表した研究では、実験を通じてスマホを眺めながら食事をすることで摂取カロリーが増えることを報告している。
18歳から28歳までの男女62人が参加した実験では、参加者はそれぞれバイキング形式で好きな食べ物を満足するまで食べたのだが、食事中に3通りの条件が課された。それぞれ、スマホを見ながら、雑誌を読みながら、スマホも雑誌も見ない、の3通りである。
食事の様子はビデオで撮影され、それぞれ映像を詳しく検証したところ、スマホ、あるいは雑誌を眺めながらの食事は、どちらも見ない食事よりも摂取カロリーが15%増えていることが判明したのだ。しかもどういうわけか、スマホや雑誌を見ながらの食事は脂肪を多く摂るという傾向も見られた。
スマホやタブレット端末は食事中に気を散す主な原因になり、食事中に気を散らされると脳は摂取した食物の量を正確に把握できなくなるのだと研究チームは説明している。そして子どもにとっても食事中のスマホやタブレットが食事に与える影響を知ることは重要なことであるという。
伝統的な子どもの躾では、食事中に本を読んだりテレビ見ることをよしとしないものだが、今ではそうしたマナーもどんどん形骸化しているのも事実だろう。慌しい生活の中においても、食事くらいはゆっくりと心に余裕をもってしたいものだ。
■スマホ使用時間を最小限に抑える3つの対策
米ワシントンD.C.のシンクタンク「ピュー研究所」の最近の調査ではスマホユーザーの46%はスマホが絶対に手放せない生活必需品であると断定している。今や多くの人にとって手放せなくなっているスマホだが、その使用時間をなるべく少なくする有効な方策はないだろうか。編集者でライターのショウナシィ・フェロー氏が、スマホ使用を最小限に抑える3つの簡単な方法を解説している。
●バイブ機能をオフにする
2015年のギャロップ社の調査によれば、スマホユーザーの半数は起床時に1時間に1回はスマホを確認しているという。これは脳の報酬系の回路によって自然に習慣化してしまった行為であり、決して少なくない割合でそれは無意識的に行なわれているのである。
逆に言えばこうした行為が習慣化したスマホユーザーはもはや届けられた重要なメッセージを見逃すはずはないのである。したがってバイブ機能をオフしてもまったく問題はないのだ。そしてバイブに煩わされないぶん、スマホ使用時間を削ることができる。
●バッテリー残量の%表記を非表示にする
1日の中でスマホを使用する機会が多くなると気になるのがバッテリー残量だが、機種にもよるがデフォルトでパーセンテージが数字で表記されていることが多い。そしてこの数字を確認してしまうことで、知的リソースを余分に奪われ、常に気にかけている“心配事”の1つになってしまうのだ。
バッテリー残量を数字で確認するというあまり意味のない懸念を増やさないためにも、バッテリー残量の%表記を非表示に設定し直したい。パッテリーへの心配が軽減されることで、スマホを眺める時間を削ることができる。1回あたりではほんのわずかな時間であっても、1日を通じてはけっこうな時間を削減できることになる。
●モノクロ表示にする
ネットの世界には目を惹くグラフィックが溢れていて、ついつい目で追ってしまい思わぬ時間を費やしていたというケースもあるだろう。そこで画面表示をモノクロに設定することで、つい目を奪われてしまうことが劇的に少なくなるのだ。
これはグーグルの元デザイン倫理学者であるトリスタン・ハリス氏も推奨している。鮮やかさが失われたモノクロ画面はあまり注意力を喚起しなくなり、自然に画面を眺める時間を減らすことができるのだ。
こうしたちょっとした対策で“ちりも積もれば山”となった時間を自分の手に取り戻したいものである。
参考:「Frontiers」、「ScienceDirect」、「Mental Floss」ほか
文=仲田しんじ
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