スマイル神話崩壊!? 世の女性は男性の笑顔をそれほど好きではなかった

サイコロジー

 周囲に好印象を与えられるように仕事にもプライベートにも笑顔を絶やさずに臨もうと考えることがあるかもしれないが、ことはそう単純ではないようだ。あなたが男性であれば“笑顔”は必ずしも毎回効果があるというわけではなさそうなのである。

■男性の笑顔は考えられていたよりも女性の評価が低い

 誇らしげに拳を突き上げる男性のガッツポーズ、逆に思い悩んで落ち込んでいるような弱々しい男の姿……。女性から見ればこの2つは、笑顔の男性よりも魅力的に感じられているという研究が発表されている。

 カナダ・バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学の研究チームが2011年に学術誌「Emotion」オンライン版に発表した研究論文では、1084人のボランティア参加者を対象に行なわれた実験とその結果が報告されている。笑顔の男性は女性にとってそれほど魅力的ではなかったという結果の一方、やはり男性からしてみれば女性は笑顔の時が一番輝いて見えるという、こちらについては想定通りの結果も確認されることになった。

「この研究の結果は、少なくとも欧米の社会の歴史の中で発達し強化されてきた伝統的なジェンダー観と文化的価値をある程度反映しているものです」と、研究を主導した社会学者のジェシカ・トレイシー准教授は「CBC News」の取材に応えている。

 実験に最初に参加した約100人は、4つのポーズをとっている異性の写真を見せられ、その一枚一枚の写真の魅力を1~9段階で評価した。写真の中で表現されている4つのポーズは、笑顔(Happy)、ガッツポーズ(Proud)、落胆(Ashamed)、平静(Neutral)である。評価に際しては、写真の人物を将来の結婚相手や恋人を選ぶような観点から見ないように念が押された。そして次に同じ実験をオンラインでも大規模に行ない、年齢層による評価の傾向も探ったのだ。

 実験の結果、すべてのケースにおいて男性は笑顔で幸せそうな女性を最も高く評価していた。そして誇らしげにガッツポーズをとる“男性的な”女性が最も低い評価であった。

 一方女性のほうは、ガッツポーズの男性が最も評価が高く、笑顔の男性の評価はそれより平均1ポイント低かったということだ。笑顔の男性の人気度は年齢層によって傾向があるようで、若い年齢層(平均20歳)の女性グループは笑顔の男性を最も低く評価し、中年層(平均39歳)のグループになるとやや笑顔の男性の人気が盛り返し、落胆してしている男性の評価とほぼ同じになるという。落ち込んでいる男性の姿が、意外なほどに評価が高かったこともちょっとした驚きだろう。落胆し、自分を恥じているということは、そのぶん社会規範を尊重していることの表れでもあり、女性から見れば悪くない感触を与えるものなのかもしれない。

 ということで男性諸兄は自身の笑顔が必ずしも女性に高い評価を受けるわけではないことを知っておいてよいのかもしれない。だからといって前時代的な“サムライ”を気取るのもナンセンスではあるが……。

■異性間では非言語コミュニケーションが有効

 周囲に好印象を与え、円滑なコミュニケーションを図るには、人当たりの良い笑顔と的確な会話能力が要求されることに疑問を抱く人は少ないだろう。しかし、あなたが男性であった場合、女性に対しては必ずしも笑顔が“特効薬”ではないことが分かったわけだが、なんと、言葉を使った会話能力もまた女性からはそれほど重要視されていないという見解もある。

 スピーチの能力とはまた違った、非言語(ノンバーバル)コミュニケーションが果たしている役割の重要性を指摘しているのが、アメリカのリーダーシップ研究の第一人者であるロナルド・リッジオ氏である。話題はやや(かなり!?)ビジネスコミュケーションの話から逸れてしまうが、リッジオ氏によれば、男性の女性に対する効果的な非言語表現は、その女性に性的魅力を発揮させる引き金になるというのである。

 アメリカの社会心理学者、マーク・スナイダー博士らの研究によれば、男性は魅力を感じている女性と話している際には声のトーンが変わり、相手の女性に“好意”を伝えることができるという。さらに実際にその女性に直に対面した場合においては、言葉を使うことなく表情やしぐざで“好意”を伝えることができる能力を男性は本来持っているというのである。

 リッジオ氏によればこうした方法で伝えられた“好意”は、言葉で伝えられるよりも、その女性を魅力的にし、しかもその女性にも“非言語”な行為が伝染するという。これは映画やドラマのラブロマンス(濡れ場)のシーンなどでは紋切り型のパターンではあるものの、非言語コミュニケーションは実際に“燃え上がり”に貢献しているのである。

 男女の関係に影響を及ぼすこの非言語コミュニケーションの効果は、心理学的には「ピグマリオン効果」の派生型であると考えられているということだ。この「ピグマリオン効果」は教育現場で確認されており、簡単に言ってしまえば教師の期待の視線を投げかけられた生徒は、実際にその後学業の成績が上がることが認められているのだ。これが男女の関係にも効果を及ぼし、男性の“好意”の視線を投げかけられた女性は、その期待に応えよう(もちろんその男性が“OK”であるならば)とする傾向があるというのである。

 ビジネスシーンに直結する話題ではないかもしれないが、男女の間で起りがちなこのような心理のメカニズムと、非言語コミュケーションの効能を理解しておくことは、人生のいろんな局面で何かの役に立つかもしれない。

■表情や仕草から感情を読み取る能力“EI”とは

 非言語コミュニケーションは女性に対して有効に作用する傾向があることがわかったが、いったいどうしてなのだろうか。いわゆる“女の勘”というものが存在するということなのだろうか。専門家によればやはり“女の勘”は存在するものらしい。だがその呼び名はEI(Emotional Intelligence)という。

 EIとは相手の表情や仕草から感情を読み取る能力のことで、おしなべて女性はEIの能力が男性よりも高いということだ。EIが高いことで、他者が表現している微妙な情動的メッセージを把握する能力に長け、受け取るだけでなく非言語コミュニケーションで情報発信する能力にも優れる。

 いわゆる“ポーカーフェイス”をとりがちな男性陣に比し、EIの高い多くの女性はいわばオープンな心を持っており、心が開かれていることによって他者が何を考えているのか、何を感じているのかを理解する感受性に優れるのである。

 では多くの女性が持つこの能力はどこから来るのか? 前出のリッジオ氏によれば、人間社会の社会構造に由来するものであるという。いわゆるポリティカルコレクトネスの観点からは物議を招く話題にはなるが、歴史上、人類の多くの社会では女性は影響力の大きい人物(主に男性)を観察する側に立っており、このことが非言語行為への理解力を高めていったのだという。裏を返せば、このEIを高めることができた女性が“適者”として勝ち残ってきたのである。

 したがってこうした歴史的な女性の立場を理解することで、男性もEIを高めることはできるし、実際にEIが高い男性も少ないながらも存在している。逆に言えば女性のEIが特別に優れているというのではなく、男性の非言語コミュニケーション能力の著しい退化のほうが問題なのだ。このEIと非言語コミュニケーションを頭の片隅に入れておきながら日々の生活と仕事に臨んでみてはいかがだろうか。

参考:「CBC News」、「Psychology Today」、「National Cyber Security Institute」ほか

文=仲田しんじ

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