サイエンスに基づく相手と素早く親しくなる方法3選

サイコロジー

 仕事上のつきあいで飲食を共にすることもあるだろう。相手との関係を強化したいと考えているのであれば、ぜひ大皿料理をシェアして食べると良いことが最近の研究で報告されている。料理を分け合って食べる体験が人間関係をより親密にするというのである。

■料理をシェアする体験が合意形成を早める

 料理の食べ方は食文化やTOPによって異なってくるが、飲食を共にする相手とより親密になりたいと思えばそれぞれ個別の料理を食べるよりも、料理をシェアして食べると良いようだ。

 米・シカゴ大学経営大学院とコーネル大学の合同研究チームが2019年3月に「Psychological Science」で発表した研究では、実験を通じて食べ物をシェアする体験と合意形成の関係を探っている。

 実験ではお互いに初対面同士の実験参加者がペアを組み、経営陣と組合側に分かれて賃上げ交渉を行なうシミュレーションを行なっている。22回の交渉の内に合意に達しなければならない取り決めがあり、その間に組合側はストライキを行なうこともできる。ストは経営側にも組合側にも経済的なコストを負うため両サイドにとって早期の合意形成を促すものになる。

 交渉をする前に参加者は2グループに分かれて、サルサソースのスナックで軽食を摂ったのだが、Aグループはサルサもチップスも大皿に盛られたものをみんなでシェアして食べたのに対し、Bグループは1人前のサルサとチップスが入ったボウルが各人に配られてそれぞれ個別に食べた。

 この軽食後に賃上げ交渉のシミュレーションを行なったのだが、料理をシェアしたAグループは平均で9回のストを行なった一方、個別に食べたBグープは平均13回のストを行い交渉が長引いていたことが明らかになった。研究チームは料理をシェアする体験が両者の関係性の距離を縮めて合意形成を早めていると結論づけている。

 ネット環境が発達した今日の社会では、コミュニケーションの多くはネット経由で事足りてしまうが、やはりお互いに顔を突き合わせて、時には一緒に食事をし、料理を分け合うリアルな体験が良好な関係性に大きな役割を果たしていると言えるのだろう。

■歩調を合わせて一緒に歩くと親密さが増す

 人間関係を深めるために、共に食事をする体験がきわめて有効であることが示されているのだが、もっとシンプルに親密さを増す方法があることが最近の研究で報告されている。それは足取りを一致させるなど、動作をシンクロさせることである。

 IDCヘルツリーヤをはじめとするイスラエルの合同研究チームが2018年11月に「Journal of Social and Personal Relationships」で発表した研究では、4つの実験を通じてお互いに動作を一致させることで相手への親近感が高まることが示されている。

 実験ではスポーツジムなどにあるバイクに向かい合って乗った初対面の同性同士が、ペダルを漕ぐ回転を一致させることで、相手への親近感が増し個人的な話により共感できることが突き止められた。単純に動作をシンクロさせるだけで、初対面の相手と打ち解けられやすくなるのである。

 別の実験では、すでにつき合っている異性愛カップルが動作をシンクロさせることで親密さをさらに深められるのかどうかを探っている。参加者はパートナーと肩を並べて一緒に歩いている状態を目を閉じて想像することが求められ、そこへ歩調が一致した2人の足音と、2人の歩調がバラバラな足音が聞かされた。

 この2つの音を聞かされた後、参加者はパートナーとの親密度を自己評価したのだが、歩調が一致した足音を聞いた後のほうが親密度を高く評価していたのだ。動作のシンクロは初対面の者同士だけでなく、カップルの関係をさらに深めることにも作用しているのだ。

 パートナーとより親しくなるということは相手に対して性的欲望をより強く覚えることにも繋がることが、また別の実験で確かめられている。

 乳幼児と母親の心拍数は抱っこをしている時などに同調するといわれており、このときの“シンクロ体験”が愛情や親密さを育む礎になっているとも考えられている。歩調を合わせて一緒に歩くことで初対面の人物ともパートナーともより親しくなれることを覚えておいて損はないだろう。

■感謝の気持ちを伝える“礼状”の効能

 一緒に食事をしたり、一緒に歩調を合わせて歩いたりすることでお互いの距離がグッと縮まることがサイエンスの側から指摘されているのだが、人の好意を受け取った場合は後からでもいいので書面で感謝を伝えることで、送った当人も届けられた相手の側も実に精神的な充足感を得られることが最近の研究で報告されている。

 その場ではすぐに伝えられなかった感謝の気持ちをそのまま葬り去ってしまうのではなく、後からでもいいので感謝の気持ちを伝える“礼状”を送ることでお互いに精神的に満足できて親密さも増すということだ。

 米・シカゴ大学の研究チームが2018年9月に「Psychological Science」で発表した研究では、感謝の言葉は躊躇なく口にするべきで、言えなかった場合は遅くてもいいから礼状を送るべきであると進言している。

 研究チームは3つの実験を通じて、感謝の意を伝える礼状を書くことの心理的な影響と、礼状を受け取った側の反応を探った。

 いずれの実験においても、礼状を書いた側は受取人の気まずさを過大評価し、受取人の驚きと喜びを過小評価していることが示される結果となった。つまり感謝の意を伝える側は、相手が戸惑うのではないかと必要以上にナーバスに考えていて、また感謝を伝えられたとしても相手の喜びはそれほどもないと感じているのである。

「感謝の意を表明するかどうかについて、何が関係しているのか、何がその選択を後押ししているのかを調べたところ、我々が発見したのは、受け手の気まずさに対する予測や期待であることを突き止めました」と研究チームのアミット・クマール助教授は語る。

 つまり“ありがとう”のひと言が口について出る前に、多くの人が言われた側はひょっとして戸惑ったり、気まずさを感じるのではないかという配慮が先にきてしまうというのである。その結果、素直にその場で感謝の気持ちが伝えにくいのだ。

「私たちが自分自身について考えるとき、私たちは自分がどれほど有能であるかを考え、そして感謝の意の表現がどれほど明瞭に伝わるのかどうかを考える傾向があります」(アミット・クマール助教授)

 かくも我々はその場で“ありがとう”の言葉を伝えられない存在なのだが、だからこそ後になってでも礼状を書いて届けることがお互いにとっての納得できる満足感(well-being)に繋がるのである。感謝の気持ちを伝えないままに終わることがないようにしたいものだ。

参考:「University of Chicago Booth School of Business」、「SAGE Journals」、「University of Texas at Austin」ほか

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました