ゴシップ話は脳にも健康にも良かった!

サイコロジー

 週刊誌やワイドショー、最近はネットニュースを眺めてもゴシップ話で溢れかえっているのはご存知の通り。有名人に関してだけでなく身の回りの人々のウワサ話などは男性女性に関係なくよく話題にするものだが、ゴシップを話す行為は男性と女性とでは少し異なる意味を持っていることが最新の研究で指摘されている。

■我々は進化人類学的にゴシップ好き!?

 直接対決をすればこちらが負けるようなライバルがいた場合、評判を落とすウワサ話を流して失脚させることがでればこれほど楽なことはないだろう。もちろんこうした策略がバレれば一転して非難を浴びるリスクがあるものの、純粋な競争を超えたレベルで相手に勝つための“戦略”であることには変わりない。

 そしてこうした戦略を画策する能力は人間が進化人類学的に培ってきた能力であって、人間と他の動物との一線を画す優秀さを示すものであり、日常においてはゴシップ話をすることで保たれているというから興味深い。我々は進化人類学的にゴシップ好きであったのだ。

 カナダ・オタワ大学のアダム・デイビス氏が率いる研究チームが先ごろ、発達心理学系ジャーナル「Evolutionary Psychological Science」で発表した研究は、290人の学生(17歳~30歳、異性愛者)に対して、同性間での異性獲得競争とゴシップ話(本人がいない場所での人物評)に関する詳細な質問を行なった研究を報告している。

 収集したデータを分析した結果、同性間での競争意識が高い者ほどゴシップ話を多くしている傾向が判明した。そしてやはりというべきなのか、女性のほうがこの傾向は高く、ゴシップ話の輪に加わることに意義を感じ楽しんでいる実態も明らかになった。

 ゴシップ話の内容としては、男性が当該人物(男性)の富や権力、身体能力などを話題にしているのに対し、女性はその場にいない女性のルックスやファッションなどの外見的魅力を話題にすることが多いという。研究チームによれば女性のこの傾向は、女性が女性を見る目が性的淘汰における競争力(intrasexual competitiveness)の評価に基づいていることを示すということだ。つまり“恋愛市場”における競争力が基本的な話題になっていることになる。

 そしてゴシップ好き、ウワサ話好きというのは決してネガティブな性格上の“欠陥”などではなく、きわめて高度に発達したソーシャルスキルであり、パートナーの獲得において競争力を発揮する能力であることを、セラピストやカウンセラー、教育家をはじめ一般にも広く理解されなければならないことを研究は主張している。

 もちろん誹謗中傷や名誉毀損など、人を貶める言動を行なえばそれなりの報いを受けることになるが、ゴシップの根底には他者に対する幅広い興味関心があるとも言えるだろう。今回の研究でゴシップ好きは少し肩の荷が軽くなったかも!?

■ゴシップは脳に良い!?

 モラルの観点から人のウワサ話は恥ずべき悪習であるとする見方もまだまだ根強いとは思うが、そもそも高度に発達した人間の脳はゴシップ話をするように作られているのだという、これもまたゴシップ好きの名誉を挽回(!?)するような研究も報告されている。

 顔は思い出しているのに名前が出てこないとか、有名人の名前を見ても顔が思い出せないといった体験をしたことはないだろうか。それは脳の中で“顔”と“名前”の記憶の保存先が異なっているからである。

 そして“顔”と“名前”を一致させるのに重要な役割を果たしているのが脳の前側頭葉(ATL)であると言われている。いわば脳内の“電話交換手”が前側頭葉なのだ。

 ゴシップ話はこの前側頭葉の機能を向上させ、ソーシャルなスキルを高めてくれるというゴシップ好きを喜ばせる研究が報告されている。

 米・テンプル大学の研究者をはじめとする合同研究チームが2017年3月に「PNAS」で発表した研究では、50人の実験参加者に架空の人物の幾人かのプロフィールを記憶してもらった実験が行なわれた。

 各人物ごとの顔、名前、年齢、婚姻状態、職業、居住地、住居といったデータを憶えてもらい、数日後、脳活動をモニターする機器であるfMRIを作動させた状態で、架空の人物のプロフィールを思い出してもらった。

 思い出しで回答している時の脳活動は顔や名前などの思い出す対象によって活動部位が変化したのだが、やはり中心的な役割を担っているのは前側頭葉であった。そしていったんすべてを思い出すと、次からは1つの要素(たとえば顔)を見せられただけで、前側頭葉はその人物のすべての情報を脳のあらゆる部位から回収する働きを見せたということだ。

 つまり、ゴシップの話題である人物を思い出すという作業は、前側頭葉が関連情報を次々と思い出そうとするので脳全体の神経細胞の接続が密接になり、総合的なパフォーマンスが向上するのである。“ゴシップが脳に良い”とは意外だが、いろんな人物の記憶を時折思い出すことでさまざまな発見や興味関心がもたらされ、充実した社会生活に繋がるともいえそうだ。

■ゴシップは健康にも良い!?

 ゴシップや人のウワサ話がそれほどネガティブなものではなさそうなことが指摘されているのだが、事態はさらに進んでいるようで、ゴシップは健康にも良いという研究が報告されている。

 オランダ・フローニンゲン大学の研究チームは、相手からゴシップ話を聞かされた時の影響を理解するための実験を行なった。

 男性と女性の両方を含むグループに、以前にゴシップ(その場にいない人物の話題)を聞かされた時のことを思い出してもらい、そのゴシップが聞き手にどう影響をもたらしたかに関する詳細な質問が行なわれた。

 収集した回答データを分析した結果、ゴシップの大半は話題の人物と自分自身の比較をするためのもので、(不運な人物と比較することで)自信を深めるだけでなく自己評価の向上にも役立つものであったのだ。

 そしてここでもやはり、ゴシップは男女で異なる解釈をされていることが明確に浮き彫りになったのである。

 またゴシップは個人に間接的な社会比較情報を提供し、言動に活用できる不可欠なリソースを提供するものであることも指摘されている。そしてゴシップを我々の自然な生活の一部として受け入れ、批判的な目を持って取り入れるべきであるという。

 軽く面識のある人と出くわしたときには、あたり障りのない天気の話題などでやり過ごしたりもするが、もし共通の知人や興味のある有名人などがいた場合、ゴシップ話題になれば確かに会話は実のあるものになりそうで、お互いの距離はグッと縮まりそうだ。もちろん“陰口”をたたくようなことは慎むべきだが、広い意味でのゴシップを活用することでソーシャルな活動が充実するとすれば有効なツールにもなる。意外にもポジィティブな側面が注目されることになったゴシップを少し見直してみてもいいのかもしれない。

参考:「Springer」、「PNAS」、「SAGE Journals」ほか

文=仲田しんじ

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