世界中で愛飲されているコーヒーだが、これほどまでにユニバーサルな人気を博している秘密の一端が徐々に解きほぐされているようだ。コーヒーの習慣が長寿に繋がっているという研究が相次いで発表されている。
■コーヒーと長寿の関係を指摘する研究が相次ぐ
愛飲家にとっては日常生活の中で欠かせないコーヒーだが、この習慣が長寿に結びついているというから興味深い。2017年10月にはアメリカとイギリスで「コーヒーをよく飲む人ほど寿命が長い傾向がある」というレポートが続けざまに発表されている。
アメリカでの研究では、米国内の先住民やアフリカ系、ハワイ系、日系、ラテン系、および白人を対象にコーヒーを飲む習慣について調査を行ない、1日に2~4杯のコーヒーを飲む人は、コーヒーを飲まない人に比べて死亡リスクが18%低いという研究結果を報告している。
一方で英インペリアル・カレッジ・ロンドンと国際がん研究機関(IARC)の研究チームは欧州10カ国52万人以上のビッグデータを分析してコーヒーと寿命の関係を探り、コーヒーを1日3杯以上飲む人は死亡リスクが低下することを記している。
そして2018年2月にカリフォルニア大学アーバイン校の研究チームが発表した論文では、90歳以上の高齢者1700人の生活習慣と脳機能の状態を調査する興味深い研究が行なわれている。この研究でもコーヒーを1日2杯程度飲む習慣のある高齢者は飲まない人よりも死亡リスクが10%減少していることが報告されている。
ちなみにこの研究では適度なアルコールもまた長寿に繋がっているという研究結果も報告されており、1日2杯程度のビールかワインの飲酒習慣で飲まない人よりも死亡リスクが18%減るということだ。
さらに興味深い結果も出揃っていて、70歳代で平均よりも太っているとわずかに(3%)長寿の傾向にあり、趣味を持ち続けている人は21%も死亡リスクが減り、1日に15分から45分程度の運動をしている人は死亡率リスクが11%減少するということである。ともあれ長寿の秘密のひとつとしてコーヒーの存在がさらに注目されることになったことは間違いない。
■コーヒーは大麻と真逆の効能
身近な飲み物であるコーヒーだが、その効能についてはまだまだわからないことが多い。最近の研究では、コーヒーを飲むことはこれまで考えられてきた以上に複雑な反応を人体に引き起こしていることが指摘されている。
アメリカ・ノースウェスタン大学の研究チームが2018年3月に「Journal of Internal Medicine」で発表した研究では、コーヒーは身体の新陳代謝系に多大な影響を及ぼし、なんと大麻と反対の働きがあるというから興味深い。
体内の重要な恒常性調節システムとしてエンドカンナビノイドシステム(endocannabinoid system)が近年注目されているのだが、大麻を服用することでこのエンドカンナビノイドシステムが強化されることが報告されている。そして今回の研究では、8杯程度のコーヒーで大麻とは逆にこのエンドカンナビノイドシステムが弱体化することがわかってきたのだ。
研究チームは47人のコーヒー愛飲家に参加してもらい、1カ月の「禁コーヒー」をしてから、その次のひと月は1日4杯のコーヒーを飲み、そしてその次の月は1日8杯と、計3ヵ月に及ぶ実験で、実験参加者の血液の生化学的な分析を行なった。
コーヒーを摂取することで、115もの代謝物質に影響が及ぶことがわかり、そのうちの82の化学物質はこれまでにも知られていたものであったが、残りの33の代謝経路(metabolic pathway)はまったくの新発見であった。そしてこの新たに見つかった代謝経路の解明が、コーヒーが身体に及ぼす影響を詳しく知るための鍵になることを研究チームは主張している。
そして例えばそのひとつに、コーヒーは大麻と真逆の影響を身体に与えていることがわかってきたのだ。大麻では強化されるエンドカンナビノイドシステムが、コーヒーの摂取で逆に弱体化するのだが、だからといって単純にコーヒーが身体に悪いということでもなさそうであるから興味深い。
エンドカンナビノイドシステムが弱体化すれば、我々の身体はそれに適応してストレスレベルを元に戻そうとしはじめるということだ。つまりコーヒーでストレスに強い身体になれるのかもしれないのである。
このほかにもコーヒーの摂取は、2型糖尿病の予防や生殖機能の維持にも関係があるということだ。もちろんメリットばかりではないとは思うが、今後研究が進めばコーヒーの持つさまざまな効能が詳しく解明されてきそうだ。
■コーヒー渇望状態ではパフォーマンスが著しく低下
コーヒー愛飲家には喜ばしい研究が相次いでいるとも言えるのだが、それだけに少しばかり注意も求められているようだ。飲みたいときにしっかりコーヒーを飲んでいないと、仕事などでパフォーマンスの低下を招くのだ。
オーストラリア・タスマニア大学の研究チームが2017年2月に発表した研究では、55人のコーヒー愛飲家(平均年齢30歳)に記憶力テストを行なってもらった。2つの無関係の単語、たとえば「池=本」などの言葉の組み合わせが100組提示されてなるべく多く記憶してもらった。その後一方の単語だけを告げられてもう一方の単語を回答するテストが行なわれたのだ。
テストの日、参加者の半数(Aグループ)には朝からコーヒーを飲まないように求められていた。そしてAグループは単語の組み合わせを暗記する際、飲んではいけないコーヒーを前にしてその香りが漂う中で課題に挑んでもらった。一方ですでにコーヒーを飲んでいる残りの半数(Bグループ)は水のはいったカップを前に作業を行なった。
つまりAグループはコーヒーの渇望とカフェインへの欲求が意図的に高められた状態で暗記作業とテストに挑んだのだが、Bグループに比べてテストの成績は惨憺たるものになった。コーヒー渇望状態では、新しくものを憶える作業においても、学習したものを思い出すことにおいても、能力が著しく損なわれることが明らかになったのだ。研究チームはコーヒーのことを考えることに脳の一部のリソースが使われてしまい、能力をフルに発揮できないためであると説明している。つまりコーヒーが気になって課題に集中できないのだ。
そして厄介なことに、Aグループが課題に集中できていないのに、自身のテスト成績の予測を高く見込んでいることも明らかになった。コーヒー渇望状態ではどういうわけか自信過剰になっているのだ。渇望状態によって少しばかり血気盛んになっているのかもしれない。
一人で取り組む課題であればまだしも、コーヒー渇望状態で打ち合わせや会議などに臨んだ場合、短気を起こして思いもよらぬ失敗を招くかもしれない。コーヒー愛飲家であればこそ気に留めておきたい話題だ。
参考:「UCI MIND」、「Northwestern University」、「Taylor & Francis Online」ほか
文=仲田しんじ
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