トマト好きな男性にとって朗報が届けられた。トマトに含まれる成分に男性の不妊治療効果があることが突き止められたのだ。
■リコピンから作られたサプリメントに不妊治療効果
今日の社会ではかつてよりも不妊に悩まされるカップルが増えたといわれている。いわゆる環境ホルモンの変化や、あまり動かないライフスタイルの蔓延などが原因とも考えられているが、当然のことながら不妊の責任は男女共にある。
男性の側において不妊の原因になるのは精液の質の問題だ。精子の数が少なく活性が低ければそれだけ不妊のリスクは高まる。普段の生活習慣で無理なく精液の質を向上させるにはどうすればよいのか。そこで最新の研究ではトマトに含まれる成分に精液の質を改善する効果があることを報告している。
英・シェフィールド大学の研究チームが2019年10月に「European Journal of Nutrition」で発表した研究では、トマトに含まれるリコピンから作られたサプリメント「ラクトリコピン(lactolycopene)」を摂取する習慣が、精液の質にどのように影響を及ぼすのかを実験を通じて探っている。
実験に参加した19歳から30歳までの健康な成人男性60人は、それぞれ血液と精液のサンプルを提供した後、半々の確率でラクトリコピンかプラセボ(偽薬)が提供され、12週間にわたって毎日服用した。服用しているのがラクトリコピンなのかプラセボなのか、当人にはもちろん知らせていない。
12週間が経過した後、再び参加者の血液と精液を詳しく分析して実験前の状態と比較したのだが、ラクトリコピンの効果はてきめんであった。ラクトリコピンを服用した参加者の精液の質の向上は著しく、研究チームによれば12週間のラクトリコピン摂取により“速く泳ぐ”元気な精子を約40%増やすことが可能になるということだ。
今回の研究結果は、現代的なライフスタイルにおいても、トマトの食習慣が男性の不妊の問題に取り組む上で有効であることを示唆するものになった。トマトの持つ優れた効能は広く理解されるべきなのだろう。
■スーパーのトマトは“風味遺伝子”が失われていた?
トマトの食習慣はいろんな意味でいいことがありそうだが、しかし現在、スーパーで売られている普通のトマトはどんどん味気ないものになっているということだ。それもそのはず、スーパーなどで売られているトマトの93%は風味を引き立てる“風味遺伝子”が失われてしまっているというのである。
米・コーネル大学をはじめとする合同研究チームが2019年5月に「Nature Genetics」で発表した研究では、トマトの全ゲノム解析を通じてスーパーなどで売られているトマトは品種改良の過程を経て5000もの遺伝子が失われていることを報告している。その失われた遺伝子の中にはトマトの風味に関わる遺伝子もあったのだ。
研究チームはあらゆる種類のトマト725個のすべてのゲノム情報を解析し、トマトの汎ゲノム(pan-genome)を構成し、スーパーで売られている一般的なトマトのゲノム情報と比較検証した。
分析の結果、今日一般的に売られているトマトは4873もの遺伝子が失われていることが判明したのだ。失われた遺伝子の中には「TomLoxC」という、トマトの風味に大きく関わって遺伝子もあった。TomLoxCは野生種のトマトの90%に見られる遺伝子だ。
遺伝子が失われたのは栽培しやすく収穫量が増えやすいトマトを求めて品種改良を続けた末の現象であり、最近進歩が目覚ましい遺伝子組み換え技術によるものではない。
トマトについて残念な現実が明らかになった今回の研究だが、風味に関係する遺伝子が特定されたということは、今後美味しいトマトを作るうえできわめて役立つ知見にもなるのだろう。
■ゲノム編集技術で“激辛トマト”が出現する日
おいしいトマトが手軽に食べられる時代が早く来てもらいたいものだが、また別の可能性として“激辛トマト”が登場するかもしれないというから興味深い。
激辛料理は相変わらず多くの人々の胃袋をつかんでいて、トウガラシの需要は今後ますます高まることが確実視されている。
しかしやや意外なことではあるが、トウガラシは大量生産に適した農作物ではないのである。高温、二酸化炭素濃度、降水量に対してトウガラシはかなり影響を受けやすく、1つの栽培地から大量に収穫することが難しい作物なのだ。
そこで注目されているのが栽培が容易で多くの収穫が見込めるトマトなのだ。実はトマトとトウガラシは同じ先祖から枝分かれした植物種で、現在でもその遺伝子はかなりの程度同じなのである。
ブラジル・ヴィソーザ連邦大学の研究チームが2019年1月に「Trends Plant Science」で発表した研究では、遺伝子編集技術によってトウガラシのように激辛なトマトが作れる可能性を指摘している。
画期的なクリスパー(CRISPR)の登場によって、昨今の遺伝子編集技術はめざましい進歩を遂げている。研究チームによれば、こうした最新のゲノム編集技術によってトマトをトウガラシとの分岐前に戻してから、トウガラシの要素を強めた“激辛トマト”が作れるようになると主張している。
トウガラシの辛味をもたらす主成分であるカプサイシンは健康増進の面からも注目されており、トマトの“トウガラシ化”は健康食品という意味でもさらに関心が集まりそうだ。研究チームは今年末にも具体的な“激辛トマト”についての続報を準備しているという。激辛料理ファンを喜ばせる発表が近づいていそうだ。
参考:「Springer」、「Nature」、「Cell」ほか
文=仲田しんじ
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