常に斬新でクリエイティブな着想を得て仕事に取り組む一部の人たちは多くにとって羨ましい限りの存在だがそれもそのはず、最新の研究でクリエイティブな人々は“見ている世界が違う”ことが指摘されている。
■クリエイティブな人々は異なる世界を見ていた!?
斬新な発想をする人を指して普通の人とは“着眼点が違う”という形容したりするが、実際のところ同じものを見てもクリエイティブな人には違った光景に見えていることが最近の研究で報告されている。
今日のパーソナリティ心理学では人の性格を「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる5つの要素でとらえることが主流となっている。人間の性格を構成する5つの要素はそれぞれ、
(1)開放性(Openness)
(2)誠実性(Conscientiousness)
(3)外向性(Extraversion)
(4)協調性(Agreeableness)
(5)神経症傾向(Neuroticism)
であるが、このうちの(1)の「開放性」が強くあらわれている人ほどクリエイティブであるといわれている。そしてこの開放性が高い人は、他の多くの人とは“違った世界”を見ていることが実験を通じて判明しているのだ。
オーストラリア・メルボルン大学の研究チームは、学生123人に両眼視野闘争テスト(inocular rivalry test)と呼ばれる2つの目でそれぞれ異なる図形を見るテストを受けてもらった。具体的には一方の目で赤い画像を見て、もう一方の目で緑の画像を見た状態を2分間キープしたのだ。
テストを受けた多くの学生は両目で見ている画像が不規則に赤か緑に変化する体験をしていたのだが、ごく少数の学生には両目で見ている画像がパッチワークのようなモザイク模様で赤と緑が入り混じったものに見えていた。これは混合知覚(mixed percept)と呼ばれている。
そして研究チームはこの混合知覚が開放性の高い人物に起りやすいことを突き止めた。つまり開放性の高いクリエイティブな人ほど、異なるとらえ方でものを見ていることになる。そして見えているものがほかの多くとは異なっているからこそ、斬新な発想ができるとも言えるのだ。
クリエイティブな人々の“秘密”の一端が垣間見える研究となったわけだが、こうした特殊な感覚を持っているからこそのデメリットもある。幻覚なども見やすい体質になるからである。
また混合知覚は、マジックマッシュルームなどに含まれているシロシビンによっても引き起こされることがわかっている。薬物以外ではある種の瞑想法で混合知覚を獲得できるとも言われているようだ。したがって瞑想によってクリエイティビティを高められることにもなり興味深い。
■クリエイティブな人々の3つの基本姿勢
もちろん、クリエイティブな人物の“秘密”はこれだけでない。
2015年に出版された『Wired to Create』は、クリエイティブな人々の考え方や行動の特徴を挙げてそのメカニズムを解説することで、クリエイティブなマインドの“秘密”を解き明かした画期的な著作だ。
本書によればクリエイティビティは決して単純なものではなく、当人の精神世界の開放性、複雑さとあいまいさに対する嗜好、混乱や混沌に対する並外れた耐性、混乱から秩序を引き出す能力、独立性、新奇性、リスクテイキングを厭わないことなどが組み合わさったものであるという。
同著の共著者の1人、スコット・バリー・コーフマン氏が2017年1月にインタビューに応じており、クリエイティブな人物は特にどんな点が普通の人と違うのかについて、かいつまんでわかりやすく解説している。
1.日々の日課を楽しんで“遊んでいる”
子どもはどんなモノも遊び道具に変え、どんな場所も遊び場に変えてしまう“遊びの天才”だが、クリエイティブな人は子どもの時のこの精神を忘れずに日々を“遊んでいる”ということだ。
「大人として子ども時代の遊びの精神を培うことは、日々の仕事に革命的な役割を果たします」(スコット・バリー・コーフマン氏)
少しであれ“遊び心”をもって取り組むことで新たな可能性が拓け、問題に対処する新たなアプローチを見出すことができるのだ。
少しであれ“遊び心”をもって取り組むことで新たな可能性が拓け、問題に対処する新たなアプローチを見出すことができるのだ。
2.一人で考えに浸る時間を持つ
きわめてクリエイティブな人物のひとつの特徴として、内面世界に浸る傾向がある。これは外界からの刺激に対して、自分がどのように反応しているのか、どんな感情が引き起こされているのかを詳細に検分するためであるという。
「仕事をする時間だけでなく、個人的関心を育み、創造性を鍛えることが不可欠です。クリエイティブワークは経験や他人との交流からインスピレーションを得ることができますが、アイディアを組み立てて結実させるのは孤独な作業になります」(スコット・バリー・コーフマン氏)
クリエイティブワークには孤独な時間は必須で、瞑想をしたり日記を書いたり、公園を散歩したりとどんなことでもよいので孤独な時間を確保しなければならない。
3.いつでも振り出しに戻れること
目の前の作業に没頭すると、取り組んでいる仕事の本当の目的を忘れてしまうことがある。当初の計画通りに仕事を進めることが最優先になってしまい、この仕事の本来の目的を見失ってしまうのだ。
こうした事態を招くことがないよう、コーフマン氏はいつでも計画を変更したり、場合によっては白紙に戻して初めからやり直したりする心の準備が必要であると指摘している。この準備があることで、仕事に行き詰った場合はその苦境を成功のチャンスに変えることができるのだ。
「クリエイティビティ向上を求めているなら、インスピレーションとモチベーションの潜在的なソースとして、人生の意味のあるすべての瞬間(良いものでも悪いものでも)を大切に扱ってください」(スコット・バリー・コーフマン氏)
もちろんすべての仕事や作業に創造性が必要とされるわけではないが、仕事に取り組む姿勢としてクリエイティブな人々から学ぶことは多いといえるだろう。
■ビジュアル系の創造性が高いと睡眠障害に!?
クリエイティブな人々の“秘密”は深い示唆に富むものばかりではないようだ。クリエイターの睡眠事情に問題がありそうなことが最近の研究で報告されている。
絵画やデザインなどビジュアル系のクリエイティビティを発揮している者と、研究論文の執筆などもっぱら言語を扱ってコンテンツを生産している者とでは、睡眠パターンが異なるのかどうかを探る研究をイスラエル・ハイファ大学のテイマー・ショハット教授らの研究チームが行なっている。
芸術専攻の学生が15人、社会科学専攻の学生15人の計30人の大学生が参加して行なわれた実験では、機器を使ってそれぞれのひと晩の睡眠の各種データを記録したうえで、普段の睡眠状況について詳細な質問に答えてもらった。加えて各種のクリエイティビティを測定するテストも課した。
結果は興味深いものになった。ビジュアル系の創造性が高スコアの学生ほど、自身の睡眠は質の低いものであると訴えている傾向が浮き彫りになったのだ。そしてこれは睡眠障害や日中機能障害(daytime dysfunction)の症状としてあらわれているという。芸術専攻の学生の睡眠時間は他の学生よりも長いのだが、何度も起きたりするなど睡眠の質が低いため睡眠に問題を抱えているケースが多いことが明らかになった。
一方、言語系の創造性が高い学生は就寝時間も起床時間も遅く、平均よりも睡眠時間が長い傾向が判明した。研究者らは、創造性のタイプと睡眠パターンに見られる関連性について可能性のある説明を提供できると述べている。
さらに研究が必要とされているが、ビジュアル系の創造性が過度に優れていることで普段からより周囲の光景に注意深くなり、折悪くそれが警戒心を高めて睡眠を妨げている要因なのではないかと考えられるということだ。
昨年の研究では創造的な人々は悪夢を見やすいという指摘もあることから、夢も睡眠を妨げる要因なのかもしれない。良くも悪しくも、クリエイティブな人々の“秘密”が徐々に明らかになっているようである。
参考:「New Scientist」、「Inc.」、「ItechPost」ほか
文=仲田しんじ
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