夏は何かと開放的になれるものだが、いささかダメージが大きすぎるデータも発表されている。アメリカでは8月は“離婚の季節”だというのだ。
■ホリデーシーズンの終りに離婚が増える
夏とともに始まり夏とともに終わる“ひと夏の恋”はロマンティックな風情もあるが、束の間の恋だけでなく結婚生活の破局もまた夏の終りに増えてくるという。
ワシントン大学のジュリエ・ブリネス准教授らが2015年に発表した研究によれば、離婚はどうやら“季節性”のものであることが判明したということだ。研究は米・ワシントン州で2001年から2015年までに受理された離婚届を詳しく分析した。すると1年を通じて離婚の受理件数が増える時期が2つあったのだ。それは3月と8月である。どうして3月と8月に離婚が集中するのか? それはホリデーシーズンに深く関係しているということた。
「たとえ去年の休暇に相手に失望していたにしても、これからやってくる休暇を前にして人々は自ずから期待を高めていきます」と語るジュリエ・ブリネス氏だが、つまり決して最初から離婚を考えながら休暇に入るわけではなく、むしろカップルがこれまで抱えてきたお互いの関係の何らかの不具合や齟齬を、この休暇を活用してじっくり話し合い解消しようとすることが、皮肉にも離婚に繋がってしまうようなのである。
休暇を利用して“よりを戻そう”とする行為が、逆に埋めがたい両者の間の溝を浮き彫りにしてしまうのかもしれない。普段よりも長い時間を一緒に過ごすことによって、離婚するしかないと思えるほどの両者の間の問題点が明確になるのだ。
3月のほうの“ピーク”では、年末年始の休暇が原因になっているということだ。休暇中にカップルの間で離婚の合意にほぼ達したものの、年明け早々から離婚して別居するのは税務手続きなどの面で何かと面倒なことが多いため、4月を前にした3月に駆け込みで実際の離婚手続きをとるケースが多いということである。
一方、8月の“ピーク”は直前の夏の休暇での深刻な仲違いが原因で、特に子どものいる家族の場合、9月から新学期がはじまる学校制度も影響しているということだ。ということは、8月に特に離婚が多いのはアメリカを筆頭にした欧米圏特有の傾向かもしれない。実際、日本の厚生労働省が定期的に発表している「離婚に関する統計」によれば日本では3月に離婚が集中する傾向が明らかになっている。
幸いにも(!?)日本の場合、恋多き人々の夏はロマンティックな思い出で終わることも多そうだが、そのぶん現状のカップルには3月の“要注意度”が高まるかもしれない。
■「亭主元気で留守がいい」は一面の真実
離婚について最近また明らかになった傾向がある。夫がフルタイムの仕事に就いていない場合、離婚の可能性が高まるということである。
オックスフォード大学の社会学者、アレクサンドラ・キレワルド氏が2016年に発表した研究によれば、1975年を境にカップルの離婚の原因が変質してきているという。研究では6309組の結婚したカップルを1968年から2013年にわたって追跡調査した。その間、そのうちの1684組が離婚、あるいは永久的な離別に到っている。
そして1975年に起きた変質とは女性の置かれた立場の変化によってもたらされたということだ。つまり女性の社会進出が進み、経済面での夫への依存度が1975年を境に急激に減ったことで女性の結婚生活、家族生活に対する認識が大きく変化したのだ。
1975年以前のアメリカ社会では、多くの女性にとって結婚は専業主婦になることを意味していた。そして家事と子育ての大半を何の疑問もなく担ってきた。しかし1975年以後、女性が社会で広く労働力と見なされるようになってからは、多くの女性がお金になる労働と家事を比較できるようになった。つまり家事労働にもし賃金が払われるのだとすれば、相応の報酬を得ておかしくない労働であることに“気づいた”のだ。
したがって、収入の多寡はいったん置いておいて、自営業や経営者などの場合を除き多くの場合は夫がフルタイムで働いていることが、妻の家事労働負担を正当化するものになる。「亭主元気で留守がいい」というのは専業主婦にとってはやはり一面の真実であったのだ。
しかし、夫がフルタイムの勤労者でなかった場合、妻の不平等感は一気に高まり、離婚への道に繋がりやすくなるということだ。こうした経緯による離婚が極端に増えたのが70年代後半、80年代である。その後、このようなケースの場合で“主夫”に徹する夫もわずかながら増え、徐々に緩和されているのだが……。
研究によれば夫がフルタイムで働いている場合、次の1年で離婚する確率が2.5%であるのに対し、夫が非フルタイム(週40時間以下)の場合、翌年のうちに離婚する確率は3.3%になるという。2.5%と3.3%ならあまり違いはないようにも思えるのだが、これはあくまでも翌年内の予測離婚率であり、結婚年数を重ねていくほど“持ち越し”となり離婚率の差は大きなものになるのである。
アメリカでも日本でもいわゆる“非正規”の勤務形態が増えている昨今、見過ごせないビッグデータと言えるのかもしれない。そして“イクメン”という言葉にも代表される夫の側の意識改革が今後ますます不可欠になっているのだろう。
■ビッグデータから見る“離婚”に繋がる10の兆候
離婚は多くの場合、人生を左右する問題だけにその理解のためのさまざまな研究が行なわれている。生活情報サイト「Bustle」では、離婚の可能性を示唆する10の兆候を解説している。いずれも科学的な調査に基づくものでなかなか興味深い。
●出会い系サイトの利用者である
当然といえば当然だが、結婚後も出会い系サイトを利用しているカップル(どちらか一方でも)は離婚の可能性が高い。アメリカの調査によれば、既婚男性の54%は出会い系サイトでの“出会い”は不倫ではないと考えている。
●結婚式に200万円以上かけている
年々金額が上昇している結婚式の費用だが、2014年のアメリカの調査では興味深いことに200万円(2万ドル)以上を費やしてそれなりのビッグパーティーにしたカップルは質素な(50~100万円)結婚式のカップルよりも離婚する確率が3.5倍も高かったという。日本で多い親族主導の結婚式とは単純に比較できないが、大人数を招く盛大な結婚式はカップルにとっての“ゴール”になってしまい、翌日からはじまる夫婦関係を深めていくことがなおざりになってしまうということだ。
●共和党優位の州に住んでいる
アメリカでは共和党を支持する傾向がある州を赤い州 (red state)、民主党を支持する傾向がある州を青い州 (blue state) と呼ぶが、どういうわけなのか赤い州である共和党優位の州のほうが離婚率が高いことがビッグデータから浮き彫りになっている。代表的な赤い州は、オクラホマ州、アーカンソー州、アラスカ州などで、実際に離婚率が高い。
●低学歴
もちろん個人差はあるが、低学歴であるほど離婚率が高いことはデータから明らかになっている。
●通勤に45分以上かかる
2013年の研究によれば、どちらか一方でも45分以上の長い通勤時間を費やしているカップルの14%が離婚しているということだ。やはり通勤で生じる余計なストレスが原因だろう。
●1人娘を持つカップル
2010年の研究で1人息子を持つカップルより、1人娘を持つカップルのほうが離婚率が高いことが判明している。
●お互いを尊敬していない
これについては言うまでもないだろう(!?)。
●SNSの利用時間が長い
どちらか一方であれ両者共にであれ、SNSの利用時間が長いカップルが離婚率が高いようだ。2012年のイギリスの研究では、今や離婚にいたる夫婦ゲンカの3分の1の原因がSNSにまつわるものであるという。
●年の差婚である
お互いに同年代のカップルに比べて、5歳以上のギャップがある年の差婚のカップルのほうが離婚する確率が高い。
●家事負担が不平等
先に紹介した研究と重なるものになるが、家事の負担があまりにも不平等であると不満が溜まって離婚に発展する可能性が高くなる。
1つや2つあてはまっていても夫婦仲に問題がないケースがほとんどだと思われるが、ともあれ結婚した以上は末永く幸せであってほしいものである。
参考:「Live Science」、「The Cut」、「Bustle」ほか
文=仲田しんじ
コメント