オフィスで“ヤル気”を復活させる一番簡単な方法とは?

サイコロジー

 ちょうど1時間後に打ち合わせの予定があるのだが、それまでに今抱えている仕事の一部を片付けてしまおうと考えるのは賢明な判断だろう。しかしこうした状況下ではあまり仕事のパフォーマンスが上がらないことが最新の研究が報告している。それというのも主観的な時間が短くなっているのだ。

■1時間後にアポがある状態ではパフォーマンスが低下

 米・オハイオ州立大学フィッシャーカレッジ・オブ・ビジネスのセリン・マルコック准教授が主導する研究チームが2018年5月に「Journal of Consumer Research」で発表した研究では、8つの実験を行ない、アポイントメントの直前の時間は短く感じられていることを報告している。

 オンラインで198名の参加者に行なった実験では、友人がちょうど1時間後に部屋を訪れるという設定でいくつかの質問がなされた。部屋はすでに掃除されていて、やって来た友人とどう過ごすのかは来てから決めることになっているので特にすることはない。とりあえず時間潰しの読書をすることになったのだが、実際にはどのくらい読書に時間が割けるのだろうか。

 他に何もすることがない状態でも読書できるのは50分間ほどだろうと多くの参加者は回答した。それでも50分あればけっこうな読書ができるが、この状況下でどのくらい読書が進むのかを問われると、参加者の多くは友人のことが気になって約40分間分の読書しかできないと回答しているのだ。つまり客観的な時間よりも主観的が時間が10分短くなっているのだ。

 また別の実験では、オンラインで実験参加者を有償で集い、30分を要する課題は2ドル50セントの報酬、45分を要する課題はその倍の5ドルの報酬を支払うことを明示した。どうせ参加するのであれば、45分版に参加したほうが得であるのは明らかだ。

 参加者の幾人かは実験が終わった後にも別の予定があり、それでも45分の課題を受ける時間はじゅうぶんにあったのだが、実際にはその後の予定がある参加者の大半が30分版の課題を選んでいたことも浮き彫りになったのである。

 また158名の参加者を研究室に招集した実験では、到着した参加者たちに、実験の進行が予定よりも早く進んでいるため、もっと人が集まるかどうか見るために少しの間待機してほしい旨が伝えられた。

 さらにある参加者たち(Aグループ)には「実験はもうすぐはじまりますが、とりあえず今から5分間は何をしてもよいです」と伝えられ、また別の参加者たち(Bグループ)には実験開始時期には触れず「5分間は何をしてもよいです」とだけ伝えられた。

 この5分間に参加者たちはスマホを取り出してメールやメッセージをやり取りしたりSNSをチェックしたりと思い思いに過ごしていたのだが、詳しく分析してみるとBグループのほうが活動がアクティブである傾向が顕著であった。つまり開始時間を気にしないで過ごした5分間のほうが活動的であったのだ。

 直近に迫ったアポイントメントや予定が意外なほどの“プレッシャー”を与えていて、我々のパフォーマンスを低下させていることが指摘されることになったのだが、そうはいってもビジネスの現場では仔細なスケジュールが結果的に組まれることもあり得る。

 対策としては、次の予定を控えている“細切れの時間”にはメインの仕事はなるべくせずに領収書の整理や交通費の計算などの雑用にあてるようにしたり、1日のアポが複数ある場合はなるべく繋げてしまうようにすることが考えられる。スケジューリングの重要性が再確認される話題でもあるだろう。

■行き過ぎた目標設定がうつや不安障害に繋がる

 仕事におけるスケジューリングの重要性があらためて確認されることになったのだが、仕事を含めたゴール設定もまた慎重に行なうべきであることが最新の研究で指摘されている。仕事や私生活であまり欲張ってゴールを設定すると、最悪の場合、うつや不安障害に繋がるというのである。

 英・エクセター大学と豪・エディスコーワン大学の合同研究チームが2018年3月に「Personality and Individual Differences」に掲載した研究では、200人以上のヤングアダルトを調査した結果、仕事や私生活における2つのモチベーション葛藤(motivational conflict)が深刻な問題になり得ることを指摘している。

 1つめのモチベーション葛藤はゴール間葛藤(inter-goal conflict)で、仕事や私生活で平行して設けたゴール設定を両立させるのが難しくなったときに生じる葛藤である。たとえば、家族となるべく長く楽しい時間を過ごすという目標と、仕事で業績をあげるという目標は、もちろんどちらも素晴らしいゴール設定だが往々にして両立が難しくなる。

、2つめは相反する感情を同時に抱くアンビバレンス(ambivalence)である。例えばパートナーのいない者が、ある人物と親密になろうとする目標を設定したとして、その試みを重ねていくうちに逆に自分の主体性が失われていく感情を抱くかもしれない。

 そしてこれらのモチベーション葛藤がそれぞれ単独でもうつや不安障害に繋がるものになり得るということだ。

 ゴール間葛藤は本人にも周囲にもよく把握できるものになるが、研究チームによればアンビバレンスは本人も気づかない潜在意識下の葛藤を生みだすものであることを指摘している。アンビバレンスは意識化されていない根本的な葛藤を示す可能性があり、それらの根深い葛藤に着目することは、解決と苦痛を和らげるための手がかりになり得るということだ。

 仕事でも私生活でも目標を掲げて努力しゴールを達成することで、人生に意味を与え自己評価を高めるものになるが、どうやら高い目標を同時に設定することには慎重になったほうがよさそうだ。そして目標を追い求めることで心の奥底に葛藤が生じていないかどうか、折に触れて自己分析してみてもよいのかもしれない。

■オフィスで“ヤル気”を復活させる一番簡単な方法とは?

 ややもすれば倦怠ムードに陥りがちになるオフィスで“ヤル気”を復活させる安易で手軽な方法はないものだろうか。そこで注目されるのが“ピザの出前”である。

 最近のビジネス用語でよく使われる言葉にKPI(key performance indicator)があるが、これは重要業績評価指標と訳されていて、企業目標の達成度を評価するための主要な業績の評価指標のことを意味している。つまり重要な仕事に関しての進捗度を数値でその都度評価することなのだが、評価する期間はいかようにも設定することができる。

 2016年に職場でのモチベーションについての自己啓発書『Payoff: The Hidden Logic That Shapes Our Motivations』を出版した経済心理学者のダン・アリエリー氏は同著の中で、あるオフィスで行なった実験を解説している。

 従業員は4つのグループに分けられ、職場で各人の1日のKPIが評価された。そして設定された目標に到達した者には次のような報酬がインセンティブとして用意されたのだ。

 4つのインセンティブとはそれぞれ、

●Aグループ:40ドルがもらえる。
●Bグループ:ピザの出前をおごってもらえる。
●Cグループ:上司からの賛辞を受けられる。
●Dグループ:何もない(コントロールグループ)。

 である。

 結果はなんとピザの出前がモチベーションになったBグループがトップの成績を収めた。続いて上司からの賛辞を受けられるCグループ、そして意外にも現金がもらえるAグループは何ももらえないDグループよりも低い4位と最下位になったのだ。

 しかしながらこれは初日の結果で、数日間続けられた実験での総合順位の1位はAグループになったということだが、逆に言えばここぞといういう“踏ん張りどころ”のインセンティブとしてはピザなどの食べ物のデリバリーが有効に機能するということになるのかもしれない。「腹が減っては戦はできぬ」のはやはり一面の真理ということだろうか。

参考:「Oxford University Press」、「ScienceDirect」、「Mens Health」ほか

文=仲田しんじ

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