インパクトが強く諸刃の剣にもなるパワフルカラー“赤”の秘密

サイコロジー

 赤という色が持つパワーにあたらめて注目が集まっているようだ。赤に関係した男性は魅力的に見えると同時に、脅威的な存在として避けられもするアンビバレントな存在になるという。

■赤が持つパワーは“諸刃の剣”

 色の中でも特にインパクトが強いレッドだが、この色の持つ絶大な影響力が再び脚光を浴びている。最近の研究では、外見に赤を取り入れた男性について、女性の人物評価に与える影響を実験を通じて検証している。

 豪・クイーンズランド大学ビジネススクールとカナダ・UBCサウダービジネススクールによる合同研究チームが2019年11月に「Journal of Experimental Psychology: Applied」で発表した研究では、1009人の女性参加者(18~50歳)に対して白い背景の男性の写真と、背景が赤い男性の一連の写真を見せて、写真の人物の魅力を評価してもらう実験が行われた。

 結果は興味深いものになった。既婚女性においては背景が赤の男性の魅力は低く評価されたのだが、一方、独身女性においては逆に赤の男性はより魅力的であると報告されていたのだ。

 いったいどうしてこのような相反する現象が起きているのか? 研究チームによれば、赤はいずれにしてもロマンティックな文脈を女性に意識させているのだと説明している。赤に関係づけて示される男性は端的に言えば“恋愛対象”として認識されるので、独身女性にとっては魅力的でポジティブに映り、既婚女性にとっては現在のパートナー関係を脅かす脅威としてネガティブな評価が働くというのである。

 それだけ赤という色の影響力が強いということになるのだが、ポジティブにもネガティブにも働く“諸刃の剣”であることをよく理解しなければならない。ポジティブな印象を与えようと、赤い服や装飾品などで着飾るのは別に悪いことではないが、そうしたアピールを求めていない向きに対しては目障りな存在になったり、威圧感を与えてしまうリスクもあるのだ。

 しかしながら、赤に対するネガティブな印象は、見る側が仕事終わりなどで疲れていたり、脳のリソースが奪われた状態では和らげられることがまた別の実験で確かめられている。とはいえ基本的にはファッションにおいてパワフルな影響力を持つ赤の扱いには少し注意を払ったほうがよさそうだ。

■「ケチャップとマスタード理論」とは

 赤は食欲をそそる色としても知られているのだが、赤が黄色とタッグを組むことでさらに旺盛な食欲を喚起し、空腹感を呼び起こすことが最近の研究で報告されている。飲食店、特にチェーン店の看板に赤と黄色の組み合わせが多いのも頷ける話となる。

 マーケティングの専門家であり、英・ランカシャーの「ビジネスアカデミー」の創設者であるニッキー・ヘスフォード氏は、英紙「Metro」に、外食産業において色の持つ重要性を解説している。

 ご存じのようにマクドナルド、バーガーキング、ピザハットなど、アメリカのファストフードチェーンは、これらの色を看板のロゴに使用している。こうしたファストフードの看板で赤と黄色を使用することは「ケチャップとマスタード理論」と呼ばれ、この2つの色の組み合わせにより、空腹感と食欲が同時に引き起こされるということだ。

 かつての研究で赤は注目を集め、身体の血流を早め、消化器系の血流が増加して代謝が加速され、空腹を覚えやすくなることが報告されている。また心拍数を増加させ、食欲を高めることも示されているのだ。

 一方で色彩心理学によると黄色は満足感、幸福感、自己能力感、快適さの感情に関連づけられている。そして黄色が赤と結びつくことで、食に対してポジティブな渇望感が生じるのである。

 もちろん赤と黄色の組み合わせのロゴが多すぎればどれも似たような印象になり埋没するリスクもある。サブウェイのように緑を使うことで自然志向をアピールしたり、タコベルのようにマイルドな赤紫色のベルの振り子に鮮やかな黄色を使いよりリラックスした感じを演出したりと、“変化球”はいくつも考えられるだろう。色の持つ“パワー”を有効活用したいものだ。

■脳がモノクロ写真をカラー写真に“捏造”

 デザインの世界では色はCMYKやRGBといったカラーコードで数値化されているが、認識している我々の側は実のところ色をかなり大雑把に主観的に認識していることが、アーティストの素晴らしい仕事によって気づかされる事態を迎えている。我々の脳はモノクロ写真をなんとカラー写真に変換できるのである。

 モノクロ写真の上に色付きの線を何本も引くと、我々の視覚と脳はそれをカラー写真に“捏造”してしまうというから驚きだ。

 このメカニズムを発見し、実際にアート作品に仕立て上げたのはアーティストでソフトウェア開発者でもあるオルヴィン・コーロス氏だ。視覚実験アートプロジェクト「カラー・アシミレイション・グリッド・イリュージョン」の活動の一環で制作された“カラー錯視”画像と動画には驚かされるばかりだ。

 なぜこんな驚くべきことができてしまうのか。しかし豪・シドニー大学の視覚科学者であるバート・アンダーソン教授によれば、この“カラー錯覚”は特に驚くことではないという。

 アンダーソン教授によれば我々の色彩認識システムは「ローパス(low pass)」と呼ばれる平滑化の力が働いており、注目した色を無彩色のエリアに引き伸ばして脳が自動的に“塗り絵”をしてしまうというのである。

 つまり我々の目と脳はとりあえずかなりざっくりとものを見ているのであり、鍵となる色をその周囲にぼんやりと滲み出させていることになる。

 したがってひとことでファッションやデザインといっても細かい色の組み合わせが重要というより、全体的にどんな感じで見えるのか、場合によっては視覚以外の感覚を含めた“雰囲気”が思った以上に大切なのかもしれない。

参考:「NLM」、「Metro」、「Science Alert」ほか

文=仲田しんじ

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