インセンティブ制度は不正の温床に!? 組織のモラル低下を防ぐ4つの対策

サイコロジー

 営業職や販売職などでは歩合給の割合が高い給与体系の場合もあるだろう。また設定した目標に到達すると成功報酬が発生するインセンティブ制をとっている会社もある。社員にヤル気を出させるためのこうした報酬だが、しかしながら最近の研究ではインセンティブは職場のモラルを低下させる危険性を孕んでいることが指摘されている。

■インセンティブは職場のモラルを低下させる

 能力主義の組織では各種のインセンティブによって従業員たちを発奮させているが、こうした細かいゴール設定による成功報酬は社員の能力を引き出す一方で、不正や改ざんなどの非道徳的行為を職場に蔓延らせる原因にもなるという。

 米・バージニア工科大学商学部(Pamplin College of Business)、クラークソン大学、イサカ・カレッジの合同研究チームが2018年9月に「Journal of Accounting, Ethics & Public Policy」で発表した研究では、インセンティブが従業員のモチベーションとパフォーマンスを向上させるものの、その一方で職場での非倫理的な行動を促すものにもなっていることが報告されている。

「仕事のゴール設定は従業員の行動に深刻な影響を与える可能性があり、今日の競争の激しいビジネス環境では、そのダメージはより強くなっているようです」と研究チームのビル・ベッカー准教授は語る。

 研究チームは数々の仕事の現場を調査・分析した結果、金銭報酬が伴うゴール設定は職場の不正行為を増やす原因となっていることを示唆している。

「これらの意図しないネガティブな帰結は従業員の不誠実、非倫理的行動、リスクテイクの増加、立場への固執、自己制御の低下につながる可能性があります」(ビル・ベッカー准教授)

 研究では、金銭報酬が伴うゴールが設けられた職場では財務報告書や労働時間申告、経費報告書を改ざんまたは操作するなど、職場における非倫理的な行動が観察されたことを指摘している。

 またマネジャーの不正の度合いがある閾値を越えると、階段を転げ落ちるように常に不正を働く悪辣な人物になっていることも突き止められている。

「金銭的インセンティブを活用するのはたいていの場合、諸刃の剣になります」(ビル・ベッカー准教授)

 会社全体の利益を上げるために設定されるインセンティブだが、不正が増えれば会社の利益を損なうものにもなる。インセンティブ制の導入は組織を“ブラック”にするリスクを伴うようだ。

■中間管理職が社内のモラル低下の原因?

 ニュースになるような企業や組織のスキャンダルはたいていの場合、腐敗した上層部の不祥事が原因だったり末端従業員のミスによるものであるケースが多いように思われるが、最近の研究では中間管理職が社内のモラル低下に大きな役割を果たしていることが報告されている。その原因となっているのが、上層部からの現実味に欠けた設定目標であるという。

 米・ペンシルベニア州立大学スミール・カレッジ・オブ・ビジネス、カンザス大学、フランスのIESEG経営大学院の合同研究チームが2017年10月に「Organization Science」で発表した研究では、研究者たちは大手テレコミュニケーション会社に非正規労働者として実際に273日もの間勤務して主に中間管理職の仕事ぶりを観察すると共に、その部下たちの同僚に休憩中に話を聞き105件ものインタビューを行なっている。

 実際の職場から収集したデータを分析したところ、報告書の改ざんなどの職場のモラル低下に中間管理職が一役買っていることを突き止めている。それというのも、上層部からの要求が到底達成できない非現実的なものであることからくるという。

「さまざまな理由から、設定された目標は非現実的で達成不可能でした。そして労働者は十分な訓練を受けておらず、彼らは自身を有能だとは感じていません。さらに彼らは製品・サービスのことをよく理解しておらず、十分な数の顧客が存在せず、すべての作業を完了するための時間がありませんでした」と研究チームのリンダ・トレビーノ特別教授は語る。

 上層部から突きつけられる非現実的な要求に対処するために、中間管理職はさまざま手段を講じて部下たちに不正を働かせ、自分もまた巧妙に上層部を欺く各種の改ざんを行なっているという。そしてこの中間管理職の仕事ぶりが結果的に職場のモラルを低下させているのである。

 こうした中間管理職が講じている不正は実に巧妙で、例えば他部署の売り上げを取り込んで水増しして目標を達成しているように見せかけるなどの手口もあるということだ。

 ご存知のように日本の大企業による不祥事や不正が問題になっているが、その根底にはこうした仕事の現場での構造的なモラル低下があるのかもしれない。いずれにしても抜本的に解決せねばならない組織の課題と言えるだろう。

■“パフォーマンス・プレッシャー”でモラル低下

 上層部からの非現実的なゴール設定によって、中間管理職以下の職場でのモラルが低下することが指摘されているのだが、従業員個人の側からすればこうしたときに“パフォーマンス・プレッシャー”がかかっていることが最近の研究で報告されている。パフォーマンス・プレッシャーもまたその人物のモラルを低下させ、ウソや不正行為の原因になっているというのだ。

 米・ジョージア大学をはじめとする合同研究チームが2017年11月に「Journal of Applied Psychology」で発表した研究では、主観的なパフォーマンス・プレッシャーを感じることで非道徳的行為が引き起こされるメカニズムを解説している。

 どんな仕事であれ従業員には程度の差こそあれパフォーマンスが要求される。そして要求されるパフォーマンスを満たすことが多ければ失職に繋がるだろう。いわゆる“クビ”を連想させる仕事上のプレッシャーがパフォーマンスプレッシャーである。

 パフォーマンスプレッシャーを受けると従業員は“ホット”か“クール”のどちらかの反応を引き起こすという。“ホット”は怒りの感情であり「どうやったらこんなに多くの仕事ができるというのだ!」と熱くなっている状態で、“クール”は悲観的な感情で「もしこればできなけれな私は辞めるしかなくなる」という絶望の状態である。そしてこのどちらも身の上の不安を抱かせ、身の守りを固めるためにウソをついたりごまかしをすることに繋がっているということだ。

 社内で不正行為が多く行なわれていれば当然のことながら業績にも悪影響を与え会社の利益を損なうことになる。そこで研究チームは組織のモラルを低下させないための4つの対策を紹介している。

●倫理的なロールモデルを強調する。リーダーが身をもって有言実行に務めることが組織の意識を変革する。

●就業規則を厳格化する。規則に従っている限りは自分の身の上を守る必要性は低くなる。

●“要求されているパフォーマンス”と“全力で取り組む”ことを分けてバランスをとる。

●パフォーマンスの結果によって立場が脅かされることがないようにする。

 安心して働くことができればおのずからパフォーマンスも向上できるのだろう。過度なプレッシャーによって組織のモラル低下を招きたくないものである。

参考:「Virginia Tech」、「Pennsylvania State University」、「University of Georgia」ほか

文=仲田しんじ

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