アンチエイジングの特効薬はなんとあのアナログゲームだった!

サイエンス

 否応なく進んでいく社会の高齢化だが、定年後のメンタルヘルスの健康の鍵を握るのが社会参加である。そこで手軽に楽しみながら集いに参加できる習慣として、麻雀などのアナログゲームが注目されている。

■麻雀プレイ習慣が都市部高齢者のメンタルヘルスを維持

 高齢化する社会の中でますます懸念されてくるのは社会的孤立を起因とするメンタルヘルスの悪化である。近年、世界的にも精神疾患による医療費の増大は著しい。

 社会的孤立を解消するには社会参加が有効であることは広く認められており、この関係をよりよく理解するために、アメリカや日本を含む先進国でいくつかの取り組みが行われているのだが、まだまだ研究は深まりを見せていないという。

 そこで中国・華中科技大学、米・ジョージア大学をはじめとする合同研究チームは、中国政府のデータベースから45歳以上の約1万1000人の国民の健康データを分析した研究を2019年9月に「Social Science & Medicine」で発表している。

 中国においても高齢者の数は先進国と同様に増加し続けているため、社会的孤立と孤独に関連するメンタルヘルスの問題が深刻になってきている背景がある。

 データを分析したところ、全体として、さまざまな活動に頻繁に参加することがメンタルヘルスの維持・向上に関連していることが突き止められた。特に麻雀のプレイ習慣のある都市住民は、気分の落ち込みを感じる頻度が減少していたのだ。

 複数でワイワイガヤガヤとプレイする麻雀で気分の落ち込みが改善されるというのはある意味ではわかりやすいことだが、興味深いことに都市部と農村部ではやや事情が異なることも明らかになった。農村部のコミュニティに変化が起こっているというのだ。

 研究チームのジュオ・チェン氏によれば、これまでは中国の農村部はより緊密なコミュニティを形成したのだが、若者が仕事を求めて都市へと上京する傾向が続いたため、家族間の絆は依然として強いものの、コミュニティの絆は弱まったということだ。

 こうしたコミュニティの変化によって、気軽に麻雀卓を囲めるメンバーを確保するのは農村部で難しくなり、また麻雀が成立する少ない機会ではギャンブル色が濃くなり、メンタルヘルスの健康に結びつくものではなくなるということだ。

 つまり身近に頻繁に遊ぶことのできる“ゆるいつながり”の仲間の存在が、高齢者のメンタルヘルスに好影響を及ぼすということだろう。

■麻雀プレイ習慣が“目と手の協調”機能を維持

 高齢者にとって麻雀はメンタルヘルスの健康だけに資するのではなさそうだ。目と手の連携運動を良好に保つためにも麻雀はきわめて有効に働いているという。

 手を使った動作全般で必要になるのが目と手の協調(eye-hand coordination)で、その協調の精度は加齢と共に衰えていくものだ。そこで香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)の研究チームが2016年10月に「Journal of physical therapy science」で発表した研究は、高齢の麻雀プレイヤーの目と手の協調の能力を探るというユニークなものである。

 ご存じのように麻雀ではその都度麻雀牌を確認しながらゲームをよどみなく進めていかなければならない。つまり目と手の協調がかなりの程度要求されるのだ。では麻雀のプレイ習慣で高齢になっても目と手の協調の機能低下を防げているのかもしれない。

 60歳以上の高齢者41人が参加した実験では、麻雀のプレイ習慣の有無を明らかにしたうえで、表示されたターゲット画像をできる限り早く正確に指先でタッチする課題が行われた。ターゲット画像は静止したものと動いているものの2種類が用意され、それぞれ左右の手を使って行われた。

 結果は明白なものとなった。麻雀プレイヤ―の高齢者は、そうでない者よりも課題において利き手の指先をタッチするのが著しく早く正確であった。

 また利き手でないほうの課題においても麻雀プレイヤーはそうでない者よりもリアクションタイムが短く、より正確にタッチすることができたのだ。

 これらの結果から研究チームは、高齢の麻雀プレイヤーは非プレイヤーよりも目と手の協調が優れていると結論づけ、 麻雀のプレイ習慣は、高齢者の余暇活動としてきわめて有益である可能性が高く、推奨されるべきものであるとしている。高齢者にとって麻雀は意外なメリットがいくつもあるようだ。

■マイクロソフトが最強“麻雀AI”を開発

 麻雀の話題としては、AI(人工知能)がついに麻雀でも人間を負かしそうなことである。

 チェスや碁、将棋などのゲームはすべての情報を共有したうえで対戦する「完全情報ゲーム」である。無限に近い手数があるにしても、ゲームの情報が完全に共有されているだけにAIにとって“考えやすい”ともいえる。しかし麻雀はご存じのように基本的に4人で行い、牌の配置や割り当てもまったくランダムであり、自分以外の役を知ることもできないという「不完全情報ゲーム」である。

 このように“運”の要素もかなりの割合で含まれる「不完全情報ゲーム」である麻雀をはたしてAIが満足にプレイできるのか。この課題に挑んだのがマイクロソフトの研究開発機関「Microsoft Research Asia、MSRA」が開発した“麻雀AI”「Suphx」で、オンライン麻雀サイト「天鳳」で10段の段位を獲得し、人間のトッププレイヤーの平均を上回る成績を収めている。

 囲碁や将棋に続いて、麻雀もまたAIに人間が太刀打ちできなくなりそうなのだが、いったいどうしてAIが麻雀のような「不完全情報ゲーム」で強くなれるのか。そこには大きく3つのポイントがあるという。

1.自己適応意思決定(Self Adaptive Decision Making)
 巨大な状態空間(huge state space)に対応して、従来のアルゴリズムよりも効率的にゲームのさまざまな可能性をテストできる。

2.事前コーチ(Prior Coach)
 不完全な情報の課題に対処するために、Suphxは強化学習の効果を高める事前コーチ(Prior Coach)技術を採用している。これにより、AIは可視情報をより深く研究および理解し、意思決定の効果的な基盤を形成できるということだ。

3.包括的予測(Comprehensive Prediction)
 麻雀の複雑な報酬メカニズムに対応すべく、研究チームは包括的な予測手法を用いて、各局と1ゲーム(8局)後の最終結果とのギャップをAIが埋められるようにした。この技術によりSuphxは現在の局のゲームを越えた“大局観”を持てるようになったということだ。

 そして麻雀という複雑な「不完全情報ゲーム」で優れた意思決定ができるということは、ゲームに限らず現実のさまざまな問題にAIが対処できるようになることが示唆されてくる。AIの可能性は今後もまだまだ広がりそうだ。

参考:「ScienceDirect」、「NLM」、「Medium」ほか

文=仲田しんじ

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