アメリカで“マッシュルームコーヒー”の人気が続く理由とは?

サイエンス

 数年前からアメリカでは奇妙にも思える食のトレンドが続いている。「マッシュルームコーヒー」をはじめとするマッシュルームを使ったフードアイテムが人気なのだ。

■“マッシュルームコーヒー”の人気が続く

 マッシュルームとコーヒーの“融合”は実に奇妙な現象のようにも思えるのだが、そこにはそれなりに納得できる理由があるという。

「ハッピーで健康的な1日をはじめるために、この2つを組み合わせることができるのです」とフロリダ州にある総合病院「ジュピター・メディカル・センター」でホリスティック内科医を務めるケン・グレイ医師は「ABCニュース」の取材に答えている。

 グレイ医師によればマッシュルームにはがんの進行を食い止める成分が含まれており、加えて疲労回復、免疫機能の向上に有効に作用すると話す。

「これは多くの人々が支援している新しいトレンドの1つです。抗炎症作用、心臓血管の健康、エネルギー増進、自己免疫疾患の治癒、そしてガンとの闘いに最適なのです」(ケン・グレイ医師)

 マッシュルームコーヒーの人気は今も上がり続けていて、特にサンシャインステイト(Sunshine State)と呼ばれるフロリダ州、サウスダコタ州、ニューメキシコ州で多くの支持を獲得しているということだ。

 いわば“キノココーヒー”ということで、なんだか奇妙な味がしそうにも思えてくるが、テイストは普通のコーヒーとほとんど変わるところはないということだ。ブラックで飲んだ場合、酸味が抑えられているのでむしろ飲みやすいという声もあるという。

 グレイ医師はこのマッシュルームコーヒーは誰のためにもよいものであることを力説している。そしてフードアイテムとしてマッシュルームコーヒーを選ぶことはきわめて賢い選択であるという。

 アメリカでは徐々にこのマッシュルームコーヒーが普通の小売店でも入手できるようになってきているという。マッシュルームコーヒーの人気がどこまで続き、どこまで“本物”なのか今後もその動向に目が離せないうようだ。

■マッシュルームで認知機能の低下を50%防げる

 まだまだ高まりそうなマッシュールコーヒーの人気だが、最近の研究ではマッシュルームは健康に資するばかりでなく脳にもよいことが報告されている。マッシュルームを日常的に摂取することで、シニア世代における認知機能の低下を50%防ぐことができるというのである。

 シンガポール国立大学医学部の研究チームが2019年3月にアルツハイマー病系のジャーナルである「Journal of Alzheimer’s Disease」で発表した研究では、シンガポール国内に住む600人の中高年の中国人を6年間に及んで追跡調査し、マッシュルームの摂取と軽度認知障害(MCI)の関係を探っている。

 ご存知のように中華料理ではマッシュルームをはじめキノコ類が多く使われるが、シンガポール在住の多くの中国人もその多くがキノコ類を日頃からよく食べているようだ。

 収集したデータを研究チームが分析したところ、週に300グラム以上のマッシュルームを食べる中高年は、加齢による軽度認知障害(MCI)リスクが50%低減していることが突き止められたのである。マッシュルームは身体的な健康を促進することに加えて脳にもよかったのだ。

 マッシュルームには健康に良いとされるさまざまな成分が含まれているが、認知機能を良好に保つ働きを主に担っているのは、強い抗酸化力をもつ水溶性のアミノ酸であるエルゴチオネイン(ergothioneine)であることを示唆している。

 エルゴチオネインはヒトの身体では生成することができないため、もっぱら食事から取り入れることしかできない。とすればマッシュルームを常食する食生活は認知機能の維持の点で大きなアドバンテージがあることになる。逆に言えば中高年以降にエルゴチオネインが欠乏することで、神経系の機能低下を招くのである。

 研究チームは次のステップとして、フィトケミカルと呼ばれる植物栄養素(phytonutrient)全般のアンチエイジング効果をランダムに1つ1つ検証することを計画している。例えば茶葉に含まれるテアニン(L-Theanine)やカテキン類(catechins)などが候補に挙がっているという。ともあれその優れたアンチエイジング効果のあるマッシュルーム人気は今後さらに熱を帯びるのかもしれない。

■缶詰マッシュルームのグローバル需要は今後も増加

 そして実際に、マッシュルーム人気は今後もしばらく続くことが最新の調査レポートから報告されている。人々の健康志向と共に、ベジタリアン(肉、魚を食べない人々)とベガン(肉、魚に加えて卵、乳製品も摂らない人々)の間に、マッシュルームの需要が順調に高まっていくというのである。

 英・ロンドンの市場リサーチ会社「テクナビオ(TechNavio)」は先日、缶詰マッシュルームのグローバル需要が2019年から2023年までの間に45億7000ドル(約5014億円)の成長を遂げるというレポートを公表した。

 レポートによれば、それぞれ缶詰のマッシュルーム(button mushroom)、シイタケ(shiitake mushroom)、ヒラタケ(oyster mushroom)、その他のマッシュルームのグローバル需要が今後順調に増え続けることを予測している。

 缶詰マッシュルームのグローバル市場は、アジア太平洋(APAC)、ヨーロッパ、中東&北アフリカ(MEA)、北アメリカ、南アメリカの地域で、いずれも今後数年にわたって需要は拡大していくということだ。

 前出の話題などのように、マッシュルームにはさまざまな健康増進効果が指摘されているのだが、テクナビオのレポートによれば、人々の単純な健康志向というよりも、今後ますますベガン志向(veganism)が増えるからであると見込んでいる。

 肉、魚に加えて卵や乳製品も食べないというベガンは、現代社会に蔓延している肥満、糖尿病、循環器系疾患の状況から今後は徐々に増えてくると予想されていて、その結果として“植物系スーパーフード”であるマッシュルームの需要が高まると予測されているのだ。

「ベガンダイエットの人気の高まりは、ベガンの顧客からの需要に応えるために、食品業界がメニューにさまざまなオプションを追加するよう促しています。完全菜食主義とベガンダイエットを推奨するセレブの数々のスタートアップの出現は完全菜食主義の人気を高めています」(レポートより)

 健康な食生活を志向する人々はもちろん、ベジタリアンとベガンからも注目を集めるマッシュルームからはしばらく目が離せないようだ。

参考:「News5 Cleveland」、「NLM」、「Business Wire」ほか

文=仲田しんじ

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