よく遊びよく働くための趣味と仕事の関係

ライフハック

 熱中できる趣味を持つことは、日々の生活に活力を与え暮らしにポジティブな影響を及ぼすだろう。しかしくれぐれも仕事と私生活の一線を曖昧にしてはならないという警告が最近の研究から発せられている。

■仕事と私生活の区別が曖昧だと消耗を感じ生活の満足度が低い

 仕事を私生活に安易に持ち込むことで心身に悪影響を及ぼすことが最近の研究で指摘されている。公私のけじめをはっきり分けたほうが結果的に仕事のパフォーマンスも高まるのというのだ。

 スイス・チューリッヒ大学の研究チームが先日、産業心理学系ジャーナル「Business and Psychology」で発表した研究では、ドイツ語圏の2000人もの成人男女を調査して、仕事の作業遂行の実態と生活への満足度を探っている。

 収集したデータを分析した結果、仕事と自由時間を明確に分け隔てていない勤労者は、仕事を離れてリラックスとリフレッシュができるアクティビティ(スポーツなど)に参加する可能性が低いことが浮き彫りになった。これは明らかにプライベートにも仕事を引きずっているために、完全に仕事から離れていないことを示している。こうして仕事とプライベートの区別を明確にしていない者はより消耗を感じ、生活の満足度が低くなっているのである。

 仕事と私生活を一緒にした勤労者はリフレッシュする機会が少ないのでより消耗し、レクリエーション活動の欠如が仕事と私生活を混ぜ合わせた人々の幸福感を低下させていると研究チームは説明している。そして企業は従業員のこうした仕事の実態をよく理解し、解決に向けた取り組みに着手しなければならないことを提言している。

“過労死”に代表される生産現場の問題は日本でも取り組まなければならない大きな課題になってきている。まずは仕事と私生活の区別をあいまいにしないことが求められるだろう。

■趣味が仕事と生活に及ぼす3つのメリット

 公私の区別をはっきりつけて趣味に打ち込むことで、結局のところ仕事面でのキャリア形成にも好影響を与えることがサイエンスの側からも指摘されている。

 フェイスブックの共同創設者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、入社希望者の面接に立ち会った際には必ず趣味を聞くという。どのような趣味にどれくらい打ち込んでいるのかは、情熱と活力を備えた将来の有望な人材を占う鍵となる要素であるということだ。そして趣味が仕事と生活に及ぼす効能を3つ解説している。

1.仕事のパフォーマンスが向上する
 熱中できる趣味を持っている人は自ずから時間の管理に長けてくる。仕事と趣味の両立は裏を返せば貴重な時間を最大限に活用することに繋がるからだ。

 したがって通常の8時間労働において、趣味を持っている人は生産性の高い仕事ぶりを見せていることがいくつかの研究でも指摘されている。特に芸術や音楽などの方面のクリエイティブな趣味は仕事上での企画立案に好影響を及ぼしていることが浮き彫りになっている。

 そして“趣味人”は趣味と同じく仕事にも満足している傾向が見られ、仕事に起因するうつや“燃え尽き症候群”に陥りにくいこともわかっている。

2.健康を増進させる
 スポーツなどの身体を使う運動はもちろん、特に身体運動が要求されないアクティビティであっても、趣味は健康を良好に保つことが各種の研究で指摘されている。

 2009年の研究では1400人の実験参加者による検証が行なわれ、レジャーとしてアクティビティを楽しむ習慣のある人は、血圧と別名“ストレスホルモン”と呼ばれるコルチゾールの値が低く、またウエストラインが細くBMI値が低い傾向も浮き彫りになっている。

 そしてこれは手芸や工作、ギター演奏など激しい身体的運動を伴わないアクティビティであっても適応されるものであることも判明している。

3.ストレスの低減
 趣味のアクティビティによってストレスが緩和されることがいくつかの研究で実証されている。カリフォルニア大学の健康心理学者、マチュー・ザワツキー氏の研究によれば、レジャー活動によってストレスが緩和されることで集中力の向上や長寿など、心身への多くの好影響がもたらされることを指摘している。

 趣味によってもたらされた好影響は数時間後、さらには数日後までも続き、うつ気分やネガティブな感情を抑え込むことができるということだ。

「研究ではまだ短期間の効果しか検証していませんが、趣味活動でのストレス低減には明らかにキャリーオーバー効果があります。この点について考察を深めると、いかにレジャー習慣が健康を改善するのに役立っているのかがわかります」(マチュー・ザワツキー氏)

 心身の健康、そして仕事のパフォーマンスの向上に役立つ趣味の時間をこの機会に見直してみてもよさそうだ。

■“脳に良い”7つの趣味

 ではどんな趣味を持てば良いのか。“脳に良い”7つの趣味があるという。

1.読書
 読書に限定せずとも新聞、雑誌、ウェブ記事などでも読むという行為で脳のいくつかのエリアの機能が刺激され、脳神経に新たな“回路”が形成されて情報の吸収を助ける。また問題解決能力、パターン認識力、他者の感情の理解力、そして記憶力などもリーディングによって培われる。

2.楽器演奏
 ギターやピアノなどの楽器演奏、あるいは楽器演奏の練習にもさまざまな効能がある。特に幼少期に楽器の演奏を習わせると脳の発達に好影響を及ぼし、その後の学業にも役立つことが判明しているが、歳をとってからでも楽器演奏は脳に同様の効果を及ぼす。楽器演奏によって脳の灰白質が増えて脳神経の接続が密接になり、その結果として認知機能、問題解決能力、記憶力が向上する。

3.運動
 日常的な運動によって血中のBDNF(脳由来神経栄養因子)濃度が高まり、記憶力と集中力が高まる。かつて行なわれた実験では、画像を記憶するテストにおいて、運動後にテストを行なったグループにおいて画像記憶力が大幅に向上していることが確認されている。

4.外国語学習
 外国語学習によって言語を司る脳の領域の灰白質が増え、理的思考、計画力、記憶力が向上する。そしてバイリンガルになることで、ひとつ以上の作業や課題に同時に取り組むデュアルタスク能力、マルチタスク能力が身につく。そして楽器と同じよう外国語学習も年齢に関係なく習熟することができる。

5.累積学習(cumulative learning)
 累積学習とはすでにある程度の学習歴がある分野の学びを再開・継続することである。例えば算数のレベルから方程式、代数と段階的に学習していくことが累積学習なのであるが、これはいつの歳になってからでも趣味として再開すれば脳に多大なメリットがある。これまでの研究で累積学習を継続することで記憶力、論理的思考、問題解決能力、言語運用能力が高まることが指摘されている。

6.パズルとゲーム
 脳も筋肉と同じように日常的に鍛えることで機能が向上する。クロスワードパズルやチェスや囲碁・将棋などの戦略的なゲームを習慣化することで脳の神経回路が活性化されて機能が向上する。

7.瞑想とヨガ
 瞑想によってストレスと不安が緩和され、集中力と記憶力が高まる。瞑想の習慣を続けている人は高齢になっても脳の灰白質の量が多いままであるという。そしてヨガと組み合わせれば身体の運動にもなりより有効なアクティビティとなる。

 忙しい日常を送る現役ビジネスパーソンには新たな趣味は持ちにくいとも言えるが、長期的な観点からひとつでも“脳に良い趣味”をはじめてみてもよいのだろう。

参考:「Springer」、「CNBC」、「Lifehack」ほか

文=仲田しんじ

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