しっかりした質の高い睡眠は学業成績を大きく左右することが最近の研究で報告されている。7時間以下の睡眠と夜更かしで成績が最大50%も低下するというのだ。
■よく眠る学生はよく学ぶ
明日のテストに備えて一夜漬けをしたり、どうせなら早めに眠って気力体力を蓄えようという案もあるが、いずれにしても普段から“よく学びよく眠る”学生は学業成績が優秀であることが最新の研究で示されている。
米・マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが2019年10月に「npj Science of Learning」で発表した研究では、学生の生活リズムと学業成績の関係を探っている。
研究チームは同大学の学生100人にウェアラブルのフィットネストラッカー機器(Fitbits)を常に装着してもらい、生活リズムを追跡すると共にそれぞれの学業成績を追跡調査した。
当初研究チームは運動習慣と学業成績の関係をメインに調査する意図があったのだが、実際は運動と学業には関係は見られず、その代わりに良好な睡眠と優れた学業成績の間に強い関係があることが浮き彫りになったのだ。
具体的には規則正しい生活リズムで7時間以上の睡眠をとっている学生は学業成績が優秀である強い傾向があった。この傾向は女子学生に多く、実際に今回調査に参加した学生の中でも女子学生のほうが学業成績が良かった。
睡眠に関してはほかにも興味深い発見があった。試験の前日にぐっすり長時間眠ったとしても、特別成績が良くなるわけではないことも明らかになった。また仮に7時間以上眠っていたとしても、就寝時間が不規則であったり、夜更かし(就寝が深夜2時以降)していたりすると、睡眠の効果は打ち消されることになった。つまりそうした睡眠パターンの学生は成績優秀ではないのだ。
一夜漬けで挽回を図ろうにもやはり普段から“よく学びよく眠る”学生には勝てないということになるのだろう。睡眠の大切さが今一度再確認される話題だ。
■睡眠学習は可能だった!?
睡眠と学業に関する話題としては、これまではかなり“眉唾”モノであった「睡眠学習」がどうやら実際に可能であるらしいことが最近の研究で指摘されているのが興味深い。
スイス・ベルン大学の研究チームが2019年2月に「Current Biology」で発表した研究では、驚くべきことに熟睡状態の時の脳もまた新しい情報を記憶できることが報告されている。
これまでの研究で、睡眠時の脳は覚醒時の体験を反芻して整理・記憶する役目を果たしていると考えられてきたのだが、今回の研究はなんと睡眠時の脳も新しい情報を学習できるという、実にチャレンジングな結論を導き出している。
実験参加者は脳波を測定された状態で眠りに就き、2語の架空の単語(つまり“外国語”)を、母国語の対応語を加えた音声を繰り返し聞かされた。例えば「ゾウ」と「鍵」という意味の“外国語”の単語を母国語と共に何度もリピートされたのだ。なぜ架空の単語にしたかといえば、実在する外国語の単語にした場合、参加者がこれまでに見聞きしている可能性がないとも限らないからだ。
目覚めた参加者は、“外国語”の「ゾウ」と「鍵」を聞かされ、どっちが大きくてどっちが小さいのかが質問された。もし対応する母国語に音なりイメージなりが結びついているのなら正答を言い当てられることになる。
分析の結果、熟睡(deep sleep)状態の時に聞かされた“外国語”の単語は学習できることが示されることになった。つまり熟睡した状態の「睡眠学習」でゾウと鍵のどちらが大きいのかを高い確率で言い当てることができたのだ。
覚醒時の学習と記憶において脳の海馬が活発に働いているのだが、この「睡眠学習」の時も海馬が同様の働きを見せていたということだ。
あくまでも熟睡状態でなければこの「睡眠学習」は可能にならないということだが、将来的には脳波をモニターしながら効果的に英単語などを学習させる機器が登場してくる可能性もあることになり驚くばかりだ。
文=仲田しんじ
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