いわゆる“やせ過ぎモデル問題”が昨今、深刻な社会問題であるとして幅広く共有されてきている。そこで一部のメディアでは、モデルの写真に画像加工を施している旨を明記するようになったのだが、はたしてこれは有効な解決策なのだろうか。
■女性モデル写真の“修正”明示化は逆効果!?
メディアに登場する女性の体型が平均的な女性に比べてかなりスリムで魅力的なボディラインを描いていることが、女性の健康にネガティブな影響を及ぼすとして長らく問題になっている。特に20歳前後の若い女性たちに及ぼす悪影響は深刻で、摂食障害からメンタルヘルスを損なうケースが後を絶たない。
事態を重く見たフランスでは、画像加工を施したモデル写真には「修正写真」のマークを入れることを義務づける法律を施行し、また一部のメディアは自主的に画像加工を施している旨を明記するという事態を迎えている。
しかしこうした対策は本当に功を奏しているのだろうか。カナダ・ヨーク大学の研究チームが2019年11月に「Body Image」で発表した研究では、関連するこれまでに発表された15の研究をメタ分析して、メディアによるそうした免責表明(disclaimer)は、実際にそのモデル写真を見た女性のメンタルを守る効果はないと結論づけている。
15本の研究論文のうち、11の研究では免責表明は、実際に“やせ過ぎモデル”を見てしまった後では当人のボディイメージの不満を軽減していないことが判明した。
一方で3つの研究では免責表明はある程度は、高まるボディイメージの不満を緩和するのに効果的であると報告していて、残る1つの研究では著しく高められたボディイメージの不満に対して免責表明はほんのわずかな緩和作用があると結論づけている。
さらに研究チームは免責表明は総じてほとんど何の効果もないということに加えて、メンタルに悪影響をも及ぼす可能性も指摘している。自分のボディイメージに強い不満を感じ、実際にダイエットなどを行っている女性においては、この免責表明はむしろメンタルを損なうものになり得るということだ。そうした女性においては、免責表明が記載されていないほうがメンタルへの害は少ないのだ。
いずれにしても“やせ過ぎモデル問題”については今後も引き続き慎重な議論が求められているのだろう。
■体型を気にしない人々のとの交流でメンタルに好影響
標準体型の範囲内であるのに、もっと痩せなくてはならないと思って極端なダイエットをはじめて体調を崩すケースは、特に若い女性の間では枚挙に暇がない。自分の体型についての不満感を和らげる簡単な方策はないのだろうか。最近の研究によれば、それはつきあう仲間を変えてみることにあるという。
カナダ・ウォータールー大学の研究チームが2019年1月に「Body Image」で発表した研究では、普段つきあっている周囲の人々が、体型を気にしているタイプなのかそうでないのかで、自分のボディイメージがネガティブにもなればポジティブにもなることを報告している。
実験に参加した17歳から25歳の92人の女子大学生は、7日間にわたって詳しい日記をつけてもらうことが求められた。そして日々の生活の中で、体型を気にしている人と体型を気にしていない人、それぞれの人たちとの交流の様子についても詳しく記述するようリクエストされた。加えて参加者には日々の自分の体型への満足度と、食事内容についても記録することが課された。
7日後に回収した日記の内容を分析したところ、体型を気にしない人々と交流している間は、自分の体型に対しての満足度が高まっていることが明らかになった。より正確には自分もまた自分の体型を気にしなくなったということなのだろう。
また研究チームによれば、体型を気にしない人々と交流する時間が増えると、極端なダイエットやあるいは過食といった乱れた食事が減り、その時の体調に合わせた相応しい食事を摂るようになる傾向もあらわれてくるということだ。
自分の体型への不満は現代社会に蔓延しており、気分、自尊心、人間関係、そして日々の生活に大きなダメージを与える可能性がある。もしより多くの女性たちが自分の体型を気にしなくなれば、社会一般の女性の体型へのイメージがより“緩い”ものになると研究チームは指摘している。とすれば世の女性に加わるプレッシャーが弱まり、メンタルへルスへの好影響も期待できるだろう。自分が体型を気にする人ばかりの“ダイエットグループ”にいると自覚している女性は、人づきあいを考え直してみてもいいのかもしれない。
■男性も体型の問題で深く傷ついている
一般的なイメージとして、男性は自分の体型には無頓着だと考えらえている。体型を気にするなんて“女々しい”ことであるとして普段は意識にのぼらないようにしている男性は多そうだが、しかし実のところ抑圧された意識の底では、自分の体型を深く気にかけていて、満足していない場合は内心で傷ついていることが最近の研究で指摘されている。
豪・クイーンズランド大学の研究チームが2019年10月に「Clinical Psychologist」では、調査を通じて抑圧された男性の体型不満足(body dissatisfaction)の問題の深刻さを暴き出している。
ボディビルダーやダンサーならいざ知らず、一般的な男性は自分の体型などあまり気にしていない印象があり、体型やダイエットの話をするなど“男らしくない”として、当の男性たちもたいてはあまり語ることはないだろう。
研究チームが40人のオーストラリア人男性(17歳~53歳)を対象に行った調査でも、確かに男性たちの多くは体型の問題について男同士で話題にすることはないと回答しているのだが、調査を続けていくと実際には男性もまた女性と同じように体型の問題でメンタルを損ねていることが明らかになった。
女性の事情とやや異なるのは、女性はメディアに登場する女性が比較対象になることが多いのに対し、男性の場合はメディアの影響はあまり受けず、体型の比較対象がもっぱら友人知人、同僚であることだ。そして男性同士では体型の問題がオープンに語られることがないぶんさらに抑圧され、場合によっては女性よりもメンタルに悪影響を及ぼす可能性も秘めているという。
研究チームは今まで話題に上ることがなく、問題とされてこなかった男性の体型不満について理解を広め、この問題をもっとオープンに語れるようになることが、問題解決の第一歩になるとしている。女性だけでなく男性も体型の問題で深く傷ついている実態は広く共有されるべきなのだろう。
参考:「ScienceDirect」、「ScienceDirect」、「Taylor & Francis Online」ほか
文=仲田しんじ
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