年を追うごとに1年があっという間に感じられてきたりはしないだろうか。それもそのはず、我々は30歳を超えると時間が短く感じられてくることが指摘されている。
■15歳から30歳の間は“思い出の最盛期”で時間が濃密で長い
10歳の小学生にしてみれば1年は人生の10分の1を占めるが、40歳にとって1年は人生の40分の1に過ぎない。齢を重ねればそれだけ1年間の“重み”が減ってくるともいえるが、しかしどの1年であれ時間は等しく流れているはずである(うるう年は1日長いが)。
高齢者に人生で最も思い出に残っている出来事を語ってもらうと、その多くは15歳から30歳までの間の人生上のイベントであるという。そして実際、2004年の研究で15歳から30歳の間は思い出の最盛期(reminiscence bump)と定義され、印象に残るイベントの主たる発生源となる時期であることが指摘されている。
人生上の10大イベントのうちの6つがこの時期に集中しているといわれていて、その意味では忘れられない強烈なインパクトを伴う体験を味わう期間なのだ。
『Time Warped』をはじめとする数々の著作を手がけたクラウディア・ハーモンド氏は思い出の最盛期の鍵は“新たな体験”にあるという。15歳から30歳の間、多くの人はそれまでにはなかった新たな体験を連続して味わうことになるということだ。
「若かった時代をよく覚えているのは、そこに最初の就職、両親のいない最初の旅行、最初の実家を離れた生活、最初の性体験など、次々と“新たな体験”を実際に選択する日々であったからです」(クラウディア・ハーモンド氏)
そしてこの“新たな体験”によって時間認識が実際よりも伸びるという。“新たな体験”には意識をフルに使って対処しているので、そのぶん時間が濃密に長く感じられるのだ。そのため若い頃の1年はそれ相応に長く感じられ、逆に“新たな体験”が減ってくる中年期以降は日々の時間が短く感じられ、だんだんに1年があっという間に感じられきてしまうというわけである。
そこで作家のダン・ヒース氏は、第二の思い出の最盛期を意識的に作ることを提唱している。歳を重ねても次々と“新たな体験”に向かいあうことで、青年期の頃のような濃密な時間と新鮮な感覚を取り戻せるという。
「人生の後半に第二の思い出の最盛期を作るのはとても簡単なことです。今すぐ離婚し、仕事をやめ、ニュージーランドに移り住み、羊飼いになればいいのです。そこにはたくさんの新鮮な体験があり、忘れられない思い出が積み重なります。しかし思い出と知恵を混同しないようにしましょう」(ダン・ヒース氏)
ヒース氏はあえて強烈な物言いをしているが、1年があっという間だと嘆くのではなく、人生の後半においても日々の生活を“新しい体験”で満たすことで再びかけがえのない思い出を作ることができるのだ。
■時間管理とは“エネルギーマネジメント”
時間があっという間に過ぎ去ってしまうもうひとつの原因に、ずさんな時間管理もあげられる。昨今は機能的な手帳の活用や、スマホアプリでの“ToDoリスト”の作成などが効率的に行なえるようになっているが、いずれにしてもその盲点となっているのが我々の体の“エネルギー”の状態である。
どんなに効率的なスケジュールを立てても、身体のエネルギーが低いレベルにあれば物事は予定通りに進まないだろう。つまり時間管理とは“エネルギーマネジメント”でもあるのだ。
女性の再キャリア開発を支援するNPO「Path Forward」のエグゼクティブディレクター、タミ・フォーマン氏がこの“エネルギーマネジメント”の6つのポイントを解説している。
1.じゅうぶんな睡眠をとる
睡眠不足はパフォーマンスの低下に繋がり、各種の気分障害や肥満の原因にもなり、ひいては人間関係の悪化にも及ぶ。7時間以上の睡眠時間を前提にスケジュールを組むべきである。
2.運動の習慣をキープする
睡眠の次に身体のエネルギーレベルに影響を及ぼすのが運動だ。朝でも夜でも自分のライフスタイルにあわせ短時間でよいので身体を動かす時間を確保して運動の習慣をキープしておくことが重要だ。運動の前後には水を飲むことも忘れないようにしたい。
3.スマホの電源を切る
スマホをはじめとする携帯端末は持ち歩いているだけでもエネルギーを奪う存在だ。特に1日に何度となく行なうメールや通知のチェックは時間も集中力も奪う。意識的に1日の中でスマホの電源を切ったり、持ち歩かない時間を作りたいものだ。
4.現実的な目標を設定する
ある程度長期的な目標を設定することで時間がさらに貴重になって無為な時間が減る。目標は達成が容易すぎても困難でもダメで、着々と積み重ねることで達成が可能な魅力的なゴールを設定したい。
5.自分に合った有効なアクティビティを探す
運動のスタイルを探すことにも繋がる話だが、生活の中のどんなアクティビティで自分が“充電”できるのかを知ることで時間の使い方がうまくなり生活が豊かになる。掃除をしている時に気分が落ち着くという人もいれば、料理が良い気分転換になるという人もいるだろう。観葉植物やペットの世話などもうまく活用すれば“癒し”の時間になる。
6.スケジュールを柔軟にしておく
スケジュールは可能な限り変更が可能な柔軟なものにしておくことが求められる。エネルギーレベルのコントロールがうまくいっていれば問題ないが、突発的な急用や不測の事態は起きるときには起きるものだ。そういう場合、スケジュールが固定されたものであるとリカバリーがより難しいものになる。できる限り柔軟にスケジュールを組んでいれば、エネルギーレベルの回復に合わせて多少時間はかかってもリカバリーしやすくなる。
エネルギーのマネジメントがそのまま時間管理に繋がるということで、睡眠と運動の時間はしっかり確保しつつ時間を有効に活用したいものだ。
■時間の浪費を避ける7つの指針
お金は増やすことができるが、時間を作り出すことはできない。1年があっという間に終わってしまわないようくれぐれも時間は大切にしたいものだが、能率的な時間の使い方に習熟する一方で、時間を浪費させる物事になるべく関わらない防衛策も時には必要だ。
ビジネスリーダーで作家のエイモン・パーシー氏は忙しいことと生産的であることはまったく別物であることをよく理解しなければならないと指摘している。そして時間を無駄にする物事を回避するための7つの指針を解説している。
1.選り好みせよ
仕事や提案をもっと選り好みして、自分が目指すゴールに関係のない物事を拒絶することに慣れていなかくてはならない。特に時間、リソース、お金の支出が見込まれるる申し出に対してはっきり断ることが求められる。
2.孤立を恐れずタフであれ
友人や味方を多く作ろうとしなくてもよい。タフにゴールを目指し続けることで信頼と尊敬を集め、同時に使える時間も増える。
3.“違い”を理解せよ
一からはじめる仕事なのか、あるいはある程度フォーマットに当てはめてできる仕事なのかをよく理解して区別しなければならない。すぐに終わる仕事はできる限り早く仕上げることで、時間を大幅に節約することができる。
4.公正であれ
意思決定と人物の扱い方においてはできる限り偏見を排する。偏見を持ち込めばそれだけ余計なことを考えるので意思決定に時間がかかる。自分にとってとるに足らぬことであっても、確実にニーズがあったり、他の人々にとって大いに有益であったりする重要な要請を頭から否定しないようにしたい。
5.重要点にのみフォーカスせよ
最も重要なものに集中し取り組むことが求められる。それ以外は人に任せてもよいので、時間を浪費する傾向のある細かい瑣末な問題を避けることができる。こうした取り組みに慣れることで、将来的に効率的で能率的なアウトソーシングが可能になり、より収益指向型にすることができる。
6.誠実であれ
物事に着手する前に「これが私の最期の日だったとしても、これからやろうとしていることをするだろうか?」と問いかけるクセをつける。これを自分に問い続けることで、不必要に時間と資源を消費することがなくなり、機会を創造する活動や人々に目が向くようになる。
7.高潔であれ
提案を受け入れると決断したのであれば、それを尊重して最大限の協力を惜しまずにコミットメントを果たすことで信頼を得て人を動かし、むしろ余計な時間を取られずに済む。
つまり目先の損得などの余計なことを考えずに実直に判断することが、結果的に時間を浪費せずに効率的な取り組みができるということだろうか。今を生きる我々全員に等しく与えられた時間を有効に使いたいものだ。
参考:「Business Insider」、「Forbes」、「Asian Journal」ほか
文=仲田しんじ
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