なぜ“残念な人”になってしまうのか? 不幸を科学する話題3選

サイコロジー

 先進的で豊かな社会に暮らすことが必ずしも幸せに直結しているわけではない。“健康で文化的な生活”を送っていながらもどうして幸せを感じられないのか? 注目すべき考察がいくつか発表されている。

■アメリカ人の7つの不幸のタネ

 世界一の経済大国であるアメリカだが、2021年の「世界幸福度ランキング」では14位だ。世界第3位の経済大国である日本にいたっては56位というお粗末過ぎる順位である。そしてアメリカの中でも冨と夢の象徴であるニューヨークの住民が、最も幸福度が低いというショッキングな報告も発表されている。

●物価上昇に賃金が追いついていない
 いわゆる「リーマン・ショック」の後の大不況(グレートリセッション)に多くの人々が今も苦しめられている。ある調査によれば、アメリカ人の銀行口座の残高は実にその62%が1000ドル(約11万円)以下ということだ。日々の生活はやりくりできても、緊急の出費や大きな買い物への対応がとても難しくなっていることが幸福度を大きく下げる要因になっている。

●処方薬の量が増えている
 アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の調査によれば、この10年で抗うつ剤の処方量が4倍に増えたという。処方箋薬ばかりでなく、違法薬物についても年々流通量が増えていると言われている。薬物に依存した状態で幸福度が高まるはずもないだろう。

●スマホ中毒になっている
 スマホやパソコンなどの情報端末に費やす時間がますます増えている。情報端末の利用に時間をとられることで、特に成長期の子どもたちの感情認識力の養成が妨げられているという。感情面のスキルを養成することは、将来の学業の成就や社会的成功に大きく関わっているといわれている。スマホ中毒に陥ることで感情的な交流が損なわれ、生活の満足度も低くなるのだ。

●国民の半数がストレスを抱えている
 米公共ラジオ局とNPO機関、ハーバード公衆衛生大学院が合同で行なった調査では、対象となった成人2500人をのうちの半数が昨年きわめてストレスフルな出来事を体験したということだ。特に中高年においては健康問題が深刻なストレスになっているという。

●金持ちや有名人の生活を目にすることが増えた
 SNSの普及によっていわゆる“セレブ”たちの生活の一端を垣間見ることができるようになっている。また有名人ではなくとも富裕層がどんな生活を送っているのか、一般庶民にもよりよくわかるようなった。それらの人々の生活と現在の自分の生活とのギャップを痛感させられることで必要のないストレスを受けることになるのだ。

●ゆっくり休んでいない
 アメリカ人といえば社会人でも長い夏休みをとっているイメージがあるのだが、最近の調査では有給休暇の消化率は平均5割ほどであるという。加えてアメリカでは昼休みの休憩時間を労働時間とみなしていない職場も多く、意外なほどに休めていない実態が浮かび上がっている。

●不健康である
 昨年、米国の南部を中心に5つの州で肥満率が上昇しており、今や成人の4分の1が肥満に分類されている。研究者によっては、実際には米国民の3分の1が肥満であると主張する声もある。自分の体重に無関心であること、食事を1人で摂ること、砂糖を摂りすぎていることなどが主な元凶であると考えられているが、やはり健康なくして幸福もないということになる。

「幸福度ランキング」14位のアメリカでこのような事態に直面しているならば、56位の日本ではさらにストレスフルな環境に晒されているのかもしれない。

■“残念な人”の特徴6

 精神的に幸せを感じにくい環境、相対的に幸福度が低くなる社会が問題視されているのだが、外部的要因ばかりでなく当人に問題があるケースもある。自分から不幸を呼び込んでいる人々が少なからず存在しているというのである。

 人生では時に不幸を甘んじて受け入れなければならないこともあるが、味わう必要のない不幸を選ぶことが習慣になってしまっている人々がいる。一度不幸を受け入れてしまうと、習慣化してネガティブなサイクルに陥ってしまうのだ。こうしたきわめて不幸で残念な人に共通する6つ習慣があるという。“残念な人”の特徴をこの機会に確認しておいても無駄ではないだろう。

●被害者意識
 自分には運がなく常に被害者であり犠牲者であると自己憐憫する人々がいる。同情を買うことで周囲と繋がろうとし、不幸の“タネ”が尽きないように無意識のうちに不幸を呼び込んでいる。

●不平不満を愛している
 不平不満をたらたら述べることを実は愛している人々がいる。不幸な体験や問題についての不服を誰かに聞いてもらうことでいったんは気分が収まるため、根本的な問題解決への取り組みが行なわれないのだ。

●批判を極度に恐れている
 相手が何を考えているのか、誰しもある程度は気にするものだが“残念な人”は極度に気にしすぎている。そして自分に対する批判的な意見を受け入れないため、コミュニケーションが成立しなくなり、孤立することでますます不幸になる。

●ゴシップを愛する
 自分の生活に満足が感じられないことの反動で、幸せに見える有名人の生活に訪れた不幸を詮索することに生きがいを感じるようになる。

●連続ドラマ好きである
 連続ドラマのストーリーは往々にして主人公に次から次へと問題が降りかかってくるのだが、その展開を“残念な人”は自分に重ね合わせることができるためこの種のドラマが大好きである。

●人と繋がりたいが孤立している
“残念な人”は人一倍他者との信頼関係を築きたいと望んでいるのだが、傷つくことを極度に恐れているために安定した友人知人関係が保てずに結果的に孤独に陥る傾向がある。

 このように“残念な人”は自ら不幸を招き入れるようなネガティブなサイクルに陥っている。自分にも当てはまるものがないのかどうか、一度検討してみてもよいだろう。

■人生を狂わせる3つの「不合理な期待」

 ではなぜ人は“残念な人”になってしまうのだろうか。もちろん何か大きな挫折体験や事件、事故などがトラウマとなってネガティブな性格になってしまうケースもあるだろうが、実は多くの場合、その考え方に起因しているという。

 とはいっても“残念な人”が決して異常な思想を持っているということではなく、ごく当然な考え方でありながらも少しばかり“踏み外して”いることで結果的に“残念な”方向へと大きく反れてしまっているということだ。いったいどういうことなのか。

 アメリカの臨床心理学者、アルバート・エリスが1955年に提唱した心理療法が理性感情行動療法(Rational emotive behavior therapy、REBT)である。この療法を開発するにあたってエリスは、必要のない不幸を生み出している3つの「不合理な期待」を特定している。一見、当然のことのように見えながらも、実は裏切られるたびにメンタルに大きなダメージを与えるこの3つをよく理解することで“残念な人”になることを防ぎ、また“残念な人”状態から回復するための糸口をつかむことができる。ではその3つの「不合理な期待」を解説しよう。

●「たいていのことはうまくできる」という自分への期待
 あまり挫折体験のない多くの人々は自分自身に高い期待をかけているといわれ、この認識が強ければ強いほど失敗したときのダメージが大きくなる。もちろん1度や2度の失敗で認識が揺らぐことはないだろうが、何度か続くことですっかり参ってしまい、一転して自己嫌悪、自己卑下の傾向が強い性格になり“残念な人”になる。

●「常に正当に扱われる」という他者への期待
 もちろん特別な事情がない限りすべての人は公正に扱われるべきだが、現実は必ずしもそうでないのはご存知の通りだ。それまで公正に扱われるのが当然の学生生活を卒業し、社会人になった時にこの“権利”を大きく踏みにじられる思いを経験する人も多い。そしてこの経験を重ねて精神が落ち込むと共に“敵意”も生まれ、有名人の不幸を喜ぶような“残念な人”へと通じる道が拓けることになる。

●「いわれのない苦難や逆境に向き合う必要はない」という人生への期待
 自分は何も悪いことはしていないのに、ある時人生に苦難や逆境が訪れてきたとすれば確かに理不尽だ。そんな苦難や逆境は対処しなくても良いものだと考えても不思議ではない。さらに進んで自分の望むモノや結果がすぐに手に入るのが当然という認識のままに社会に出る人も少なからず存在するだろう。そのような人はきわめて逆境に打たれ弱い存在でもあり、そのダメージで“残念な人”になるケースもある。

 つまり逆に考えれば、長い人生のなかでは物事がうまくできないこともあれば、この世は前提としてえこひいきされる社会であり、唐突に苦難や逆境に直面することもあるという“現実”を念頭に置いておくことが肝要のようである。ダメージを自分の中で増幅させることのないよう、タフでリアリティのある現実認識を育みたいものである。

参考:「Market Watch」、「Spirit Science」、「Psychology Today」ほか

文=仲田しんじ

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