なぜくしゃみは1回で終わらないのか? 鼻がムズムズするくしゃみの雑学

サイエンス

 生き馬の目を抜くビジネスの現場にあって体調管理はきわめて重要でありましてや風邪などひいていられない。そこで風邪の前兆でもあるくしゃみの話題が最近続いているようだ。

■連続のくしゃみには理由があった

 人前や公共の場所では、くしゃみはなるべくなら1回で終わらせたいものだが、ひとりの時や気兼ねない状況では続けて何度も出たりしないだろうか。それもそのはず、連続でくしゃみが出るのはそれなりにれっきとした科学的、生理学的理由があったのだ。

 何度も連続してくしゃみをするのは、本人にとっても、傍から見ていてもなんだか余計なことをしているようにも思えてくるのだが、決してそんなことはなく、むしろ出るに任せて何度もくしゃみをしたほうが気道のトラブルの根本的解決になるという。つまり鼻に入った刺激物を完全に排出するまでくしゃみは続くのである。

「くしゃみは異物を身体の外に出すための手段なのですから、基本的に鼻に入り込んだ異物を完全に外に出すまで続きます」と科学系メディア「Live Science」に語るのはニューヨークにあるレノックス・ヒル病院の鼻腔専門家、ジョーダン・ジョセフソン医師だ。

 もし3回連続してくしゃみが出たとすれば、最初のくしゃみはまず鼻の中の異物を引き剥がすためで、2度目のくしゃみで異物を鼻先までもってきて、3度目のくしゃみで完全に鼻の外に出すという流れになるということだ。

 現代の生活ではさまざまなモノに囲まれているため、ハウスダストやペットの抜け毛など、くしゃみを引き起こすいろいろな異物が宙を舞っている。もちろんウイルスを体内に取り込まないためにもくしゃみは必要な“防衛反応”で、決してガマンすることなく行いたいものだ。しかし、人のいる場所でくしゃみをする際には、くれぐれも飛沫を散らさないように両手で鼻と口をカバーすることを忘れてはならない。

 もちろん、その後は手と顔を洗うことが望ましいが、外出中などで無理な状況にある場合はハンカチで拭うか、行儀は悪いがシャツの袖で拭うことも、何もしないよりはいいということだ。

■謎の“光くしゃみ反射”とは?

 くしゃみの原因になるのは、空気中を漂う微細物質や菌類だけではない。暗い場所から太陽光や電灯の光に晒されたときにくしゃみが出るという「光くしゃみ反射」という現象がある。明らかに自分もその1人だと自認する人もいれば、言われてみれば心当たりがあるという向きも少なくないのではないだろうか。

 地域によって10~35%の人に光くしゃみ反射の症状があるといわれ、古くは古代ギリシャのアリストテレスの文献でもこの症状が言及されている。1950年代にフランスの医師が目の検査で網膜に光を当てた際にくしゃみをする患者が一定数いることに気づき、この症例の医学的な最初のレポートととなったが、そのメカニズムについては皆目見当がつかない状況が続いていた。

 当初は一種の“条件反射”のように、後天的な学習によって光とくしゃみが結びついているのではないかという見解もあったが、その後に一部の乳幼児にも光くしゃみ反射が認められ、学習したものではなく遺伝的なものであることが濃厚になった。スウェーデンの研究では両親にこの症状があると、子どもの半数にも光くしゃみ反射が見られるという。また2010年の研究では、光くしゃみ反射の症状を持つ人には、ヒトゲノム塩基配列の中の2か所に特徴が見られるといわれているが、遺伝学的にまだ公式には認められていない。

 現在も光くしゃみ反射の謎は完全には解明されていないのだが、同じくスウェーデンの研究によれば、光を感知したことで脳内に変化がおこり、鼻の粘液を多く分泌させる脳の部位を刺激し、その結果くしゃみが出るのではないかという可能性が指摘されている。つまり光くしゃみ反射は“脳内現象”であるということだ。

 一方でスイス・チューリッヒ大学の研究では、光くしゃみ反応のある人と持たない人との脳の活動の比較が行われた。すると光くしゃみ刺激の症状を持つ者は、光に対して脳の視覚野がより活発に働いていることがわかり、こうした“光過敏症”が光くしゃみ反射の要因になっていると示唆している。

 光に対する視覚情報が何らかの影響を及ぼして光くしゃみ反射を引き起こしていると考えられるのだが、ソーシャル掲示板の「Reddit」には、「視覚障がい者の人に光くしゃみ反射があるのか?」という興味深い問いかけが書き込まれている。投稿者は視覚障がい者の人にも光くしゃみ反射の症状を持つ人がいると主張している。もしそうならば、光くしゃみ反射は単なる視覚情報に起因するものではないということにもなり、ますます謎が深まりそうだ。

■セックス中にくしゃみが出る症例も

 くしゃみについての興味深い話題が続いているのだが、くしゃみの仕方でその人の性格がわかるという研究も報告されている。アメリカの研究では、破裂音を鳴らす大きなくしゃみをする人は外交的で感情を表に出す人物であるという。一方、なるべく目立たないように押し殺してくしゃみをする人はシャイで遠慮がちな性格であるということだ。

「くしゃみは笑い声のようなものです。大声で笑う人もいれば、ソフトに微笑む人もいます。くしゃみも同じで、性格的特徴としてたいてい子どものころからずっと同じやり方が続いていきます」と神経学者のアラン・ヒルシュ博士は語る。

 時速160kmにも及ぶというくしゃみの速度だが、その“スッキリ感”は人によっては性的オーガズムに匹敵するほどの快楽をもたらすという。くしゃみと性的な興奮に強い関係があるのではないかという指摘もあり、実際、2008年にイギリスの病院からセックス中にくしゃみが出るという症例が報告されている。これはほとんどの場合、当事者が語らない限りはわからないことなので、実際には一定の割合でこのような人が存在しているのではないかとも考えられる。こうした人のセックス中のくしゃみは概して大きくてうるさいということだ。

 とはいえ、特に女性は子どもの頃にくしゃみをする際になるべく大きな音を立てないようにしつけられるケースも多いため、その場合は必ずしもパーソナリティーを正確に反映するものにはならない。

 イヌやネコなどのペットもくしゃみをすることは飼い主にはよく知られていることだが、ちょっとした“雑学ネタ”として、最もくしゃみをする動物はなんとイグアナである。これはイグアナが特に異物に過敏というわけでなく、体内の塩分を定期的に排出するために行なっていると考えられているようだ。

 ともあれくれぐれも体調管理には気をつけ風邪などひかぬようにしたいものだ。

参考:「Live Science」、「Popular Science」、「news.com.au」ほか

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました