立派な人格者の男性が必ずも女性にモテるわけではないことは、あえて周囲を見回さなくとも(!?)わかるひとつの事実だろう。どうして“いい人”は、その名誉ある称号ほどには女性の気を引かないのだろうか。
■女性は本能的にナルシストの男性が好き!?
将来平和な家庭を築きたい女性ならばもちろん、しっかりとした考え方をした信頼のおける男性をパートナーにしたいと考えるだろう。しかしその一方、ラブロマンスなどに登場するような、どことなく“危険な香り”のする男性に魅かれてしまう心理もありそうだ。
女性の男性の好みは実際のところどうなっているのか。イギリス、ポーランド、フィンランドの合同研究チームが、女性が好む男性像を探る調査と研究を行なっている。
調査では3370人の女性に、2人の男性の写真を並べて見せて、どちらが魅力的かを回答してもらう一連の作業が行なわれた。並べられた2人の男性の写真のうちの一方は、総称してダークトライアド (Dark Triad) と呼ばれる自己愛傾向 (Narcissism)、マキャヴェリアニズム、(Machiavellianism)、サイコパシー (Psychopathy) の3つの反社会的パーソナリティ特性のどれかが現れている顔つきの男性の写真であった。
多くの女性たちによって行なわれた“二者択一”の大量のデータを分析すると、なんと一般的傾向として女性はダークトライアドを体現している男性を好むことが分かったのだ。つまり“危険な香り”のする男性のほうを好んでいるのである。
どちらの男性が好みかという判断に加えて「もしこの男性と結ばれた場合、子どもを何人持つことになるか」という質問も行なわれた。パートナーにすると最も多産になると考えられる男性は、自己愛傾向の特徴を持つ男性であり、これもまた意外な結果かもしれない。
度が過ぎれば反社会的パーソナリティーとなる自己愛傾向、いわゆるナルシスト傾向だが、自分のことを最優先に考えることは、それだけ社会の中(日常生活レベル)でも生存の確率が高いということにもなる。女性としても我が子が少しくらいナルシストであったほうがむしろ安心できるため、ナルシストの男性との間には多くの子どもをもうけたくなるのではないかと研究チームは説明している。
女性は純粋に自分の感情のためというよりも、意識的であるなしに関わらず本能的に将来の我が子のことを考えて“危険な香り”のするナルシストの男性に魅かれる傾向があるということになる。とすれば確かに、場合によっては自分の身を犠牲にするような献身的行動さえも起こしそうな“いい人”に女性があまり魅かれないのはもっともなことかもしれない。
■女性の“性欲”は生理のサイクルで変動
だが“いい人”がいつまでも不利というわけではない。最近の研究では、女性の“男性の好み”は時期によっていろいろ変化していることがわかってきている。
英・グラスゴー大学による2010年の研究では、男っぽさの低いパートナーを持つ女性(異性愛者)は、生理の排卵期においてはパートナー以外の男性(特に男っぽい男性)に魅力を感じてしまう傾向があることが指摘されている。つまり浮気の可能性も高まるのである。そして逆に男っぽいパートナーのいる女性は、排卵期においてパートナーの魅力を再発見するということだ。
では排卵期でない時はどうなのか。通常の妊娠可能期間においては、女性は男っぽさの魅力に関係なく本来のパートナーとの関係を性行為を含めて重要視するということである。つまり女性の性欲は生理のサイクルで変動しているというのだ。
これは“いい人”にとっては朗報となるのかもしれない。女性の特別な時期(排卵期)を除けば、女性はやはり長く付き合ってきたパートナーに親密であるということになるからだ。特に人生が長くなった今日においては、むしろ“いい人”は結局長い目で見れば相応の評価を受けることになるとも言えそうだ。
「妊娠可能期において魅力的な男性のパートナーは女性の性的な興味関心を高めますが、男性的な顔つきの魅力は女性の性欲に(長期的に)大きな影響をもたらすものではありません」と米ニュー・メキシコ大学の進化心理学者、スティーブン・ガンゲスタッド氏は語る。
そして興味深いことに、男性の知能面は女性の性欲に火をつけないという。進化心理学的には当然、知能の高いパートナーの子孫を残すことは遺伝子の生存に有利に働くと考えられるのだが、性的な興味関心において女性は男性の知能面をあまり重要視していないということだ。
しかしながらこれは男性にも言えることで、“一夜の過ち”や“ひと夏の恋”など短い期間の恋模様においては、インテリジェンスよりもフィーリング重視ということになるかもしれない!?
■女性の“審美眼”がシビアな理由
妊娠の可能性が高い時期とそうでな時期では、女性の男性の好みが変化することがわかったのだが、基本的に顔の造作は左右対称に近づくほうがより魅力的に見えることは普遍的な事実であるとされている。特に女性にとっては、お腹を痛めて産む子どもに伝わる遺伝的特徴であるだけに、パートナー候補の顔の作りには特に“審美眼”が鋭くなる。
イギリス・カーディフ大学の心理学者、マイケル・ルイス氏は、最近になって各種の学術研究で活用されている3D映像技術を使って、妊娠の可能性が高い時期の女性が、3D画像の男性の顔をどのように見ているのかを探る実験を行なった。
これまでの同種の実験では通常の2Dの写真を使った実験しか行なわれていない。そしてそのような実験では、左右対称を好むことと、左右対称ではない顔を検知する能力の違いを見分けることはできなかったのだ。
しかし今回は、男性の頭部の3Dのコンピュータグラフィックスを用いて、妊娠の可能性が高い時期の女性の好みを検分する実験が行なわれたのである。データを収集して分析した結果、この時期の女性は左右対称の顔の好みが増しているのではなく、左右対称ではない顔を見分ける能力が向上していることが分かったのだ。つまり整った顔だちの男性をより魅力的に感じているというわけではなく、顔の造作の異変に気づく能力が高まっているのだ。その意味では“審美眼”がよりシビアになっていると言える。
我が子を授かる可能性の高い時期の女性の“審美眼”は、相手の魅力に魅了されるためのものではなく、“はずれクジ”を引かないために高まる能力だったのである。年頃の女性の“お眼鏡”に適うのは、それだけ難しいということだろうか。
参考:「Science Direct」、「Live Science」、「Science Direct」ほか
文=仲田しんじ
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