ご存知のようにさまざまなダイエット法が編み出され、今やその時々にトレンドさえあるようにも思えるが、そもそもどうして痩せなければならないのか。もちろん健康のことを第一に考えてのことにはなるのだが、一方で実にショッキングな“偏見”も社会に根強いことが最新の研究で報告されている。肥満体型の人物は進化が遅れた人間と見られているのだ。
■肥満体型への予想以上の低評価
先進各国において深刻な社会問題になっている肥満なのだが、単なる健康の問題という以上にダイエットが求められているようだ。当人がどんなに社交的で知的な人間であったとしても、太っているままでいれば人間性を疑われるというショッキングなレポートが報告されている。
英・リバプール大学の研究チームが2019年4月に学術ジャーナル「Obesity」で発表した研究では、人々の肥満に対する印象がどれほどまでに悪いのかを実験を通じて探っている。
アメリカ人、イギリス人、インド人の計1500人以上が参加した実験では、一連の人物の写真を見てその人物が生物学的個体としてどれほど“進化”しているのかを100満点で採点する課題を行なった。
写真の人物のBMI値もわかるようになっていたのだが、実験の結果はある意味で想像よりも残酷なものであった。肥満の人物は概して個体として進化しておらず、人間性も低く見られている顕著な傾向が浮き彫りになったのだ。肥満体型の人物は肥満ではない人物よりも平均して10ポイント低い評価であった。
これまでの研究でも肥満体型に対する悪印象は報告されているのだが、これほどまでにあからさまな偏見ともいえる低評価がつきまとっていることを明らかにしたのは初めてのことである。
痩せている人々は肥満体型を特に低く評価していたのだが、肥満体型の人々もまた程度の差こそあれ肥満体型の人物を低評価していることも判明した。ということは肥満体型の人物は自己評価も低いということになる。
もちろん肥満という理由で人を差別してはならないのは言うまでもないが、肥満に対する悪いイメージは人々の間に根深く存在しているのである。良好な社会的交流のためには、やはり標準体型に戻したほうがよいのだろう。
■“ながらスマホ”と肥満に強い関係性
健康のためばかりではなく、SNS全盛時代を迎えている今日、我々はますますダイエットが困難になっているようだ。デジタル機器の使用時間が肥満と深く結びついていることが最近の研究で報告されている。
米・ライス大学、ダートマス大学、オハイオ州立大学の合同研究チームが2019年3月に「Brain Imaging and Behavior」で発表した研究では実験を通じて“ながらスマホ”に代表されるメディアマルチタスキング(media multitasking)と肥満の関係を探っている。
18歳から23歳の132人が参加した最初の実験では、一連の質問によって、いわば“ながらスマホ度”である「Media Multitasking-Revised(MMT-R)」スケールを計測した。このMMT-Rの値が高い者ほど“ながらスマホ”をしがちで、ネットへのアクセス時間が長く、SNSやメールをチェックする頻度が多い。参加者はまた体型の目安となるBMI値と体脂肪が計測された。
収集したデータを分析したところ、MMT-Rスコアの高い者ほど、BMI値が高く体脂肪も多いという有意の関係が明らかになったのだ。
72人が参加した続く実験では、脳活動をモニターする機器であるfMRIにかけられた状態で参加者は一連の写真を見せられた。ランダムな被写体の写真の中には、思わず食欲のわく高カロリーの料理の写真が一定数混ぜられていた。
研究チームはこの料理写真を見た時の脳活動の動きに注目したのだが、MMT-Rの値が高い者ほど食欲に関係しているの脳の部分(腹側線条体と眼窩前頭皮質)の活動が活発になることが突き止められた。これはつまり、MMT-Rの値が高い者は食欲の誘惑に負けやすいのだ。そして実際に高BMIで体脂肪が多いのである。
スマホなどのデジタル機器の普及に比例して肥満率が上昇する現象は世界のどの場所でも起っていると考えられている。研究チームはこの“ながらスマホ”と肥満の強い結びつきへの理解を高めていかなければならないと指摘している。食事をする時くらいはスマホから目を離したいものだがいかがだろうか。
■ハウスダストで太る?
さらに意外過ぎる方向から肥満の原因になるものが報告されている。なんとハウスダストが住人を太らせるというから驚かされる。
いわば人体の“予備バッテリー”としての機能を持つのが中性脂肪(triglyceride)だが、その後も予備のままであると皮下脂肪になって体脂肪率が高まる。主に食べ過ぎ、飲み過ぎでこの中性脂肪が増えるのだが、これまでの研究で特定の化学物質(内分泌攪乱化学物質)に晒されることでも中性脂肪が増えてくることが明らかになっている。
では家庭の中のホコリやチリ、洗濯石鹸や塗料、化粧品などさまざまな化学物質などから構成されるハウスダストは人体の中性脂肪を増やすのだろうか。米・デューク大学の研究チームが2019年3月25日に開催された米国内分泌学会(Endocrine Society)で発表した研究では、ハウスダストが中性脂肪を増やす引き金になっているのかどうかを探っている。
研究チームはノースカロライナ州の194の家庭からハウスダストのサンプルを収集して研究室で分析したところ、抽出された100種の化学物質のうち70が脂肪細胞の増殖と強い関係があり、40の化学物質が脂肪細胞の先駆体の発生を促していることを突き止めた。
ちなみにアメリカ環境保護庁(EPA)によると、子どもたちは毎日60から100ミリグラムのハウスダストを吸い込んでいると推定されているのだが、今回の研究では100マイクロミリグラムのハウスダストでも脂肪細胞の増殖を促進させることが明らかになった。標準的な子どもが1日に晒されるハウスダストの1000分の1でも肥満に繋がるのである。
ハウスダストによる中性脂肪の増加と、その結果引き起こされる肥満は特に成長期の子どもに強い影響を及ぼしていると考えられている。特にある種の化学物質は肥満児と強い関係があると疑われており、今後さらに“主犯格”を突き止める研究が必要とされている。わが子の肥満を心配する親は食事メニューの次にこまめな家の掃除が求められているということかもしれない。
参考:「NLM」、「Springer」、「Science Focus」ほか
文=仲田しんじ
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