もちろん業種や職種にもよるが、決して少なくないデスクワークがますます座りっぱなしの作業実態になってきているようだ。
■オフィスワーカーの75%が座りっぱなしの作業に懸念
オーストラリア・ジェームズクック大学の研究では、オフィスワーカーの75%が座りっぱなしの作業実態に健康への懸念を抱いていることが報告されている。働いている当人も危機感を覚えるような座りっぱなしの仕事は、当初の想定よりも現代の職場環境に広く蔓延していたのだ。研究ではこうした極端に座りっぱなしになる職場では、従業員の健康のためにも何らかの対策が必要であると提言している。
「(140人中)100人のオフィスワーカーが座り仕事が増えるほど健康への悪影響があると報告しています。最も懸念されているのが腰への影響で、次に首、そして筋肉の衰えと続きます。さらに肥満への懸念と、仕事へのモチベーションの低下にも触れています」と研究を主導したテニール・マクガッキン氏は話す。
実際にこれまでの研究でも長時間座りっぱなしになる仕事や生活では循環器系疾患のリスクが高まり平均余命が短くなることが指摘されている。また肥満にも密接に関係しており、2型糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などの呼吸障害に繋がる生活習慣であることも報告されている。
限られた勤務時間のなかで座りっぱなしの状態を解消するためにはなるべく意識的に立ち上がることが研究では提案されている。
職場に一定の時間間隔でアラームを鳴らして立ち上がるように促したり、会議やランチを立って行なえるような環境を整えたりすることも検討に値するということだ。場合によってはスタンディングデスクで立ったままデスクワークを行なうことも選択肢に入ってくるが、これについては生産性への影響を注意深く検証しなければならない。
そしてこうした座りっぱなし解消の“ミニブレイク”は決して一律なものであってはならず、個々の好みやその時のコンディションによって幅広く選択できるように数が揃っていることが重要であるとマクガッキン氏は強調している。
「座りっぱなし解消の手段を自分で選び作業状況をコントロールできていると感じることができれば、このミニ休憩はより効果を及ぼす可能性が高まります」(テニール・マクガッキン氏)
現代の職場環境では運動不足がますます深刻になってきていると言えそうだが、それぞれが自発的に自分に合った手法で座りっぱなしの状態を解消することが求められているようだ。
■見過ごせない“長尻”の健康リスク
1日の大半を座って過ごす生活習慣はこれまでにもさまざまな健康リスクを孕んでいることが指摘されているのだが、最近の研究でまた新たな健康リスクが報告されている。長期に及ぶ座りがちな生活は内臓脂肪を蓄えやすいということだ。
イギリスの国立健康研究所(NIHR)をはじめとする合同研究チームが先日、学術ジャーナル「Obesity」で発表した研究では、124人の実験参加者の内臓脂肪と腹部の脂肪の状態を7日間にわたって詳細に観察した実験が報告されている。
実験参加者はいずれも2型糖尿病のリスクを抱えており、研究チームは7日間の生活実態をウェアラブル機器によって追跡し、加えてMRI機器を使って肝臓などの内臓脂肪と腹部全体の脂肪の状態をモニターした。
収集したデータを分析した結果、年齢や身体活動状況をいったん度外視にしても、座っている時間が長い者ほど内臓脂肪と腹部の脂肪が多くなる傾向が浮き彫りになったのだ。加えてイギリス公衆衛生サービス(PHE)が推奨する週150時間の強度の運動を満たしていない者により強くこの傾向が見られたということだ。
「MRIとウェアラブル機器による観測で、座っている時間が長くなればなるほど、より高い内臓脂肪および腹部脂肪との関連が強くなることが示されました。特に長時間座りっぱなしのまま中断されなかった場合に顕著でした」と研究チームのメラニア・デイビス教授は語る。
日常生活の中で身体活動をある程度は行なっているにせよ、いったん座るとなかなか動かない時間が長いほど、内臓脂肪と腹部全体の脂肪を蓄えるリスクが高まることになる。したがってデスクワークではなるべく中断する機会を意識的に設けたほうがよいのかもしれない。
うっかり何時間も職場で“長尻”してしまった場合、それを運動で埋め合わせることができるのかどうかはまだよく分かっておらず、今後の研究課題になるということだ。いわゆる“エコノミークラス症候群”の恐ろしさは最近よく指摘されるようになったが、長時間椅子に座ったままでいることはこれまで考えられていた以上の健康リスクを孕んでいるようだ。
■少なくとも30分でいったん椅子から外れる
ではどのくらいスパンでいったん席を立てばいいのだろうか。最近の研究によれば、少なくとも30分に一度は席を立って身体を動かすことで、健康リスクを最小限に食い止めることができるという。
米・コロンビア大学の研究チームが2017年9月に発表した研究では、仕事を含め日常生活の中で座って過ごす時間が長過ぎると余命が短縮することが指摘されている。もちろんなるべく椅子に座っている時間が短いほうがいいのだが、ひとつの目安として30分という数字が導き出されることになった。1日の中で30分を超えて座っている時間が多いほど、それ以下と比較して明確な健康リスクを招くということである。
研究チームは45歳以上の実験参加者8000人にそれぞれウェアラブルな計測機器(トラッカー)を一週間のうち最低でも4日間装着してもらい、日常生活の中での移動と運動の実態を計測・記録した。
収集したトラッカーのデータを分析した結果、全体の平均では起床時の中で座っている時間は12.3時間で、連続して座り続けている時間は平均11.4分であった。そしてこの1日の中での座っている時間と、連続して座り続けている時間の長さが、余命を占う有効な指標になることが示唆されることになったのだ。
例えば平均を超えて1日13.2時間座りっぱなしだった人は、座る時間が11.5時間未満の人よりも死亡リスクが2.6倍高く、また連続して座り続けていた時間が12.4分以上の者は、7.7分未満の者よりも2倍の死亡リスクを伴っていたのだ。
したがってもちろん、座って過ごす総時間をなるべく短くして、さらに連続して座り続ける時間もまた短くするに越したことはないのだが、デスクワークが本業であればそんなことも言ってはいられないケースも多々あるだろう。
そこでさらなる分析をした結果、座り続ける時間を30分以内に抑えることがひとつの目安になることが判明したのだ。30分を境にして、それ以内でいったん立ち上がって身体を動かすことでそれ以上座り続けているよりもかなりの差で余命が長くなっているデータが浮かび上がったのである。
学校の授業や映画鑑賞、旅客機などではそれなりの時間、連続して座り続けていなくてはならないが、職場や自宅などではなるべく30分を目途に椅子から立ち上がって軽く身体を動かしたりすることなどが推奨されることになった。デスクワークが主体のオフィフワーカーには考慮に値する話題ではないだろうか。
参考:「James Cook University」、「University of Leicester」、「NCBI」ほか
文=仲田しんじ
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