「もっともらしいウソ」を信じやすいのはどんな人?

サイコロジー

 いわゆる“フェイクニュース”やSNSで拡散するデマ情報が社会問題となっているが、こうした「もっともらしいウソ」にダマされやすい人は、信じやすい性格だからではなく、「もっともらしいウソ」に意味を見出しているからであることが最近の研究で報告されている。

■「もっともらしいウソ」を信じやすい性格特性は?

 人は見たいものを見たいように認識していることが各種の研究で明らかになっているのだが、性格特性によってこうした傾向が高い人々がいる。無作為な、あるいは無意味な情報の中から規則性や関連性を見出す知覚作用のことをアポフェニア(apophenia)というのだが、このアポフェニアの傾向が高い人は「もっともらしいウソ」を信じやすいことが最新の研究で示されている。

 オーストラリア・メルボルン大学とカナダ・ヨーク大学の合同研究チームが2018年10月に「European Association of Personality Psychology」で発表した研究では、実験を通じて「もっともらしいウソ」を信じる度合いと性格特性の関連性を探っている。

 297人の大学生が参加した実験では、各人の知能とアポフェニアの程度を計測する一連のテストを行なった後、さまざまな短い文書が提示されてその文の内容がどれほど信用できるか採点をする課題が行なわれた。

 文章の内容は「もっともらしいウソ」と「ありふれた事実」、さらに「含蓄のある真実」の3種類が混ぜられていた。「もっともらしいウソ」は例えば「隠された意味は比類なき抽象的な美に姿を変える」や「完全性は無限の現象を鎮める」などの意味がありそうでいてナンセンスな文章で、一方の「含蓄のある真実」とは例えば「創造的な大人は生き残った子どもである」などの巧みなレトリックで表現された文章である。

 収集した回答データを分析した結果、アポフェニアの程度の高い者は「もっともらしいウソ」をより信用できるものであると高評価していることが明らかになった。つまり高アポフェニアはダマされやすいということになる。一方で高知能の者は「もっともらしいウソ」をより敏感に見抜いて低評価を与えていることも判明した。

 かといって高知能の者がすべての文章を低く目に評価しているということもなく、「もっともらしいウソ」のみを選んで低く評価していたのである。やはり知能は「もっともらしいウソ」を特定する能力に関係しているということになる。

 その一方で高アポフェニアは総じてどの文章も高評価していたのだが、これは彼らが信じやすい性格だからではなく、「もっともらしいウソ」を見抜く能力がないことによるものであることを研究チームは指摘している。

 実験参加者は大学生のみで規模も小さい実験であることから、あくまでも仮の結論であることを研究チームは認めているが、SNSなどに溢れる「もっともらしいウソ」に我々はもっと敏感であらねばならないと注意喚起を促す話題だろう。

■「もっともらしいウソ」を信じる人は募金しない

「もっともらしいウソ」を信じて高く評価する人物にはまた別の特徴もあるという。それはチャリティーをしないことだ。

 スウェーデン・リンショーピング大学の研究チームが2018年7月にオンライン学術ジャーナル「PLOS ONE」で発表した研究では、「もっともらしいウソ」への評価とチャリティー活動の関係を実験を通じて検証している。

 100人以上のスウェーデン人が参加した実験では、14の文章がどの程度有意義なものであるのかを評価してもらった。半分の7つの文章は「もっともらしいウソ」で、もう半分は文字通り「含蓄のある真実」である。文章は例えば下記のようなものだ。

●川の流れは岩をも切る。それは力によってではなくしつこさによるものである。(含蓄のある真実)

●健康と忍耐が将来の創造性を生み出す。(もっともらしいウソ)

●あなたの教師は扉を開けてくれるが、そこから足を踏み出すのはあなただ。(含蓄のある真実)

●宇宙の固有の経験についての説明できない接触。(もっともらしいウソ)

 こうした文章にどれほど感銘を受けたのか、そのひとつひとつを採点してもらうと共に、実験参加者たちは過去1年間のチャリティー活動や募金行動を尋ねられた。また実験とは別に一連のアンケート調査が用意され、協力するしないは自由だがこのアンケートに回答すると小額のお金が慈善団体に寄付されることになると説明された。つまりチャリティーのために自分の時間が削れるかどうかが問われているのだ。

 回収したデータを分析した結果、「もっともらしいウソ」に感銘を受けて高く評価している者ほど、過去1年間にチャリティーに関わっておらず、またチャリティーを伴うアンケート調査にも協力しない傾向が強いことが明らかになった。一方で「もっともらしいウソ」を見抜いて低く評価した者はチャリティー参加率が高くアンケート調査にも協力的である傾向が浮き彫りになった。

 この結果を踏まえて研究チームは「もっともらしいウソ」への評価が、その人物の向社会的言動(prosocial behavior)を占う指標になると言及している。その人物の社会性、社交性を推し量るにはチャリティー活動やボランティア活動が目安になりそうである。

■ロボットが“フェイクニュース”を拡散

 特にネット上には「もっともらしいウソ」が蔓延っていることが問題になっているわけだが、いったい誰がこうした誤情報を拡散させているのか。実は「もっともらしいウソ」を広めているのは人間というよりもSNS上で自動的に投稿を行なうロボットであることが最近の研究で報告されている。

 米・インディアナ大学の研究チームが2018年11月に「Nature Communications」で発表した研究では、ツイッターでの“フェイクニュース”の拡散にロボットが大きな役割を果たしていることが指摘されている。

 研究チームは2016年5月から2017年3月までの間にツイッターに投稿された1360万件のツイートを分析して、ロボットがどのように誤情報を拡散しているかを探った。そして分析の結果、誤情報を普及させるロボットの“手口”が浮き彫りになったのだ。

 まずはそのスピードである。ある“フェイクニュース”がツイッターに登場した際、その後わずか数秒以内に反応してシェアしたアカウントの半数がロボットであるという。この“最初の一押し”から少なくとも10秒が経った時点で今度は現実の人間のユーザーによってシェアされて拡散されていくということだ。

 これらのロボットが行っているのは、信頼性の低い記事に“感染拡大”する勢いを与える大きな“最初の一押し”をしているのだと研究チームは説明している。

 さらにこの“最初の一押し”に加えてロボットはフォロワーの多い個人のアカウントをターゲットにして目につくところへ誤情報を届けているという。もしこれらの個人がこの誤情報に興味を持ってシェアすればもちろんさらに誤情報が拡散することになる。

 対策としては基本的にはロボットと分かったアカウントをブロックするしかないのだが、最近はロボットを検知するプログラムの精度も上がっているということだ。研究チームがロボットと思われる1万のアカウントを排除したところ、届けられる“フェイクニュース”が70%も減ったという。

 情報の真贋を見極める“鑑識眼”も試されているわけであるが、SNSに偏重し過ぎたライフスタイルもまた見直されるべきなのだろう。

参考:「Wiley Online Library」、「PLOS ONE」、「Nature Communications」ほか

文=仲田しんじ

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