ルックスやスタイルの良い女性を見かければ思わず視線が誘われてしまうものだが、そもそも見知らぬ人をジロジロ見るのは慎みを欠いた行為である。それでも我々の多くがあまり気兼ねなく魅力的な女性を見つめてしまうのは、彼女を人間ではなく“モノ”として見ているからであることが最近の研究で報告されている。
■肌の露出が多い魅力的な女性は“モノ”として認識される
スタイルの良い女性を見かけたり、セクシーなグラビアアイドルの写真が目に入ったりした時、少なくない男性陣は思わず目を奪われてしまうが、そうしたケースでは言葉は悪いがたいていの場合、その女性を“モノ”として見ているという。もちろん褒められたことではないが、我々が魅力的な女性をモノとして見てしまうのは、脳神経科学的にある意味では仕方のないことであることが最近の研究で報告されている。
イタリア・トレント大学をはじめとする研究チームが2019年4月に「Scientific Reports」で発表した研究では、実験参加者に脳活動をモニターする機器(EEG)を装着してもらい、女性と男性の画像を見た時の脳活動を分析している。
実験参加者の男女は、顔と手以外をすべて覆った服装の男女と、水着姿や下着姿など肌の露出が多い男女の画像を見せられてそれぞれ脳活動がモニターされた。我々の脳には人格を持った人間を見た時に活発になる部位と、モノを認識した時に反応する部位がある。
収集したデータを分析した結果、男性にとっても女性にとっても肌の露出が多い女性の人間性を低く感じており、モノに似た存在であると認識していることが突き止められた。一方で男性の場合は肌の露出が多くてもそれほどモノとは見られてはいなかった。そして服装に関わらず全体的に女性のほうがモノに見られやすいこともまた判明した。
もちろん倫理的に女性をモノとして見るようなことがあってはならないのだが、我々の脳はどうしても肌の露出が多い魅力的な女性をモノと見なしてしまうようだ。そしてこうした美しい女性への認識は、我々の従来の文化で期待されているジェンダー観やメディアでの女性の描かれ方によってますます強化されていくのである。
性的モノ化(sexual_objectification)は男性の持つ女性観に影響を及ぼすばかりでなく、女性自身が自らの肉体をモノとして扱うことにも繋がっている。これは摂食障害や性的機能不全、メンタルヘルスの悪化などに結びついていることは明らかだ。こうした認知レベルで刷り込まれてしまっている女性への性的モノ化について、まずは広く理解されることが必要とされているのだろう。
■性的モノ化の“真犯人”は婚約指輪
これまでの文化的通念やメディアでの女性の描かれ方によって女性の性的モノ化が“強化”され、我々の脳活動のレベルにまで刷り込まれているとすれば、もはや変えようがないようにさえ思える厄介極まりない“偏見”ということになる。それでも“フェミニスト”たちは、たとえ僅かずつだとしてもこうした偏見を解きほぐして取り除いていかなければならないと主張している。
そうしたフェミニストの1人が南米・コロンビア出身のマチルダ・シュエスクン氏だ。彼女は婚約指輪の習慣が、女性の性的モノ化の“真犯人”の1人であると“告発”している。
「私は婚約指輪は反フェミニストだと思います。婚約指輪は“独立した女性”という考えに真っ向から対立しています。それは、婚約指輪を持つ女性が他の人間の“所有物”であることを意味しているのです」とシュエスクン氏は「BBC」の取材で語っている。
婚約指輪への憧れと期待は古い世代の観念で、今の若い世代はもはや持っていないと思うのはどうやら大間違いで、実際にシュエスクン氏の娘もいつの間にか婚約指輪を夢見ていることを知ってショックを受けたという。
「私は、社会やメディアが、ビヨンセを引き合いに出して“指輪をくれる”男性について、若い頃から夢見るように女の子たちを教育しているように思えて心配しています。そして女の子たちは結婚生活がすべての問題を解決するという考えで育つのです」(マチルダ・シュエスクン氏)
結婚指輪、そしてその先の結婚を目指すのではなく、女性は自立し、勉強し、成長し、自分自身のために幸せを求めることを目標にするように教育することが重要であるとシュエスクン氏は主張している。婚約指輪については商業主義も大きく関与していると思うが、はたして今後、婚約指輪の慣習が消滅に向かう可能性はあるのだろうか。
■ビールを手にした女性は性的に“モノ化”される
女性の性的モノ化について、婚約指輪のほかにも実に有力な“容疑者”がいるという。その有力候補はなんとビールである。女性がお酒に関係した途端に、“モノ”として見なされやすく、性的な対象にも見られやすいというのである。
米・ウースター工科大学をはじめとする研究チームが2019年5月に「Sex Roles」で発表した研究では、実験を通じてお酒に関わった女性がどのように見られているのかを探っている。
398人の男女が参加した実験では、スタンディングバーで立っている男女の画像を見て、その人物がどれほど酔っているか、どれほど人間性を保っているかをそれぞれ7段階で評価してもらった。写真に写っている人物の手はビールのボトルか、またはミネラルウォーターのボトルが握られていた。
収集した回答データを分析したところ、男性であれ女性であれ、ビールを手にした女性はセックスアピールが強く、その一方で人間性は低く“モノ”として見られがちで、また主に男性にとって性的対象に見られやすくなっていることが浮き彫りになった。
その一方でミネラルウォーターを持っている女性はそのようには“モノ化”されてはおらず、男性については手にしているのがビールであれ水であれ人間性が低く見られることはなかった。
研究チームよれば、我々の文化が持つ固定観念ではアルコールと性的な淫らさが相互に関連しているという誤った認識があるため、これがアルコールに関係した女性の性的モノ化に結びついていると説明している。
ひとまず男性陣にできることは、“酒場の女”といういかにも昭和的な(!?)なイメージの言葉をもはや死語として葬ることだろうか。
参考:「Nature」、「BBC」、「Springer」ほか
文=仲田しんじ
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